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奇妙な水曜日
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翌日は朝からソワソワしていた。部屋を掃除して、花まで飾った。
僕の好きな銀木犀だ。
「良い香り」
時間になり東郷がやってきた。彼は休診日と知らなくて驚いていた。つまり、僕がこの部屋で水曜日に何をしてるのか全く知らないで来たということだ。
――さすがに何も知らずに来たのを襲っちゃ可哀想だよね。今日は大人しくしよう。やっぱり午後に1人呼んでおいて良かった。
そう思いながら窓際の席で紅茶を淹れて診察を始めた。
「出した薬はどうだった?」
「ああ、効いたよ」
「副作用は大丈夫そう?」
「特に無いな」
「じゃあまた同じのを出すね。どれくらい欲しい?」
その後軽くカウンセリングを行ったが、彼の生活にこれといった問題は見つからなかった。それよりも高校時代の懐かしい昔話に花が咲いた。僕は友人なんていないに等しいから、雑談自体久しぶりで楽しかった。
東郷は知り合いも多いし、僕なんかと話したって面白くもないだろうけど。
しばらく話した後東郷はそろそろ仕事に行くと言って立ち上がった。そして入室時に訝しげに眺めていたベッドを再度見て言う。
「何でこの部屋ベッドがあるんだ? ここに住んでるのか?」
「ううん、違うよ。でもここですぐに寝られるようにね」
「ふーん、ずいぶん大きなベッドだな」
「……うん、1人で寝るとは限らないから?」
僕はちょっとだけ東郷を試してみたくなってじっと目を見つめた。
そっちの気がある相手ならすぐにその気にさせられるような媚びた上目遣い。
すると唐突に東郷は笑い出した。
「ふふっ」
「へ? な、なに?」
「いや、そういえば高校の時変な噂を聞いたなと思って」
「噂?」
「そう。西園寺が上級生を誘って誰彼構わず寝てるって」
「あ……」
「知ってたか? お前の綺麗な顔見て変な気を起こすやつがいたから馬鹿げた噂が立ったんだ」
半分は本当の話だ。だけど、東郷はまるっきりガセだと思っていたらしい。
「お前の顔があの時と変わらずあんまり綺麗だからそれを思い出したよ」
僕は絶句してしまった。東郷に綺麗だなんて言われて顔が熱い。
なんてこと言うんだこの男は? 口説くつもりもないくせに無意識でこんなこと言うとは。
「すまない、ただの噂なんだからそんな顔しないでくれよ」
東郷は、僕が噂の内容を恥じて赤面したと思ったらしい。その方が好都合だ。
綺麗と言われて舞い上がって赤くなっているなんて恥ずかしく知られたくない。
僕は俯く。
「噂、半分ホントだよ」
「え?」
「あの時は寝るまではしてなかったけど」
キョトンとした顔の東郷に言う。
「ここで毎週水曜日に男と寝てる」
「え……?」
「恋人じゃない人とね」
「西園寺……?」
東郷が眉根を寄せる。
「軽蔑した? 僕ね、病気なんだ」
「病気?」
「そう、男に抱かれないと死ぬ病気」
「何? 本気で言ってるのか?」
別に今日はこんな話するつもりなかったのにな。
「本気だよ。西園寺の家系に代々そういう病気が出るんだ」
「それが本当だとして、お前は病院に行ってるのか?」
「病院?」
予想外の返答が来て戸惑う。病院に行くなんて考えたことはなかった。
「病気なら病院に行くだろう普通」
「普通……病院行く……かな」
「おい、しっかりしろよ。お前は医者だろう?」
そう言われてみれば、この病気になった女たちは病院になんて行っただろうか?
おそらく誰も行っていない。
行ったとしたら、気がふれて精神病院に入院した人がいるくらいか?
「原因を突き止めようともしていないのか?」
「原因? ……そんなの、うちでは呪いだとしか……」
「ぁあ? 呪い? お前正気か?」
「だって、父さんが……」
「はぁ。西園寺の親父さんは頭が固いし考えが古すぎるとずっと思っていたが息子もそっくりだな」
「そんな――」
東郷は俺の肩を掴んで言う。
「病気なんだろ? ちゃんと治せよ。治せなくても、せめて調べるとかしないとだめだろう」
「……はい……」
「なんで俺が医者に説教してるんだ? あ、そうだ次薬貰いに来るのは二週間後だよな。また水曜日でいいのか?」
「え? あ、え??」
「他の曜日だとゆっくり話せないからまた再来週の水曜に来るからな? それまでに症例とか俺も調べておくから」
「再来週……わかった……」
「今は戦後じゃないんだぞ。呪いだなんてバカげたこと言ってないでちゃんとしろ。じゃあ俺は仕事だから行くぞ」
一気にまくし立てて東郷は立ち去った。僕は部屋に残されて呆然とするしかなかった。
え……何? 再来週またこの部屋に来るって?
「強引な人……」
僕の好きな銀木犀だ。
「良い香り」
時間になり東郷がやってきた。彼は休診日と知らなくて驚いていた。つまり、僕がこの部屋で水曜日に何をしてるのか全く知らないで来たということだ。
――さすがに何も知らずに来たのを襲っちゃ可哀想だよね。今日は大人しくしよう。やっぱり午後に1人呼んでおいて良かった。
そう思いながら窓際の席で紅茶を淹れて診察を始めた。
「出した薬はどうだった?」
「ああ、効いたよ」
「副作用は大丈夫そう?」
「特に無いな」
「じゃあまた同じのを出すね。どれくらい欲しい?」
その後軽くカウンセリングを行ったが、彼の生活にこれといった問題は見つからなかった。それよりも高校時代の懐かしい昔話に花が咲いた。僕は友人なんていないに等しいから、雑談自体久しぶりで楽しかった。
東郷は知り合いも多いし、僕なんかと話したって面白くもないだろうけど。
しばらく話した後東郷はそろそろ仕事に行くと言って立ち上がった。そして入室時に訝しげに眺めていたベッドを再度見て言う。
「何でこの部屋ベッドがあるんだ? ここに住んでるのか?」
「ううん、違うよ。でもここですぐに寝られるようにね」
「ふーん、ずいぶん大きなベッドだな」
「……うん、1人で寝るとは限らないから?」
僕はちょっとだけ東郷を試してみたくなってじっと目を見つめた。
そっちの気がある相手ならすぐにその気にさせられるような媚びた上目遣い。
すると唐突に東郷は笑い出した。
「ふふっ」
「へ? な、なに?」
「いや、そういえば高校の時変な噂を聞いたなと思って」
「噂?」
「そう。西園寺が上級生を誘って誰彼構わず寝てるって」
「あ……」
「知ってたか? お前の綺麗な顔見て変な気を起こすやつがいたから馬鹿げた噂が立ったんだ」
半分は本当の話だ。だけど、東郷はまるっきりガセだと思っていたらしい。
「お前の顔があの時と変わらずあんまり綺麗だからそれを思い出したよ」
僕は絶句してしまった。東郷に綺麗だなんて言われて顔が熱い。
なんてこと言うんだこの男は? 口説くつもりもないくせに無意識でこんなこと言うとは。
「すまない、ただの噂なんだからそんな顔しないでくれよ」
東郷は、僕が噂の内容を恥じて赤面したと思ったらしい。その方が好都合だ。
綺麗と言われて舞い上がって赤くなっているなんて恥ずかしく知られたくない。
僕は俯く。
「噂、半分ホントだよ」
「え?」
「あの時は寝るまではしてなかったけど」
キョトンとした顔の東郷に言う。
「ここで毎週水曜日に男と寝てる」
「え……?」
「恋人じゃない人とね」
「西園寺……?」
東郷が眉根を寄せる。
「軽蔑した? 僕ね、病気なんだ」
「病気?」
「そう、男に抱かれないと死ぬ病気」
「何? 本気で言ってるのか?」
別に今日はこんな話するつもりなかったのにな。
「本気だよ。西園寺の家系に代々そういう病気が出るんだ」
「それが本当だとして、お前は病院に行ってるのか?」
「病院?」
予想外の返答が来て戸惑う。病院に行くなんて考えたことはなかった。
「病気なら病院に行くだろう普通」
「普通……病院行く……かな」
「おい、しっかりしろよ。お前は医者だろう?」
そう言われてみれば、この病気になった女たちは病院になんて行っただろうか?
おそらく誰も行っていない。
行ったとしたら、気がふれて精神病院に入院した人がいるくらいか?
「原因を突き止めようともしていないのか?」
「原因? ……そんなの、うちでは呪いだとしか……」
「ぁあ? 呪い? お前正気か?」
「だって、父さんが……」
「はぁ。西園寺の親父さんは頭が固いし考えが古すぎるとずっと思っていたが息子もそっくりだな」
「そんな――」
東郷は俺の肩を掴んで言う。
「病気なんだろ? ちゃんと治せよ。治せなくても、せめて調べるとかしないとだめだろう」
「……はい……」
「なんで俺が医者に説教してるんだ? あ、そうだ次薬貰いに来るのは二週間後だよな。また水曜日でいいのか?」
「え? あ、え??」
「他の曜日だとゆっくり話せないからまた再来週の水曜に来るからな? それまでに症例とか俺も調べておくから」
「再来週……わかった……」
「今は戦後じゃないんだぞ。呪いだなんてバカげたこと言ってないでちゃんとしろ。じゃあ俺は仕事だから行くぞ」
一気にまくし立てて東郷は立ち去った。僕は部屋に残されて呆然とするしかなかった。
え……何? 再来週またこの部屋に来るって?
「強引な人……」
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