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発作
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東郷はヒステリーを起こした僕にうろたえている。
「西園寺泣くなよ、クソ、泣かせるつもりじゃなかったのに」
東郷に切り捨てられた高校生の僕がその後精一杯やって、なんとか見つけた居場所がこのクリニックだった。
そしてまたその居場所を東郷によって否定される日が来るなんて。
「もう帰って。僕のことなんて放っておいて! 気味悪いって思ってるんでしょう? でもこんな人間だっているんだ! 僕のことをこれ以上否定しないでよ……もう来ないで、帰って! お願い帰って……」
僕はもう顔を覆って泣くことしかできなかった。
自分の息遣いは耳障りなくらいで、悪寒が止まらず全身が震えていた。
「お、おい。本当に具合が悪そうだぞ。救急車を呼ぼうか?」
「はぁ、はぁ、いいから……帰って……」
「こんな状態で置いていけるわけないだろう! どうしたらいいんだ?」
いつも冷静な男にしては珍しくおろおろした様子で僕の背中をさすってくる。
触られるとぞくぞくしてくる。
そんなの決まってる。セックスしたら治るんだよ!
でも勿論東郷にそんなこと言えるわけない。
「健ちゃんに……電話して……蒼井健斗……」
「ああ、わかった」
そして東郷は僕のスマホから蒼井の名前を探して電話をかけてくれた。
僕の代わりに通話している。
「……あ、すみません蒼井さんですか? ああ、私は東郷といいます。今西園寺のクリニックにいるんですが西園寺が発作を起こして……ええ。はい。どうしたら……ええ。え!? いや、それは……はい。いやそんなことできるわけ……! あ、おい! 切れた……」
東郷がスマホを置いてこちらに戻ってくる。
「蒼井さんが今からこっちに向かうって」
「はぁ、はぁ……健ちゃん来るならもう大丈夫……電話ありがとう。もういいから行って」
「しかし……」
「行ってったら!」
僕が怒鳴ったので渋々東郷は立ち上がってこちらをチラチラと伺いながら部屋を出ていった。
これ以上一緒にいられない。近くに来た東郷の匂いをかぐだけで頭がクラクラして正気を保ちきれる自信がなかった。
彼が出ていって少しホッとし、座り込んでいた床から立ち上がろうとテーブルに手をついたら、誤ってティーカップを落としてしまった。
ガチャンと大きな音がしてカップが割れる。
「ちっ、こんなときに……」
僕はしんどい身体を折って破片を拾おうとした。
その時ドアが乱暴に開かれて東郷が駆け込んできた。
「おい! 今の音は!?」
「あっつ!」
僕は驚いて破片を握ってしまい手が切れた。
「危ないじゃないか! おい見せろ。血が出てる」
「あっ大丈夫だから……」
「いまハンカチを……」
「要らない、汚れちゃうってば。こんなの舐めとけば」
「あ、おい!」
僕は制止も聞かずに血が出た指を舐めた。
「馬鹿、それが医者のやることかよ!」
「あれ、止まんない……」
なかなか出血が止まらなくて僕は指をぺろぺろと舐め回した。
「はぁ……んっ」
あれ? やばい。
自分で自分の指舐めて感じてきちゃった……。
ちゅぷ、ぴちゃ……
東郷の目が僕の指先と口元に釘付けになっていた。僕はその目を見ながら自分の指を舐る。
東郷に見られながら指舐めるの気持ちいいな……。
僕はこのとき既に理性を失っていた。
東郷は口を開けて僕のことを見ている。あの口にキスしたい。
逞しい首すじがゴクリと鳴って生唾を飲んだのがわかった。
「蒼井さんが……間に合わないからお前と寝ろって……言って……」
健ちゃんが? 東郷相手になんてこと言うんだよ――。
「そしたら発作が治るって……本当なのか?」
僕は口の中に入れていた指を抜いて答える。
「うん、本当だよ」
「西園寺泣くなよ、クソ、泣かせるつもりじゃなかったのに」
東郷に切り捨てられた高校生の僕がその後精一杯やって、なんとか見つけた居場所がこのクリニックだった。
そしてまたその居場所を東郷によって否定される日が来るなんて。
「もう帰って。僕のことなんて放っておいて! 気味悪いって思ってるんでしょう? でもこんな人間だっているんだ! 僕のことをこれ以上否定しないでよ……もう来ないで、帰って! お願い帰って……」
僕はもう顔を覆って泣くことしかできなかった。
自分の息遣いは耳障りなくらいで、悪寒が止まらず全身が震えていた。
「お、おい。本当に具合が悪そうだぞ。救急車を呼ぼうか?」
「はぁ、はぁ、いいから……帰って……」
「こんな状態で置いていけるわけないだろう! どうしたらいいんだ?」
いつも冷静な男にしては珍しくおろおろした様子で僕の背中をさすってくる。
触られるとぞくぞくしてくる。
そんなの決まってる。セックスしたら治るんだよ!
でも勿論東郷にそんなこと言えるわけない。
「健ちゃんに……電話して……蒼井健斗……」
「ああ、わかった」
そして東郷は僕のスマホから蒼井の名前を探して電話をかけてくれた。
僕の代わりに通話している。
「……あ、すみません蒼井さんですか? ああ、私は東郷といいます。今西園寺のクリニックにいるんですが西園寺が発作を起こして……ええ。はい。どうしたら……ええ。え!? いや、それは……はい。いやそんなことできるわけ……! あ、おい! 切れた……」
東郷がスマホを置いてこちらに戻ってくる。
「蒼井さんが今からこっちに向かうって」
「はぁ、はぁ……健ちゃん来るならもう大丈夫……電話ありがとう。もういいから行って」
「しかし……」
「行ってったら!」
僕が怒鳴ったので渋々東郷は立ち上がってこちらをチラチラと伺いながら部屋を出ていった。
これ以上一緒にいられない。近くに来た東郷の匂いをかぐだけで頭がクラクラして正気を保ちきれる自信がなかった。
彼が出ていって少しホッとし、座り込んでいた床から立ち上がろうとテーブルに手をついたら、誤ってティーカップを落としてしまった。
ガチャンと大きな音がしてカップが割れる。
「ちっ、こんなときに……」
僕はしんどい身体を折って破片を拾おうとした。
その時ドアが乱暴に開かれて東郷が駆け込んできた。
「おい! 今の音は!?」
「あっつ!」
僕は驚いて破片を握ってしまい手が切れた。
「危ないじゃないか! おい見せろ。血が出てる」
「あっ大丈夫だから……」
「いまハンカチを……」
「要らない、汚れちゃうってば。こんなの舐めとけば」
「あ、おい!」
僕は制止も聞かずに血が出た指を舐めた。
「馬鹿、それが医者のやることかよ!」
「あれ、止まんない……」
なかなか出血が止まらなくて僕は指をぺろぺろと舐め回した。
「はぁ……んっ」
あれ? やばい。
自分で自分の指舐めて感じてきちゃった……。
ちゅぷ、ぴちゃ……
東郷の目が僕の指先と口元に釘付けになっていた。僕はその目を見ながら自分の指を舐る。
東郷に見られながら指舐めるの気持ちいいな……。
僕はこのとき既に理性を失っていた。
東郷は口を開けて僕のことを見ている。あの口にキスしたい。
逞しい首すじがゴクリと鳴って生唾を飲んだのがわかった。
「蒼井さんが……間に合わないからお前と寝ろって……言って……」
健ちゃんが? 東郷相手になんてこと言うんだよ――。
「そしたら発作が治るって……本当なのか?」
僕は口の中に入れていた指を抜いて答える。
「うん、本当だよ」
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