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第三章 ~Sランクの緊急任務に参加するということ~
道場訓 二十 闘神流空手に敗北の二字はない
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非合法な魔薬。
この言葉を聞いた冒険者たちは一斉に目の色を変えた。
そして侮蔑と嫌悪が入り交じった目で俺を見てくる。
無理もなかった。
魔薬とは一般的に魔力を回復させる魔法回復薬の類を指す言葉だったが、そこに非合法と付くとまったく事情が異なる。
それこそ非合法な魔薬を服用すれば体内の魔力を暴発させ、通常では考えられない力を発揮できるようになるという。
どれぐらいの力が発揮できるかと言うと、5歳の子供が武装した大人を素手で撲殺できるほどの異常な力が得られるらしい。
他にも非合法な魔薬の特徴として、確か魔力が0の人間の身体能力を一時的に向上させる効果があったはずだ。
要するにキキョウは俺の力を、非合法な魔薬を服用して得られた紛い物の力だと主張したのである。
「とんだ濡れ衣だな。俺が見せた力は正真正銘、俺が持つ空手の力だ。非合法な魔薬の力じゃない」
実際は空手と気力を合わせた複合的な力だったが、気力は魔力と違って使い手が圧倒的に少ない。
正直なところ、ここで気力について説明しても理解されない可能性が高かった。
いや、説明すればすれほど俺に対する風当たりは激しさを増すはずだ。
「黙れ、兄上のいる勇者パーティーから追放された無能者め! どんなに言い逃れしようとも、拙者の目は誤魔化せんぞ! 非合法な魔薬を使わずして、魔力が0の魔抜けにこれほどの力が使えるはずはない!」
やっぱり結局はこうなるんだな。
しかし、こいつは自分が支離滅裂なことを言っていると自覚はあるのか?
「キキョウ・フウゲツだったな……一つ訊きたいんだが、俺はその非合法な魔薬をどうしてこんなところで使わないといけないんだ? 非合法な魔薬なんて本来はダンジョンの下層や闘技場なんかで使われるものだろう?」
俺の指摘にキキョウは「うぐっ」と顔をしかめた。
「そ、そんなことは知らん。拙者は勇者パーティーを追放された無能者ではないのだからな……だが、大方の予想はできる」
キキョウはしどろもどろになりながら言葉を続ける。
「お主は勇者パーティーから追放されたゆえ、そのままでは冒険者として仕事を貰えないと大いに焦った。そこでお主は非合法な魔薬を使ってでも自分の力を周囲に見せつけ、単独の冒険者として独り立ちしようとした。どうだ、図星であろう?」
フン、と胸を大きく張ったキキョウ。
そんなキキョウを見て俺はようやく思い出した。
キキョウには〈天剣の漢女〉とは別な異名があったことに。
〈天然の漢女〉。
いまいちよく分からなかった二つ目の異名だが、本人を前にして二つ目の異名の由来に納得してしまった。
なるほど……身体は強くても頭が弱いタイプか。
だとすると非常に困った。
このようなタイプの人間に理屈はあまり通じない。
それこそ正論を言えば言うほど、話は明後日のほうに向かっていくだろう。
ならば多少強引でも本筋を進めるしかなかった。
「それで? 俺が仮に非合法の魔薬を使っているとして、今の現状をどう打開するんだ?」
俺の質問にキキョウは鬼の首を取ったとばかりに興奮する。
「馬脚を現したな、無能者め! 自分が非合法の魔薬を使っていると認めたな!」
やれやれ、と俺は小さく頭を左右に振った。
「いい加減にそろそろ自分の馬鹿さに気づけ。今の俺たちはこんなところで不毛な言い争いをしている暇はないはずだ。こうしている間にも魔物どもはこの街に向かって来ているんだぞ」
俺の言葉に冒険者たちはハッと我に返ったようだ。
「そ、そうだ。一刻も早くアリアナ大草原に向かわねえと、この街に住む俺たちの大事な友人や家族たちが魔物どもに襲われちまう」
「で、でもよ……俺たちが行ったところで結局は殺されるだけだぜ」
「だとしても、このまま逃げれば敵前逃亡の罪でどっちみち死ぬだろうが。だったら、最後にこの街を守るっていう大義名分を掲げて死のうじゃねえか」
「くそったれ、こうなったらヤケだ! とことん戦ってやろうぜ!」
ようやく自分たちが全うするべき本分を思い出したのか、冒険者たちは自らを奮い立たせるように鬨の声を上げていく。
だが、一部の冒険者たちの間ではまだ微妙な空気が流れていた。
「待て待て。俺たちが防衛隊としてアリアナ大草原に向かったとしても、じゃあそこで誰が一番槍を務めるんだよ」
一部の冒険者たちから出て言葉に、気持ちを高ぶらせていた冒険者たちも閉口してしまう。
一番槍。
このような大規模な戦いにおいて、味方への鼓舞と口火を切る役目を担う部隊もしくは個人のことだ。
もちろん死ぬ確率はかなり高いものの、この役目を生きて果たした者には通常では考えられない名声や報酬を与えられる大役である。
現在においてSSランクの冒険者として活躍している者たちの大半は、こうした一番槍の大役を無事に務めて異例の昇格を果たした者がほとんどだった。
成功すれば破格の報酬が得られるが、失敗すれば確実な死が容赦なく訪れる。
それが戦場で一番槍を務めるということに他ならない。
そして、俺はまさにこういう局面を待っていた。
再びしんと静まり返った中、俺は臆することなく右手を上げる。
「一番槍は俺が務めよう」
これには冒険者たちも大きく目を丸くさせて驚愕した。
本来は公平を期すためクジなどを使って決めるところを、まさか自分から一番槍に志願する人間がいるとは夢にも思わなかったのだろう。
「お、お主……Sランクの緊急任務での一番槍を務めるとは正気か!」
それはキキョウも同意見だったに違いない。
キキョウは信じられないという顔を俺に向けてくる。
「こんなことを冗談で言う奴がいるか。それに一番槍を務めるなら、俺が今回の緊急任務に参加しても文句はないよな?」
冒険者たちは互いに顔を見合わせる。
「ま、まあ……自分から一番槍をしたいっていうんなら俺は文句はねえけど」
「私もよ。どうせ誰かがやる羽目になるのなら、自分からやりたいっていう奴がやるべきじゃない」
「そうだな。それに非合法な魔薬を使っているみたいだし、そう考えると一番の適任者じゃねえのか」
などとざわめきが戻ってきたとき、キキョウは「諸先輩方、お静かに願います」と大声を張り上げた。
「この者の言う通り、今の拙者らには時がありません。なれば急ぎ隊を組んでアリアナ大草原へ向かいましょう。しかしながら一番槍を務めるとはいえ、勇者パーティーを追放された無能者であり、なおかつ非合法な魔薬にも手を出す輩を野放しにすることは断じてできない」
そこで、とキキョウは周囲を見回して提案した。
「このキキョウ・フウゲツにケンシン・オオガミの目付役を任せていただきたい。もしもこの男が一番槍を放棄して少しでも臆病風に吹かれたときには、拙者が責任を持って叩き斬りますゆえ」
そして、とキキョウは高らかに意見を求める。
「同時に今回の陣頭指揮も拙者に任せていただきたいと存じます。諸先輩方よりも若輩の身なれど、拙者は冒険者Aランク。任せていただける価値は十分にあると自負しております」
そう言うとキキョウは、決意の表れだったのか大刀を一閃して見せる。
これには冒険者たちも大いに納得した。
直後、冒険者たちは自分の装備を整えて出陣するために動き出す。
「吐いた唾は飲むなよ、ケンシン・オオガミ」
キキョウは大刀を納刀すると、俺に刀と同じぐらい鋭い視線を飛ばしてくる。
「もうこれでお主はどこにも逃げられんぞ。非合法な魔薬を使ってまで、己を強く見せたかった己自身の弱さをとことん後悔するがいい」
吐き捨てるように言うと、キキョウは颯爽とこの場から去っていく。
やがて、今まで黙っていたエミリアが話しかけてきた。
「ケンシン師匠、本気なんですか? いくら何でもSランクの緊急任務での一番槍なんて危険すぎます」
「お前の言いたいことも分かる。だが、心配するな。俺もお前も絶対に死なん」
俺はエミリアにはっきりと告げる。
「闘神流空手に敗北の二字はない」
この言葉を聞いた冒険者たちは一斉に目の色を変えた。
そして侮蔑と嫌悪が入り交じった目で俺を見てくる。
無理もなかった。
魔薬とは一般的に魔力を回復させる魔法回復薬の類を指す言葉だったが、そこに非合法と付くとまったく事情が異なる。
それこそ非合法な魔薬を服用すれば体内の魔力を暴発させ、通常では考えられない力を発揮できるようになるという。
どれぐらいの力が発揮できるかと言うと、5歳の子供が武装した大人を素手で撲殺できるほどの異常な力が得られるらしい。
他にも非合法な魔薬の特徴として、確か魔力が0の人間の身体能力を一時的に向上させる効果があったはずだ。
要するにキキョウは俺の力を、非合法な魔薬を服用して得られた紛い物の力だと主張したのである。
「とんだ濡れ衣だな。俺が見せた力は正真正銘、俺が持つ空手の力だ。非合法な魔薬の力じゃない」
実際は空手と気力を合わせた複合的な力だったが、気力は魔力と違って使い手が圧倒的に少ない。
正直なところ、ここで気力について説明しても理解されない可能性が高かった。
いや、説明すればすれほど俺に対する風当たりは激しさを増すはずだ。
「黙れ、兄上のいる勇者パーティーから追放された無能者め! どんなに言い逃れしようとも、拙者の目は誤魔化せんぞ! 非合法な魔薬を使わずして、魔力が0の魔抜けにこれほどの力が使えるはずはない!」
やっぱり結局はこうなるんだな。
しかし、こいつは自分が支離滅裂なことを言っていると自覚はあるのか?
「キキョウ・フウゲツだったな……一つ訊きたいんだが、俺はその非合法な魔薬をどうしてこんなところで使わないといけないんだ? 非合法な魔薬なんて本来はダンジョンの下層や闘技場なんかで使われるものだろう?」
俺の指摘にキキョウは「うぐっ」と顔をしかめた。
「そ、そんなことは知らん。拙者は勇者パーティーを追放された無能者ではないのだからな……だが、大方の予想はできる」
キキョウはしどろもどろになりながら言葉を続ける。
「お主は勇者パーティーから追放されたゆえ、そのままでは冒険者として仕事を貰えないと大いに焦った。そこでお主は非合法な魔薬を使ってでも自分の力を周囲に見せつけ、単独の冒険者として独り立ちしようとした。どうだ、図星であろう?」
フン、と胸を大きく張ったキキョウ。
そんなキキョウを見て俺はようやく思い出した。
キキョウには〈天剣の漢女〉とは別な異名があったことに。
〈天然の漢女〉。
いまいちよく分からなかった二つ目の異名だが、本人を前にして二つ目の異名の由来に納得してしまった。
なるほど……身体は強くても頭が弱いタイプか。
だとすると非常に困った。
このようなタイプの人間に理屈はあまり通じない。
それこそ正論を言えば言うほど、話は明後日のほうに向かっていくだろう。
ならば多少強引でも本筋を進めるしかなかった。
「それで? 俺が仮に非合法の魔薬を使っているとして、今の現状をどう打開するんだ?」
俺の質問にキキョウは鬼の首を取ったとばかりに興奮する。
「馬脚を現したな、無能者め! 自分が非合法の魔薬を使っていると認めたな!」
やれやれ、と俺は小さく頭を左右に振った。
「いい加減にそろそろ自分の馬鹿さに気づけ。今の俺たちはこんなところで不毛な言い争いをしている暇はないはずだ。こうしている間にも魔物どもはこの街に向かって来ているんだぞ」
俺の言葉に冒険者たちはハッと我に返ったようだ。
「そ、そうだ。一刻も早くアリアナ大草原に向かわねえと、この街に住む俺たちの大事な友人や家族たちが魔物どもに襲われちまう」
「で、でもよ……俺たちが行ったところで結局は殺されるだけだぜ」
「だとしても、このまま逃げれば敵前逃亡の罪でどっちみち死ぬだろうが。だったら、最後にこの街を守るっていう大義名分を掲げて死のうじゃねえか」
「くそったれ、こうなったらヤケだ! とことん戦ってやろうぜ!」
ようやく自分たちが全うするべき本分を思い出したのか、冒険者たちは自らを奮い立たせるように鬨の声を上げていく。
だが、一部の冒険者たちの間ではまだ微妙な空気が流れていた。
「待て待て。俺たちが防衛隊としてアリアナ大草原に向かったとしても、じゃあそこで誰が一番槍を務めるんだよ」
一部の冒険者たちから出て言葉に、気持ちを高ぶらせていた冒険者たちも閉口してしまう。
一番槍。
このような大規模な戦いにおいて、味方への鼓舞と口火を切る役目を担う部隊もしくは個人のことだ。
もちろん死ぬ確率はかなり高いものの、この役目を生きて果たした者には通常では考えられない名声や報酬を与えられる大役である。
現在においてSSランクの冒険者として活躍している者たちの大半は、こうした一番槍の大役を無事に務めて異例の昇格を果たした者がほとんどだった。
成功すれば破格の報酬が得られるが、失敗すれば確実な死が容赦なく訪れる。
それが戦場で一番槍を務めるということに他ならない。
そして、俺はまさにこういう局面を待っていた。
再びしんと静まり返った中、俺は臆することなく右手を上げる。
「一番槍は俺が務めよう」
これには冒険者たちも大きく目を丸くさせて驚愕した。
本来は公平を期すためクジなどを使って決めるところを、まさか自分から一番槍に志願する人間がいるとは夢にも思わなかったのだろう。
「お、お主……Sランクの緊急任務での一番槍を務めるとは正気か!」
それはキキョウも同意見だったに違いない。
キキョウは信じられないという顔を俺に向けてくる。
「こんなことを冗談で言う奴がいるか。それに一番槍を務めるなら、俺が今回の緊急任務に参加しても文句はないよな?」
冒険者たちは互いに顔を見合わせる。
「ま、まあ……自分から一番槍をしたいっていうんなら俺は文句はねえけど」
「私もよ。どうせ誰かがやる羽目になるのなら、自分からやりたいっていう奴がやるべきじゃない」
「そうだな。それに非合法な魔薬を使っているみたいだし、そう考えると一番の適任者じゃねえのか」
などとざわめきが戻ってきたとき、キキョウは「諸先輩方、お静かに願います」と大声を張り上げた。
「この者の言う通り、今の拙者らには時がありません。なれば急ぎ隊を組んでアリアナ大草原へ向かいましょう。しかしながら一番槍を務めるとはいえ、勇者パーティーを追放された無能者であり、なおかつ非合法な魔薬にも手を出す輩を野放しにすることは断じてできない」
そこで、とキキョウは周囲を見回して提案した。
「このキキョウ・フウゲツにケンシン・オオガミの目付役を任せていただきたい。もしもこの男が一番槍を放棄して少しでも臆病風に吹かれたときには、拙者が責任を持って叩き斬りますゆえ」
そして、とキキョウは高らかに意見を求める。
「同時に今回の陣頭指揮も拙者に任せていただきたいと存じます。諸先輩方よりも若輩の身なれど、拙者は冒険者Aランク。任せていただける価値は十分にあると自負しております」
そう言うとキキョウは、決意の表れだったのか大刀を一閃して見せる。
これには冒険者たちも大いに納得した。
直後、冒険者たちは自分の装備を整えて出陣するために動き出す。
「吐いた唾は飲むなよ、ケンシン・オオガミ」
キキョウは大刀を納刀すると、俺に刀と同じぐらい鋭い視線を飛ばしてくる。
「もうこれでお主はどこにも逃げられんぞ。非合法な魔薬を使ってまで、己を強く見せたかった己自身の弱さをとことん後悔するがいい」
吐き捨てるように言うと、キキョウは颯爽とこの場から去っていく。
やがて、今まで黙っていたエミリアが話しかけてきた。
「ケンシン師匠、本気なんですか? いくら何でもSランクの緊急任務での一番槍なんて危険すぎます」
「お前の言いたいことも分かる。だが、心配するな。俺もお前も絶対に死なん」
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