上 下
20 / 104
第三章 ~Sランクの緊急任務に参加するということ~

道場訓 二十    闘神流空手に敗北の二字はない

しおりを挟む
 非合法な魔薬まやく

 この言葉を聞いた冒険者たちは一斉に目の色を変えた。

 そして侮蔑ぶべつ嫌悪けんおが入り交じった目で俺を見てくる。

 無理もなかった。

 魔薬まやくとは一般的に魔力マナを回復させる魔法回復薬マジック・ポーションたぐいを指す言葉だったが、そこに非合法と付くとまったく事情が異なる。
 
 それこそ非合法な魔薬まやくを服用すれば体内の魔力マナを暴発させ、通常では考えられない力を発揮はっきできるようになるという。

 どれぐらいの力が発揮はっきできるかと言うと、5歳の子供が武装した大人を素手で撲殺ぼくさつできるほどの異常な力が得られるらしい。
  
 他にも非合法な魔薬まやくの特徴として、確か魔力マナが0の人間の身体能力を一時的に向上させる効果があったはずだ。

 要するにキキョウは俺の力を、非合法な魔薬まやくを服用して得られたまがい物の力だと主張したのである。
 
「とんだぎぬだな。俺が見せた力は正真正銘しょうしんしょうめい、俺が持つ空手の力だ。非合法な魔薬まやくの力じゃない」

 実際は空手と気力アニマを合わせた複合的な力だったが、気力アニマ魔力マナと違って使い手が圧倒的に少ない。

 正直なところ、ここで気力アニマについて説明しても理解されない可能性が高かった。

 いや、説明すればすれほど俺に対する風当たりは激しさを増すはずだ。

「黙れ、兄上のいる勇者パーティーから追放された無能者め! どんなに言い逃れしようとも、拙者せっしゃの目は誤魔化ごまかせんぞ! 非合法な魔薬まやくを使わずして、魔力マナが0の魔抜まぬけにこれほどの力が使えるはずはない!」

 やっぱり結局はこうなるんだな。

 しかし、こいつは自分が支離滅裂しりめつれつなことを言っていると自覚はあるのか?

「キキョウ・フウゲツだったな……一つきたいんだが、俺はその非合法な魔薬まやくをどうしてこんなところで使わないといけないんだ? 非合法な魔薬まやくなんて本来はダンジョンの下層や闘技場なんかで使われるものだろう?」

 俺の指摘してきにキキョウは「うぐっ」と顔をしかめた。

「そ、そんなことは知らん。拙者せっしゃは勇者パーティーを追放された無能者ではないのだからな……だが、大方の予想はできる」

 キキョウはしどろもどろになりながら言葉を続ける。

「お主は勇者パーティーから追放されたゆえ、そのままでは冒険者として仕事を貰えないと大いにあせった。そこでお主は非合法な魔薬まやくを使ってでも自分の力を周囲に見せつけ、単独ソロの冒険者として独り立ちしようとした。どうだ、図星であろう?」

 フン、と胸を大きく張ったキキョウ。

 そんなキキョウを見て俺はようやく思い出した。

 キキョウには〈天剣てんけん漢女おとめ〉とは別な異名があったことに。

天然てんねん漢女おとめ〉。

 いまいちよく分からなかった二つ目の異名だが、本人を前にして二つ目の異名の由来に納得してしまった。

 なるほど……身体は強くても頭が弱いタイプか。

 だとすると非常に困った。

 このようなタイプの人間に理屈はあまり通じない。

 それこそ正論を言えば言うほど、話は明後日のほうに向かっていくだろう。

 ならば多少強引でも本筋ほんすじを進めるしかなかった。

「それで? 俺が仮に非合法の魔薬まやくを使っているとして、今の現状をどう打開だかいするんだ?」

 俺の質問にキキョウは鬼の首を取ったとばかりに興奮する。

馬脚ばきゃくを現したな、無能者め! 自分が非合法の魔薬まやくを使っていると認めたな!」

 やれやれ、と俺は小さく頭を左右に振った。

「いい加減にそろそろ自分の馬鹿さに気づけ。今の俺たちはこんなところで不毛な言い争いをしているひまはないはずだ。こうしている間にも魔物どもはこの街に向かって来ているんだぞ」

 俺の言葉に冒険者たちはハッと我に返ったようだ。

「そ、そうだ。一刻も早くアリアナ大草原に向かわねえと、この街に住む俺たちの大事な友人や家族たちが魔物どもに襲われちまう」

「で、でもよ……俺たちが行ったところで結局は殺されるだけだぜ」

「だとしても、このまま逃げれば敵前逃亡の罪でどっちみち死ぬだろうが。だったら、最後にこの街を守るっていう大義名分たいぎめいぶんを掲げて死のうじゃねえか」

「くそったれ、こうなったらヤケだ! とことん戦ってやろうぜ!」

 ようやく自分たちがまっとうするべき本分ほんぶんを思い出したのか、冒険者たちは自らをふるい立たせるようにときの声を上げていく。

 だが、一部の冒険者たちの間ではまだ微妙な空気が流れていた。

「待て待て。俺たちが防衛隊としてアリアナ大草原に向かったとしても、じゃあそこで誰が一番槍いちばんやりつとめるんだよ」

 一部の冒険者たちから出て言葉に、気持ちを高ぶらせていた冒険者たちも閉口へいこうしてしまう。

 一番槍いちばんやり

 このような大規模な戦いにおいて、味方への鼓舞こぶ口火くちびを切る役目をになう部隊もしくは個人のことだ。

 もちろん死ぬ確率はかなり高いものの、この役目を生きて果たした者には通常では考えられない名声や報酬を与えられる大役である。

 現在においてSSダブルエスランクの冒険者として活躍している者たちの大半は、こうした一番槍いちばんやりの大役を無事につとめて異例の昇格を果たした者がほとんどだった。

 成功すれば破格の報酬が得られるが、失敗すれば確実な死が容赦ようしゃなく訪れる。

 それが戦場で一番槍いちばんやりつとめるということに他ならない。

 そして、俺はまさにこういう局面を待っていた。

 再びしんと静まり返った中、俺はおくすることなく右手を上げる。

一番槍いちばんやりは俺がつとめよう」

 これには冒険者たちも大きく目を丸くさせて驚愕きょうがくした。

 本来は公平を期すためクジなどを使って決めるところを、まさか自分から一番槍いちばんやりに志願する人間がいるとは夢にも思わなかったのだろう。

「お、お主……Sランクの緊急任務ミッションでの一番槍いちばんやりつとめめるとは正気か!」

 それはキキョウも同意見だったに違いない。

 キキョウは信じられないという顔を俺に向けてくる。

「こんなことを冗談で言う奴がいるか。それに一番槍いちばんやりつとめるなら、俺が今回の緊急任務ミッションに参加しても文句はないよな?」

 冒険者たちは互いに顔を見合わせる。

「ま、まあ……自分から一番槍いちばんやりをしたいっていうんなら俺は文句はねえけど」

「私もよ。どうせ誰かがやる羽目になるのなら、自分からやりたいっていう奴がやるべきじゃない」

「そうだな。それに非合法な魔薬まやくを使っているみたいだし、そう考えると一番の適任者じゃねえのか」
 
 などとざわめきが戻ってきたとき、キキョウは「諸先輩方しょせんぱいがた、お静かに願います」と大声を張り上げた。

「この者の言う通り、今の拙者せっしゃらには時がありません。なれば急ぎ隊を組んでアリアナ大草原へ向かいましょう。しかしながら一番槍いちばんやりつとめるとはいえ、勇者パーティーを追放された無能者であり、なおかつ非合法な魔薬まやくにも手を出すやからを野放しにすることは断じてできない」

 そこで、とキキョウは周囲を見回して提案した。

「このキキョウ・フウゲツにケンシン・オオガミの目付役めつけやくを任せていただきたい。もしもこの男が一番槍いちばんやり放棄ほうきして少しでも臆病風おくびょうかぜに吹かれたときには、拙者せっしゃが責任を持って叩き斬りますゆえ」

 そして、とキキョウは高らかに意見を求める。

「同時に今回の陣頭指揮じんとうしき拙者せっしゃに任せていただきたいと存じます。諸先輩方しょせんぱいがたよりも若輩じゃくはいの身なれど、拙者せっしゃは冒険者Aランク。任せていただける価値は十分にあると自負じふしております」

 そう言うとキキョウは、決意の表れだったのか大刀を一閃して見せる。

 これには冒険者たちも大いに納得した。

 直後、冒険者たちは自分の装備を整えて出陣するために動き出す。

「吐いたつばは飲むなよ、ケンシン・オオガミ」

 キキョウは大刀を納刀のうとうすると、俺に刀と同じぐらい鋭い視線を飛ばしてくる。

「もうこれでお主はどこにも逃げられんぞ。非合法な魔薬まやくを使ってまで、おのれを強く見せたかったおのれ自身の弱さをとことん後悔こうかいするがいい」

 吐き捨てるように言うと、キキョウは颯爽さっそうとこの場から去っていく。

 やがて、今まで黙っていたエミリアが話しかけてきた。

「ケンシン師匠、本気なんですか? いくら何でもSランクの緊急任務ミッションでの一番槍いちばんやりなんて危険すぎます」

「お前の言いたいことも分かる。だが、心配するな。俺もお前も絶対に死なん」

 俺はエミリアにはっきりと告げる。

闘神流空手とうしんりゅうからてに敗北の二字はない」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

【破天荒注意】陰キャの俺、異世界の女神の力を借り俺を裏切った幼なじみと寝取った陽キャ男子に復讐する

花町ぴろん
ファンタジー
陰キャの俺にはアヤネという大切な幼なじみがいた。 俺たち二人は高校入学と同時に恋人同士となった。 だがしかし、そんな幸福な時間は長くは続かなかった。 アヤネはあっさりと俺を捨て、イケメンの陽キャ男子に寝取られてしまったのだ。 絶望に打ちひしがれる俺。夢も希望も無い毎日。 そんな俺に一筋の光明が差し込む。 夢の中で出会った女神エリステア。俺は女神の加護を受け辛く険しい修行に耐え抜き、他人を自由自在に操る力を手に入れる。 今こそ復讐のときだ!俺は俺を裏切った幼なじみと俺の心を踏みにじった陽キャイケメン野郎を絶対に許さない!! ★寝取られ→ざまぁのカタルシスをお楽しみください。 ※この小説は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

処理中です...