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1、さようなら我がルボス

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「いよいよ明日、出立なのね。思ったよりも準備期間が短くて、本当に大変だったわ。」
「ご苦労様、姉さん。ごめんね、輿入れの準備もしないといけないのに、前日まで引継ぎをお願いして。」

リアムの執務室のソファにぐったりと身を預けながら、システィーナはゆるりと首を振る。
自分が行っていた事業の膨大な引継ぎ資料を、たった1か月で理解できる出来の良い弟に感心すら覚える。

そう、アストリアから定められた期日は1か月。
1か月以内に準備を済ませ、アストリアで行われる結婚式に間に合わせるように、という内容がアストリア国王の求婚書、もとい脅迫状に綴られていた。

通常の国同士の結婚ではありえない申し出に怒りは感じるものの、相手は大国だ。
大陸の端に位置する小国が抗議したところで、到底聞き入れてもらえるはずもない。

しかしながら、ウェディングドレスをはじめとした花嫁道具は用意してもらえるらしく、日常生活に必要な物だけで持って来いというのだから、あちらなりにも最低限譲歩をしたのだろうと言い聞かせる。

「アストリアの国王も妃選びが難航しすぎて切羽詰まってるんだろうな。即位してから、2年経っても妃が迎えられないなんてさ。」

「よその国のことをあれこれ言うのは良くないわよ。」

「姉さんの嫁ぎ先なんだから、よその国じゃないよ。まぁでも、賢姫と名高いといえども、小国のルボスに白羽の矢が立ったのは驚いたけどね。そんなに絶世の美青年なの?たしか、以前顔をあわせたんだよね。」

「どうだったかしら、わたくしのティータイムを邪魔した男の顔なんて、覚えていないわ。」

「はは、まだ根にもってたんだ。まあ、でも、顔が美しすぎるのも問題だね。恋に狂ってしまって、国治を乱そうとする王妃は考えものだしね。」

「あなたも他人事ではないと思うわよ、リアム。」

自分の弟の楽観的な発言に呆れつつ、システィーナは輿入れの最終準備のため重い腰を上げた。



そうして、迎えた出立の日。

「それでは行ってまいります。お父様、お母さま、リアム、皆さま、どうか末永くお元気で。」

遠く離れた国に嫁ぐのだ。恐らくもう二度と祖国の地を踏むことはない。
システィーナは深く長いカーテシーをし、家族や世話になった者たちに向け最大限の礼を尽くした。
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