36 / 60
第三章
第三章 ~『猫カフェオープン』~
しおりを挟むオルレアン公爵家は専属の商人を大勢抱えている。その内の一人、以前シャーロットからドレスをプレゼントしてもらった際に訪れた商店の店主――マーニャに相談すると、トントン拍子に猫カフェの開業は進んだ。
街道に面した好立地にオープンした猫カフェは、デート目的の客ですぐに賑わうことになった。
二号店、三号店が続けてオープンしたが、客足が途絶えることはない。野良猫たちを養っていけるだけの盛況をみせていた。
「エリス様の発想は素晴らしいですね」
早朝、まだお客のいない開店前の猫カフェを、エリスとアルフレッドが訪れていた。
店主のマーニャはエリスと顔を合わせると真っ先に称賛を送った。その行動と口元のニヤニヤから、儲かっているのだと察せられた。
「保護した猫を集めてカフェを開こうなんて、よく思いつきましたね。さすがエリス様です」
「私はアイデアを出しただけですから……」
「そのアイデアが画期的なのです! この街を野良猫被害から救いながら、かつ収益に繋げる。猫カフェ目当てに他の領地から観光客まで訪れるほどですから。エリス様のアイデアは領地に大きな利益をもたらしたんですよ」
褒められて悪い気はしない。特に領地への貢献は、回り回ってアルフレッドのためになるため、役に立つことで充足感も得られた。
「では、エリス様。開店までの時間はお二人の貸し切りですから。楽しんでいってください」
それだけ言い残して、マーニャはその場を後にする。二人と猫たちだけになった空間で中央の座椅子に腰掛けると、ゆっくりと猫たちが近づいてきた。
「人馴れしてきましたね」
「醍醐味の一つとして、お客からの餌やりがあるからだろうな」
アルフレッドはジャーキーを猫の前に差し出すと、一匹の黒猫が齧りつく。美味しそうにジャーキーを味わいながら、機嫌良く尻尾を振っていた。
「ふふ、可愛いですね」
「猫カフェが人気なのも納得だな」
「シロ様にも楽しんで頂かないといけませんね」
猫カフェが成立したのは、シロが野良猫たちを従えたからだ。
最大の功労者に報いるべく、キャリーバッグを開けると、シロが飛び出してエリスの胸元へ飛び込む。甘えるように猫撫で声を漏らしながら、顔を擦り寄せていた。
「いつもより甘えん坊さんですね♪」
「もしかしたら、他の猫に嫉妬しているのかもしれないな」
「ふふ、なら安心してください。私の一番はシロ様ですから」
頭を撫でてあげると、愛情が伝わったのかシロは尻尾を振る。その様子を見守っていたアルフレッドは優しげに微笑む。
「もし子供ができたら、エリスは良い母親になりそうだな」
「お世話するのが好きですからね。アルフレッド様も素敵なパパになりそうです」
「そうだろうか?」
「絶対にそうですよ。私が保証します」
アルフレッドの人格については太鼓判を押せる。彼の子供に生まれたならきっと幸せな人生を過ごせるだろう。
(私のお父様は……良くも悪くも領主としての立場を優先する人でしたからね)
オルレアン公爵家に嫁ぐ前に父から伝えられた計画を思い出す。アルフレッドとの間に子供を設け、呪いで亡き後のオルレアン公爵領を乗っ取るという話だ。
(ですが、その計画はもう崩れたに等しいですからね)
呪いは黒魔術師の気まぐれのおかげか出力が落ちている。回復魔術の治療も順調なため、すぐに命を落とすような心配はない。
(アルフレッド様との間に子供を作り、家族みんなで幸せな人生を送るんですから。お父様の思惑通りにはさせません!)
そう決意した時、アルフレッドの顔色が急に悪くなる。額に玉の汗が浮かび、呼吸が荒くなっていた。
「アルフレッド様?」
「うぐ……っ……」
アルフレッドは心臓を押さえて、その場に倒れ込む。只事ではない反応に、エリスにも焦りが生まれる。
「アルフレッド様!」
彼を抱きしめ、エリスは回復魔術で癒やしの輝きを浴びせる。だが目を覚まさない。今できることは、精一杯、治療することと、回復を祈ることだけだった。
61
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。
黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
お前のような地味な女は不要だと婚約破棄されたので、持て余していた聖女の力で隣国のクールな皇子様を救ったら、ベタ惚れされました
夏見ナイ
恋愛
伯爵令嬢リリアーナは、強大すぎる聖女の力を隠し「地味で無能」と虐げられてきた。婚約者の第二王子からも疎まれ、ついに夜会で「お前のような地味な女は不要だ!」と衆人の前で婚約破棄を突きつけられる。
全てを失い、あてもなく国を出た彼女が森で出会ったのは、邪悪な呪いに蝕まれ死にかけていた一人の美しい男性。彼こそが隣国エルミート帝国が誇る「氷の皇子」アシュレイだった。
持て余していた聖女の力で彼を救ったリリアーナは、「お前の力がいる」と帝国へ迎えられる。クールで無愛想なはずの皇子様が、なぜか私にだけは不器用な優しさを見せてきて、次第にその愛は甘く重い執着へと変わっていき……?
これは、不要とされた令嬢が、最高の愛を見つけて世界で一番幸せになる物語。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる