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第三章
第三章 ~『猫たちを従える聖獣』~
しおりを挟む日が昇るより前の早朝に、エリスたちは街へと訪れていた。住人たちは寝静まっている時間帯であり、行き交う人の姿はない。
アルフレッドにとっても大勢に顔を見られるのはまだ抵抗があるため、人の姿がないのは都合が良かった。
「エリスさんは朝の弱さを克服できたのね」
シャーロットが問うと、エリスは恥ずかしげに頬を掻く。
「いつもより早い時間に寝床に付きましたから……とはいっても、結局、アルフレッド様に起こしてもらったのですが……」
「誰でも苦手なことはあるものよ。頑張っただけでも偉いわ」
「えへへ、シャーロット様は朝が得意ですよね?」
「早朝に狩りに出かける習慣のおかげね。爽やか空気を感じながら剣を振るのが最高なの」
シャーロットは強靭な肉体のおかげで早朝の風を爽やかだと感じていたが、エリスは口から吐き出す息が白くなるほどの寒さに震えていた。
その反応に気づいたからか、アルフレッドがそっと手を握ってくれる。氷のように冷たい手が彼の熱で溶かされていく。
「私の手、冷たいでしょう?」
「すぐに暖かくなるさ。それにエリスと手を繋げるなら、寒さも苦ではない」
「ふふ、無理しないでくださいね♪」
互いの手の熱を伝えるように、指を絡めてギュッと握る。暖かさだけでなく、愛情も流れ込んでくるかのようだった。
「さて、そろそろ作戦を開始するわね」
シャーロットがキャリーバッグを開けて、中からシロを取り出す。飼い主と同じで朝が弱いのか、欠伸を漏らしている。
「シロ様、頑張ってくださいね」
「にゃ~」
シロが街道の中央で背を伸ばし、まっすぐな視線を向ける。そして天を見上げると、響き渡るような声で鳴いた。
甘えるような声ではない。主君が家来に号令を伝えるかのような声だった。
その鳴き声はすぐに変化を巻き起こす。蜂の巣をつついたように、路地裏から野良猫たちが溢れてきたのだ。
集まった野良猫の数は百を超える。そのすべてが主君に平伏す家臣のように、大人しくシロの前で頭を垂れていた。
「やはりシロは伝説の聖獣と同じ力を持っていたな」
「さすが私たちの家族ですね」
「ああ……ただ想定よりも野良猫の数が多いな……」
十数匹なら新しい飼い主を探せる。だが百を超えるとなると簡単には見つからない。どうすべきか悩むがすぐに答えはでなかった。
「このまま街に返せば商人たちが困ってしまうし、森に移しても魔物の脅威があるから根本的な解決にならない。どうするべきか悩みどころだな」
最悪、屋敷で引き取る方法もある。だが百匹を超える大所帯を世話するとなると使用人たちの負担が大きくなるし、それに何より、野良猫たちはシャーロットに怯えながら暮らさなければならなくなる。猫たちの幸せを考えるなら別の方法を模索すべきだった。
「エリスさんはなにか良いアイデアを持ってないかしら?」
「そうだな、エリスなら起死回生の策を思いついても不思議ではない」
「え!」
二人から期待の眼差しを向けられる。過剰評価だと謙遜するのは簡単だ。だがエリスは彼らの期待に応えたかった。
(私には前世の知識というアドバンテージがありますからね)
自分の頭でゼロからアイデアを生み出す必要はない。この世界では存在しない発想を、前世から転用すればよいのだ。
「では、猫さんたちに自分で稼いでもらうのはどうでしょうか?」
「自分で?」
「はい。猫カフェをオープンするんです」
前世では大流行し、まだこの世界には競合もいないビジネス形態だ。エリスの詳細な提案に耳を傾けた二人は、その発想に驚きで目を見開くのだった。
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