ヒロインかもしれない。

深月織

文字の大きさ
23 / 24
【蜜月旅行篇】

はにー・むーん◇06

しおりを挟む
 
 水族館のある海洋博公園にはほかにも興味のある施設がいっぱいで、あそこも行きたいここも見てみたいという欲が出てくる。
 時間に限りがあるのが惜しい。閉館時間が夏場より早いんだ。
 RPGにでも出て来そうな螺旋を描く塔を窓に眺め、食後のお茶をいただきながらあたしたちは今日このあとの相談をしていた。
 あたしが水族館を全然見足りないと思っていたことが頭にあったのか、フミタカさんがジンベイザメに給餌やイルカショーの時間を確認して提案してくる。
「明日もう一回来るか? 空いている時間帯なら、水族館もゆっくり見られるし」
「うーん……でも、やんばるドライブも捨てがたいものー」
 明日は時計と逆回り方向で七〇号線を辿って途中途中でやんばる歩きを楽しんで、最終的に辺戸岬まで夕陽を見に行く予定にしているんだよね。
 そこかしこでもらってきたパンフレットやガイドブックとにらめっこし、よしとあたしは顔を上げる。
「ええとね、そこのドリームセンター回ってー、蘭の花見てー、夕方最後のイルカショーに間に合うように、水族館方向に戻りつつ、時間と人出が大丈夫なようだったら、もっかい水族館入る!」
 テキパキ行けば何とかなるでしょ。そして明日は最初の予定通りに行動です。
「それでいいのか?」
「うん。夕方のほうが空いてるっぽいし、時間ぎりぎりでも結構見られることを期待しとく」
 あ、さっき人が多すぎて買えなかったお土産も購入したいな。ジンベイザメのぬいぐるみを……あたしと茜とみどりちゃん家の分と琴理さんにもあげようかなっ。
 指折りそんなことを呟いていたら、お土産多すぎだろというツッコミが。いいじゃん、たまの機会なんだからー。
 ……今日ホテルに戻ったら、誰に何を買ったかリストして見直そう。
 フミタカさんに知れたら、ほら見たことかと更なるお小言をいただきそうなので、こっそりね、こっそり。

 車は水族館近接の駐車場に置いてきていたので、そのままのんびり――よりも心持ち早めの足運びを意識しながら、まずはさっき見ていた面白い形の塔があるドリームランドへ。
 けっこうな種類の蘭がまだ咲いていて、見ごたえがあった。冬に花が咲いているのを見ると、得した気分になるよね。
 オオオニバスのところではフミタカさんに「鈴鹿なら乗れるんじゃないか」とお約束に持ち上げられかけて、ちょっとした揉み合いに。
 やると思ったんだよ。乗れないからね! これでも成人女子の体重ありますからね!
 特徴ある塔は遠見台だそうで、高さ三十六メートル。ゼイハア言いながら螺旋階段を登った後で、エレベーターに気づくとか。ていうか、フミタカさん知ってたなら言ってよ……!
 周りの植物が南国のものなのもあわせ、ここの風景はちょっと不思議なシチュエーションだった。
「しかしあれだな、天気がいいし歩くから、上着があると少し暑いと思ってたんだが」
「海風けっこう強いねええ寒いねえええ」
 フミタカさんが漏らした言葉にあたしはうんうん頷く。
 日差しはすっごくあったかいんだけど、風はさすがに冷たくて。パーカーの前を合わせて海から吹いてくる風に耐え、景色を堪能したあとはそそくさとエレベーターで下に降りたのだった。
 
「ショー四時からだったよね? あと三十分だよー、座れるかなぁ」
「大丈夫だろ。立ち見でも――鈴鹿、ま」
 ま? とフミタカさんの声を不思議に思う暇もなく、肩に衝撃を受けてあたしはよろけた。
 ふいうちに踏ん張ることもできずバランスを崩したあたしが転ばなかったのは、ひとえに衝撃の原因である物、ではなく人がとっさに支えてくれたからだ。
 急ぎ足だったあたしは、フミタカさんを振り返って話しかけていたために、進行方向にいた人物に気づかずぶつかったらしい。
 ――ま。まえ、前か!
 あたしよく人にぶつかりすぎだよ! 前方不注意注意!
「すみません!」
「びっくりしたー。大丈夫……」
 顔を合わせた加害者(あたし)と被害者(だれか)の「あ」という間抜けな声が重なる。
 二度あることは三度ある? いやなんか違うか。
 ぶつかったのは、空気読めない例の青年そのひとだった。
 ぱくっと口を開けて首を巡らせれば、苦い顔をしているフミタカさん、そしてどういう顔をすればいいかわからないと言った感じの美人彼女さんがこちらを見ていて。
「……えーと……奇遇?」
「また会っちゃたねー」
 ヘラッと能天気に笑う彼に、ひきつった笑いを返す。
 いや、同じところに泊まってるし、そこから観光地を回ろうと思ったら行動範囲がある程度一緒になるのはわかるんだけど。
 なんでこう彼らとばっかり重なっちゃうのかな! 間違いなく厄介ごとがやって来るよ!
「なんかこう、偶然も重なると運命感じちゃうね」
 唯が三回くらいで運命を語るな! というか彼女連れのくせに新婚夫婦の片割れに誤解を招く意味合いのことを言うな。
 ニコニコと人懐っこい笑顔の男は、絶対何も考えていない。
 一対一ならナンパだと思われるような言葉を口にして、それを耳にした我が旦那様とか恋人である彼女さんがどう思うとか、まっっっったく、考えていないに決まっている。
 気の利いた洒落のつもりなのか、コラ。
 一番こういうとき何か言いそうなフミタカさんは、どういうわけだか彼とは絡まないと決めたらしい。
「鈴鹿、間に合わなくなるぞ」
 リアクション無視で、時計を指先で叩いて知らせてくる。
「あああ! イルカ!」
「え、なになに? 何事?」
「ぶつかってすんませんっした! 急ぐのでこれで!」
 微妙に会話ができない相手といちいち話し込んでいては目的に間に合わない。
 失礼は承知で荒い詫びを入れ(彼女さんには九〇度のお辞儀をし)、あたしとフミタカさんは手を繋いで走り出す。
 別に逃げるようにしなくても、って頭のスミでおもったんだけど、そこは勢いっていうか。
 だってイルカちゃんが待ってるんだものー!
 バタバタと順路を走り通してショーの場所まで駆け込み、周囲の人に不思議そうに見返されつつ、何とか席を確保。
 はあやれやれと息をつき、顔を上げるとフミタカさんの愕然とした表情が目に飛び込む。
 なんだどうしたと訊ねようと、口を開き――人の気配をすぐ後ろに感じて口を閉ざす。
「あー疲れたああ! 全力疾走なんて久々だー! 敦子さん、大丈夫?」
「…………」
 彼女さんは何も答えられないようだよ。
 どすん、とあたしたちの後ろに腰を下ろしたカップルは、なんというか、彼らだった。
 ――なんでついて来てる……!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

処理中です...