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邂逅

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「ご苦労。よく天使を見つけた」
泉から天使が逃げないように見張っていたルフの分身体に声を掛ける。

「結界を破れず捕まえることまでは出来ませんでした」

「逃げられなければ問題ない。中にエルクがいるんだったな?」

「はい。精霊の子に連れられてエレナ様と一緒に入っていきました。10日程前のことになります」

「それならお前はいない方がいいだろう。姿を変えているからバレないだろうが、バレたら面倒だ。俺がお前を倒した方にするから、この分身は消せ」

「かしこまりました」
ルフの分身は返事をして姿を消す。

ルフの話だとあそこの川に転移陣があるそうだが、このままではロックが掛かっているようで転移出来ないようだ。
無理矢理俺が通れるようにするのはそこまで難しくないが、天使に喧嘩を売りたいわけではない。
喧嘩を売ってもいいが、とりあえず転移陣の先に声だけ飛ばしてみることにする。

「ここの主に用がある。近くにいた悪魔は倒しておいたから、入れてくれないか?」
ちゃんと中にも聞こえただろう。しばらく経っても入れるようにならなければ侵入すればいい。


「精霊様ノ匂イ」「出迎エル」「怖イ人イナイ」「入リ口コッチ」
しばらく待ってると、川からぞろぞろと精霊の子がやって来て俺を歓迎する。

「案内してもらおうか」

「お師匠様、そこに誰かいるのですか?」
ルイナには見えも聞こえもしていないようだ。

「こいつは信用出来る俺の弟子だ。一緒に案内してくれ」
俺の頼みでルイナにも精霊の子が見えるようになる。

「川ニ潜ル。泉出ル」
精霊の子に言われたとおり転移陣をくぐり、目的の人物を見つける。

「悪魔を追い払っていただきありがとうございます」
天使が俺達を見て一瞬驚いた後、何事もなかったかのように礼を言う。
俺のことは感知出来ていなかったのだろうと予想する。

「たまたま見かけただけだから気にするな。ここは精霊の泉だろ?精霊はいないのか?」
エルクとエレナの方をチラッと見てから天使に答えのわかっている問いをする。

「今は私がここの管理をしています。あなたのことをお聞きしてもよろしいですか?悪魔と戦えるだけの実力をお持ちだということも気になりますが、私のことをご存知のご様子ですね」
天使が答え、質問を返す。自分が精霊だという嘘は吐かないようだ。

「俺はリュート。遠い昔にお前の上司からこの地に送られた勇者だ」

「えっ!?」
俺の言葉に驚いたのは天使ではなくエルクだ。
天使が驚かないということは、リュートがこの地に来る前からずっと天界に戻っていないということだろう。

「俺のことを知ってるのか?」
俺はエルクに聞く。エルクは以前王子から勇者の話を聞いているから、勇者という言葉に反応したのか、それとも勇者ということで同じ地球人だということに反応したのか。

「勇者について聞いたことがあるだけです」

「勇者が魔王を殺して人魔戦争が始まったという話か?」

「そう……です」

「その話には決定的に間違っていることがある。真実を知りたいか?」

「……大丈夫です」
深入りはしないようだ。

「話が逸れたな。天使のお前がどうしてここにいるんだ?ここの管理は精霊の仕事だろう」

「精霊が不在なので、次の精霊が現れるまで代わりを務めているだけです」

「恩義せがましく言っているが、お前がここにいたらいつまでも精霊が現れることはないんじゃないか?この空間が崩壊しそうになった時に、精霊の子が危機を感じて集まって1人の精霊になるんだからな。まあ、そんな些細なことはどうでもいい。俺は天界に行きたいんだ。お前も本当は帰りたいんじゃないか?」
俺が天使を探していた理由は門の開閉だ。前回ドラゴンの首を投げ入れたことで天界がどこにあるかはわかっているが、入り口は見つからず、転移することも出来ない。

「確かに私がここを去れば新たな精霊が生まれるかもしれません。しかし、必ずではありません。生まれなければこの子達は死んでしまいます。傷ついた体を癒す為にこの地をお借りした責任として、新たに精霊が生まれるまでは私はここを去ることは出来ません」

「お前が傷ついたのは悪魔にやられたからか?」

「あの頃は今と違い多くの悪魔が暴れていました」

「悪魔程度に負けたことで天界に帰りづらいだけだろうが、こいつらの為だということにしておいてやる。精霊が生まれればここを出て天界に帰るんだな?」

「私がここにいる必要はなくなりますが、この翼では満足に飛ぶことは出来ませんので帰ることは出来ません」

「天界には俺が運んでやるから問題ない。お前は門だけ開けてくれればそれでいい。とりあえず、精霊を誕生させるか。ルイナ、精霊の子を全員亜空間に捕まえてこい」
ここで天使を実力行使で攫ってもいいが、極力穏便に進めるつもりで行動する。

「わかりました」
ルイナが近くにいた精霊の子から順に回収を始める。

「酷いことはしないでください」
天使に言われるが、元からここの住人に危害を加える気はない。

「精霊にするために集めるだけだ。他意はない」

「あなたが天界に行きたい理由をお聞きしてもよろしいですか?私も帰れるなら主の下に帰りたいです。しかし、理由も聞かずにあなたを案内するわけにはいきません」
当然の問いがくる。

「俺が勇者だという話はさっきしたはずだ。元々神によって俺はこの地に連れてこられた。元の世界に戻してもらう為に神に会わなければならない」
本心とは違う用意しておいた答えを返す。

「本当のことを言っていますか?あなたからは良くない空気を感じます。あの子達が連れて来てしまっただけで、出来ることならここに入れるつもりもありませんでした」

「バレているなら隠す必要もないか。俺は神に恨みがある。一発殴ればスッキリするのか、消滅させないと気が済まないのかはわからないが、まずは会わなければ始まらない。案内人として天使を探していた」
穏便に進める方針は変更だな。

「そのような方を連れて行くわけにはいきません」
当然天使には案内を断られる。

「お前らは神に対して怒りは感じないのか?神の怠慢で毎年何人もの村人が命を落としている。その尻拭いをお前らはしているんだぞ?」
エルクとエレナに話を振る。

「神はいつでも私達を見てくれています」
エレナが教会の連中が言いそうな答えをする。

「見てるかもしれないな。それで、神が何かしてくれたか?お前も神に対して思うところはないのか?」
エルクに問う。

「思うところが無いとは言わないけど、お兄さんのような怒りはないよ」
エルクが答える。俺と一緒に神への怒りも抜けたようだ。

「そうか。同志となれずに残念だ」
エルクは元のエルクへと戻っていっているようで安心だ。

「お師匠様、集め終わりました」
いいところでルイナが戻ってくる。

「ご苦労。後は任せろ」
ルイナの亜空間に介入して、精霊の子達に各種強化魔法を掛ける。
閉ざされた空間の中に自分達を導く者がいなければ、自分達でなんとかしようと集まって一つの存在になる。それが精霊の子の本能だ。強化魔法でサポートしてやれば失敗することもない。

「成功だな。出してやれ」
精霊の子が集まり1つの生命体になったので、ルイナに外に出させる。

「はい」
ルイナが返事をして、美しい女性が現れる。頭には精霊の子にもあった角が生えており、姿が半分透けているが、それ以外は普通の人と外見は変わりない。
今は精霊となった反動で気を失っているが、目を覚ませば新たな精霊の子を作りここの管理を始めるだろう。

「これでお前がここにいる理由は無くなったな。一緒に来てもらおうか」

「お断りしたはずです。私がここから出ることと、あなた達に協力することは別の話です」

「お前の意思は聞いていない。お前の意思を汲んでここに精霊を生まれさせただけで、元より手段を選ぶつもりはない。穏便に済むならその方がいいと話から始めただけだ」

「実力行使がお望みならお相手します。悪魔を討伐していた全盛期には劣りますが、下界の民に遅れを取るほど腕は鈍っていません」
天使が光の剣を作り出し、ブンッ!っと振って構える。

「はっ、実力差もわからないのに俺に勝てるつもりなんて滑稽だな」

「笑っていられるのも今だけです。あなたを生かしておいてもろくな事になりません。主の下へと送ります」
天使が光の剣を俺の心臓に突き刺そうと光速ともいえる速さで向かってくるので、そのまま受ける。

「防護魔法も突破出来ていないみたいだが、これで本気か?それじゃあ捕まえさせて……おっと」
光の剣は俺の胸の前で止まっており、天使が押し込もうと力を加える事で震えるだけで、先には全く進まない。
魂の牢獄を使おうと天使の首を掴もうとした所で、俺を覆うように水の膜が張られたので反射的に手を引く。
水の檻に閉じ込められたようだ。

「状況がよくわからないけど、捕まえから詳しく話を聞きます。触ると怪我します。2人とも動かないでください」
エレナが一歩前に出て忠告する。
俺だけでなく天使も水の檻に囚われている。
光の剣が消滅したことから、天使の聖魔法よりもエレナの水魔法の方が実力は上だな。

エレナと敵対するつもりはなかったが、これは仕方ないかもしれないな。
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