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side エルク②
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「ぼーっとして、大丈夫?」
冬から春への季節の変わり目、村から村への移動中に考え事をしているとお姉ちゃんに心配される。
「大丈夫だよ。ちょっと考え事をしてただけ」
「最近よくぼーっと何もないところを見ているのを見かけるわよ。何か困ってることがあるならちゃんとお姉ちゃんの私に言うのよ」
「ありがとう。でも本当に大丈夫だから、困ったことがあったらその時に相談するね」
「約束だからね」
「うん」
お姉ちゃんと約束したけど、本当は悩みはある。今のところ困ってはいないけど、なんだか昔というか、前世のことが思い出せなくなってきている。
この世界に来てから引き出した記憶は残っているけど、その他のどうでもいいような記憶を思い出すことが出来ない。
「助ケテ。困ッタ。助ケテ」
実は前世の記憶というのが死にかけていた僕が見た夢で、実際には前世の記憶ではなく、僕の作った幻想だったのではないかと疑っていると、どこからか助けを求める声が聞こえる。
「止めて。今何か声が聞こえたよね?」
僕は操舵していたラクネに馬車を止めてもらい、馬車を降りる。
「声なんてした?」
お姉ちゃんには聞こえてなかったみたいだ。
「したよ。助けてって聞こえた」
僕は答えるけど、お姉ちゃんがラクネとリーナさんの方を見ると、2人は首を横に振った。
「助ケテ」
「ほら、やっぱり聞こえる。こっちからだよ」
また声が聞こえたので、声のする方に僕は走る。
「待ちなさい。声なんてしてないわよ」
お姉ちゃんが僕に止まるように言う。あの声は僕にしか聞こえていないようだ。
街道から少し外れた草の生い茂る方へと進み、声の主を見つける。
手のひらの上に乗りそうなほど小さな鬼がいた。オーガやゴブリンのような邪悪そうな顔はしておらず、マスコットキャラのような愛くるしさがある。
「君が僕を呼んだの?」
「困ッタ。精霊様ノ匂イ。助ケテ。助ケテ」
小鬼はぴょんぴょんと飛び跳ねながら僕に訴える。
精霊様って誰だろう?
「この子が僕を呼んでたみたい」
小鬼をつまんで手のひらに乗せて、追ってきていたお姉ちゃんに見せる。
「この子ってどの子よ」
お姉ちゃんは目を細めて僕の手ひらの上を見る。
「ここにちっちゃい鬼がいるのが見えない?」
「見えないわよ」
「何で僕にだけ見えるのかな?」
「人間怖イ。捕マッタラ売ラレル」
小鬼が僕の疑問に答える。何か魔法か何かで隠れてて、僕にだけ見えるようにしているのだろう。
「僕も人間なんだけど……?」
「精霊様ノ匂イ。心配ナイ」
「何1人でぶつぶつと喋ってるの?本当に大丈夫?どこかで休んだほうがいいかな」
小鬼が見えていないお姉ちゃんに僕の頭を心配される。
「大丈夫だよ。僕にしか見えないように隠れてるみたい。何に困ってるのか知らないけど、僕は今お姉ちゃん達とお腹を空かせている人を助ける旅をしているから、僕しか信用出来ないなら助けるのは無理だよ。この場ですぐに出来ることならいいけど……」
ここで僕だけ別行動するつもりはないので、とりあえずお姉ちゃん達にも見えるように姿を現してくれないと困る。
「精霊様ノ匂イ信ジル」
「!?何この子、かわいいわね」
お姉ちゃんにも小鬼が見えるようになったようだ。
「止メロ。突クナ」
お姉ちゃんにつつかれた小鬼はとてとてと僕の腕を走り肩に乗る。逃げたつもりかもしれないけど、全く逃げれていない。
「それで、何に困ってるの?」
「怖イ人イル。泉カラ出ラレナイ。退治シテ」
「泉なんてこの辺りにあったかな?」
「私は聞いたことないわ」
「君は泉から出てるみたいだけど……?」
ここが泉だというわけでなければ、すでに小鬼は泉から出られているみたいだけど……。
「匂イ釣ラレタ。シマッタ」
小鬼は頭を抱えるポーズをする。僕の匂いに釣られて泉からいつの間にか出ていたってことなら、だいぶこの小鬼は短絡的な思考をしている。
「その泉は近くにあるの?」
「アノ川ノ底」
小鬼が見る方向には確かに川がある。あるけど、子供の僕でも膝くらいまでしか浸からないくらいの浅い川だ。
少し前にここよりも上流で休憩した時に見たから間違いない。
川の底に泉があるっていうのもよくわからないし、どうしたらいいんだろう。
「どうする?」
僕は旅のリーダーであるお姉ちゃんに判断を仰ぐ。
「よくわからないけど、困ってるなら助けてもいいのかな?悪そうな魔物じゃないし……」
「魔物違ウ。使イ魔」
小鬼は否定するけど、何がどう違うのかは不明だ。
「リーナとラクネちゃんにも相談して決めようか。川に入るなら馬車もなんとかしないといけないし」
「馬車入レル」
確かに浅いから馬が溺れはしないだろうけど、あまり冷たい川に馬を入れたくないんだよ……ということを小鬼は分かってないのかな?
疑問が色々と残ったまま小鬼を連れて馬車に戻り、ラクネとリーナさんに突然走り出したことを謝ってから説明する。
話し合った結果、村に食料も早く届けたいし、僕とお姉ちゃんだけ馬車を降りて別行動することになった。
身体強化して走れば後からでも追いつくだろうという話で、合流するまでは今まで散々してきたルート変更は無しにしようと約束する。
「どうやって泉に行けばいいの?」
小鬼に確認する。
「川ニ潜ル」
「川の底に泉への抜け道でもあるの?」
見える範囲に泉が無いってことは、地底に泉があるのだろうか?見えないくらい遠い所に繋がってるのは息が持たないから行くのは無理だ。
「抜ケ道違ウ。頭マデ潜ル。泉ニ出ル」
意味が分からないけど川まで歩き、念の為に防寒魔法を掛け直してから言われた通り浅い川に潜る。潜るというより、頭まで浸かる為に横になるといった方が正しいかもしれない。
少しそのまま水の中で待機してから顔を上げると、そこは先程までの街道近くの川ではなく、花畑に囲まれた泉だった。
足はつくけと、水深もあの川よりも深くなっている。
何が起きなのか分からないけど、目的の場所には着いたようだ。
すぐにお姉ちゃんもやって来る。誰かが水の中にいた気配は無かったのに、急に水面から顔を出した。
「人間来タ。逃ゲロ。逃ゲロ」
泉の近くにいた小鬼達が一斉に逃げ出す。
「精霊様コッチ」
僕達を連れて来た小鬼が僕の服のポケットから顔を出して大きな木がある方を指差す。
泉から出て、魔法で服を乾かしてから大きな木まで歩く。
そこには白いボロボロの翼を生やした女の人がいた。
「ようこそおいで下さいました。その子が勝手なことをして申し訳ありません」
「あなたが精霊様ですか?」
精霊というよりも、天使というほうがしっくりくる。
どちらも見たことはないのでイメージの話だけど。
「その子達が言っているだけで、私は精霊ではありません。精霊とはその子達が成長してなるものです。私は次の精霊が生まれるまで、代わりにこの地を守っているだけです」
精霊ではないようだ。
「怖い人がいるから助けてって言われて来たんだけど、その怖い人はどこにいるんですか?それから、精霊じゃないならあなたは誰なんですか?」
「悪魔がこの地を見つけました。侵入されないようにするので精一杯で撃退することは出来ず、このままでは近いうちに結界を破られ侵入されてしまいます。それと私のことを話すことは出来ません。それでも願いを聞いていただけるなら精霊の子達を連れて逃げてください。悪魔は精霊の子に興味を示していませんでした。悪魔の狙いはこの地か私です」
「少し向こうで考えてきます」
『今大丈夫?』
お姉ちゃんと泉の方に歩きながら、悪魔と聞いてルフに連絡をとる。
『はい、大丈夫です。どうかされましたか?』
『白いボロボロの翼を生やした人が悪魔に狙われているらしいんだけど、何か知らない?』
『白い羽というと天使かもしれません。昔に何度か襲われて返り討ちにしたことがあります。ボロボロというのは怪我をしているという感じですか?』
神もいたから天使がいたと知ってもあまり驚きはない。ルフが昔襲われたというのも、ルフが暴れていたからだろう。
『怪我というよりは、所々羽が抜けて傷んでいるって感じ』
『それであれば、遠い昔我々悪魔と天使が争っていた時の生き残りかもしれません。悪魔の方は心当たりはありません』
『何でその時の生き残りだと思うの?最近やって来たかもしれないよね?』
『天使が大地に降り立つとその余波で多くの人が死にますので流石に気付きます。少なくとも私がエルク様と契約した後に天使が降り立ったことはありません』
『そうなんだ。ルフは今どこにいるの?』
一応狙ってるのが悪魔だということでルフの居場所を聞いておく。
『家にいます』
『そうだよね。天使のこと教えてくれてありがとう』
ルフは契約した僕に嘘は吐かないはずだし、仮にルフが犯人だとしても僕と敵対しようとは思わないはずだからここから離れると思う。
「今ルフと連絡を取ったんだけど、ここを狙っている悪魔に心当たりはないって。それからあの人は天使みたい。ルフが言うには───」
お姉ちゃんにルフから聞いたことを伝える。
「天使っていうのはよくわからないけど、それは面倒なことに巻き込まれたわね」
お姉ちゃんが顎に手を置きながら考える。
「人間に売られると思っている小鬼達を連れて逃げるのも大変だし、ルフの時のことを考えると悪魔を退治するのも出来ないと思う。多分また情に流されると思うから」
「そうね。リーナ達と別行動しているからいつまでもここに待機するわけにもいかないけど、とりあえずはここに留まってあの人を守りながら何か策を考えるのがいいかな」
「小鬼達を連れて逃げるよりはあの人をここから連れ出した方がいいかも。悪魔が狙ってるのがここなのかあの人なのかもわかるし。でも、とりあえずはお姉ちゃんの言うとおりここで様子を見るのに僕も賛成だよ」
「それじゃあそうしようか」
「強い力の反応が一つ近づき、悪魔の気配が無くなりました。消滅したのか、私の感知できる範囲から離れたのかはわかりません」
泉に残ることにしてからしばらくして、天使様が変化を感じ取る。
天使様からは、他の小鬼達と同様精霊として扱うように言われているが、天使と精霊のどちらの扱い方も知らない。
『ここの主に用がある。近くにいた悪魔は倒しておいたから、入れてくれないか?』
空から声が聞こえて来る。
「悪魔倒サレタ」「精霊様ノ匂イスル」「助カッタ」
小鬼達が一斉に喋りながら走り出す。
僕も言われた精霊の匂いというのは、この人が天使だということを考えると天界の匂いだろう。僕はあの神に会っているから匂いが残っていたのかもしれない。
そうなると、悪魔を倒してここに入りたいと言っている人は天界の関係者の可能性が高い。
「行っちゃいましたけどいいんですか?」
小鬼達が天使様の判断を聞かずに迎えに行ってしまったことを聞く。
僕自身天界のトップらしき神に良い印象はないというのも心配している要因の一つだ。
「私にあの子達を従え、操る力はありません。私が止めるように言えば大半は止まるかもしれませんが、あなた達がここに呼ばれたように何人かは外に出て呼んできてしまうでしょう。ここは閉ざされた空間ですが、ここに住む者の許可があれば簡単に入れてしまいます」
天使様が答える。確かに僕が呼ばれたのもあの小鬼の独断による行動だった。止めても無駄な以上、相手が敵でないことを祈りつつ待つしかない。
冬から春への季節の変わり目、村から村への移動中に考え事をしているとお姉ちゃんに心配される。
「大丈夫だよ。ちょっと考え事をしてただけ」
「最近よくぼーっと何もないところを見ているのを見かけるわよ。何か困ってることがあるならちゃんとお姉ちゃんの私に言うのよ」
「ありがとう。でも本当に大丈夫だから、困ったことがあったらその時に相談するね」
「約束だからね」
「うん」
お姉ちゃんと約束したけど、本当は悩みはある。今のところ困ってはいないけど、なんだか昔というか、前世のことが思い出せなくなってきている。
この世界に来てから引き出した記憶は残っているけど、その他のどうでもいいような記憶を思い出すことが出来ない。
「助ケテ。困ッタ。助ケテ」
実は前世の記憶というのが死にかけていた僕が見た夢で、実際には前世の記憶ではなく、僕の作った幻想だったのではないかと疑っていると、どこからか助けを求める声が聞こえる。
「止めて。今何か声が聞こえたよね?」
僕は操舵していたラクネに馬車を止めてもらい、馬車を降りる。
「声なんてした?」
お姉ちゃんには聞こえてなかったみたいだ。
「したよ。助けてって聞こえた」
僕は答えるけど、お姉ちゃんがラクネとリーナさんの方を見ると、2人は首を横に振った。
「助ケテ」
「ほら、やっぱり聞こえる。こっちからだよ」
また声が聞こえたので、声のする方に僕は走る。
「待ちなさい。声なんてしてないわよ」
お姉ちゃんが僕に止まるように言う。あの声は僕にしか聞こえていないようだ。
街道から少し外れた草の生い茂る方へと進み、声の主を見つける。
手のひらの上に乗りそうなほど小さな鬼がいた。オーガやゴブリンのような邪悪そうな顔はしておらず、マスコットキャラのような愛くるしさがある。
「君が僕を呼んだの?」
「困ッタ。精霊様ノ匂イ。助ケテ。助ケテ」
小鬼はぴょんぴょんと飛び跳ねながら僕に訴える。
精霊様って誰だろう?
「この子が僕を呼んでたみたい」
小鬼をつまんで手のひらに乗せて、追ってきていたお姉ちゃんに見せる。
「この子ってどの子よ」
お姉ちゃんは目を細めて僕の手ひらの上を見る。
「ここにちっちゃい鬼がいるのが見えない?」
「見えないわよ」
「何で僕にだけ見えるのかな?」
「人間怖イ。捕マッタラ売ラレル」
小鬼が僕の疑問に答える。何か魔法か何かで隠れてて、僕にだけ見えるようにしているのだろう。
「僕も人間なんだけど……?」
「精霊様ノ匂イ。心配ナイ」
「何1人でぶつぶつと喋ってるの?本当に大丈夫?どこかで休んだほうがいいかな」
小鬼が見えていないお姉ちゃんに僕の頭を心配される。
「大丈夫だよ。僕にしか見えないように隠れてるみたい。何に困ってるのか知らないけど、僕は今お姉ちゃん達とお腹を空かせている人を助ける旅をしているから、僕しか信用出来ないなら助けるのは無理だよ。この場ですぐに出来ることならいいけど……」
ここで僕だけ別行動するつもりはないので、とりあえずお姉ちゃん達にも見えるように姿を現してくれないと困る。
「精霊様ノ匂イ信ジル」
「!?何この子、かわいいわね」
お姉ちゃんにも小鬼が見えるようになったようだ。
「止メロ。突クナ」
お姉ちゃんにつつかれた小鬼はとてとてと僕の腕を走り肩に乗る。逃げたつもりかもしれないけど、全く逃げれていない。
「それで、何に困ってるの?」
「怖イ人イル。泉カラ出ラレナイ。退治シテ」
「泉なんてこの辺りにあったかな?」
「私は聞いたことないわ」
「君は泉から出てるみたいだけど……?」
ここが泉だというわけでなければ、すでに小鬼は泉から出られているみたいだけど……。
「匂イ釣ラレタ。シマッタ」
小鬼は頭を抱えるポーズをする。僕の匂いに釣られて泉からいつの間にか出ていたってことなら、だいぶこの小鬼は短絡的な思考をしている。
「その泉は近くにあるの?」
「アノ川ノ底」
小鬼が見る方向には確かに川がある。あるけど、子供の僕でも膝くらいまでしか浸からないくらいの浅い川だ。
少し前にここよりも上流で休憩した時に見たから間違いない。
川の底に泉があるっていうのもよくわからないし、どうしたらいいんだろう。
「どうする?」
僕は旅のリーダーであるお姉ちゃんに判断を仰ぐ。
「よくわからないけど、困ってるなら助けてもいいのかな?悪そうな魔物じゃないし……」
「魔物違ウ。使イ魔」
小鬼は否定するけど、何がどう違うのかは不明だ。
「リーナとラクネちゃんにも相談して決めようか。川に入るなら馬車もなんとかしないといけないし」
「馬車入レル」
確かに浅いから馬が溺れはしないだろうけど、あまり冷たい川に馬を入れたくないんだよ……ということを小鬼は分かってないのかな?
疑問が色々と残ったまま小鬼を連れて馬車に戻り、ラクネとリーナさんに突然走り出したことを謝ってから説明する。
話し合った結果、村に食料も早く届けたいし、僕とお姉ちゃんだけ馬車を降りて別行動することになった。
身体強化して走れば後からでも追いつくだろうという話で、合流するまでは今まで散々してきたルート変更は無しにしようと約束する。
「どうやって泉に行けばいいの?」
小鬼に確認する。
「川ニ潜ル」
「川の底に泉への抜け道でもあるの?」
見える範囲に泉が無いってことは、地底に泉があるのだろうか?見えないくらい遠い所に繋がってるのは息が持たないから行くのは無理だ。
「抜ケ道違ウ。頭マデ潜ル。泉ニ出ル」
意味が分からないけど川まで歩き、念の為に防寒魔法を掛け直してから言われた通り浅い川に潜る。潜るというより、頭まで浸かる為に横になるといった方が正しいかもしれない。
少しそのまま水の中で待機してから顔を上げると、そこは先程までの街道近くの川ではなく、花畑に囲まれた泉だった。
足はつくけと、水深もあの川よりも深くなっている。
何が起きなのか分からないけど、目的の場所には着いたようだ。
すぐにお姉ちゃんもやって来る。誰かが水の中にいた気配は無かったのに、急に水面から顔を出した。
「人間来タ。逃ゲロ。逃ゲロ」
泉の近くにいた小鬼達が一斉に逃げ出す。
「精霊様コッチ」
僕達を連れて来た小鬼が僕の服のポケットから顔を出して大きな木がある方を指差す。
泉から出て、魔法で服を乾かしてから大きな木まで歩く。
そこには白いボロボロの翼を生やした女の人がいた。
「ようこそおいで下さいました。その子が勝手なことをして申し訳ありません」
「あなたが精霊様ですか?」
精霊というよりも、天使というほうがしっくりくる。
どちらも見たことはないのでイメージの話だけど。
「その子達が言っているだけで、私は精霊ではありません。精霊とはその子達が成長してなるものです。私は次の精霊が生まれるまで、代わりにこの地を守っているだけです」
精霊ではないようだ。
「怖い人がいるから助けてって言われて来たんだけど、その怖い人はどこにいるんですか?それから、精霊じゃないならあなたは誰なんですか?」
「悪魔がこの地を見つけました。侵入されないようにするので精一杯で撃退することは出来ず、このままでは近いうちに結界を破られ侵入されてしまいます。それと私のことを話すことは出来ません。それでも願いを聞いていただけるなら精霊の子達を連れて逃げてください。悪魔は精霊の子に興味を示していませんでした。悪魔の狙いはこの地か私です」
「少し向こうで考えてきます」
『今大丈夫?』
お姉ちゃんと泉の方に歩きながら、悪魔と聞いてルフに連絡をとる。
『はい、大丈夫です。どうかされましたか?』
『白いボロボロの翼を生やした人が悪魔に狙われているらしいんだけど、何か知らない?』
『白い羽というと天使かもしれません。昔に何度か襲われて返り討ちにしたことがあります。ボロボロというのは怪我をしているという感じですか?』
神もいたから天使がいたと知ってもあまり驚きはない。ルフが昔襲われたというのも、ルフが暴れていたからだろう。
『怪我というよりは、所々羽が抜けて傷んでいるって感じ』
『それであれば、遠い昔我々悪魔と天使が争っていた時の生き残りかもしれません。悪魔の方は心当たりはありません』
『何でその時の生き残りだと思うの?最近やって来たかもしれないよね?』
『天使が大地に降り立つとその余波で多くの人が死にますので流石に気付きます。少なくとも私がエルク様と契約した後に天使が降り立ったことはありません』
『そうなんだ。ルフは今どこにいるの?』
一応狙ってるのが悪魔だということでルフの居場所を聞いておく。
『家にいます』
『そうだよね。天使のこと教えてくれてありがとう』
ルフは契約した僕に嘘は吐かないはずだし、仮にルフが犯人だとしても僕と敵対しようとは思わないはずだからここから離れると思う。
「今ルフと連絡を取ったんだけど、ここを狙っている悪魔に心当たりはないって。それからあの人は天使みたい。ルフが言うには───」
お姉ちゃんにルフから聞いたことを伝える。
「天使っていうのはよくわからないけど、それは面倒なことに巻き込まれたわね」
お姉ちゃんが顎に手を置きながら考える。
「人間に売られると思っている小鬼達を連れて逃げるのも大変だし、ルフの時のことを考えると悪魔を退治するのも出来ないと思う。多分また情に流されると思うから」
「そうね。リーナ達と別行動しているからいつまでもここに待機するわけにもいかないけど、とりあえずはここに留まってあの人を守りながら何か策を考えるのがいいかな」
「小鬼達を連れて逃げるよりはあの人をここから連れ出した方がいいかも。悪魔が狙ってるのがここなのかあの人なのかもわかるし。でも、とりあえずはお姉ちゃんの言うとおりここで様子を見るのに僕も賛成だよ」
「それじゃあそうしようか」
「強い力の反応が一つ近づき、悪魔の気配が無くなりました。消滅したのか、私の感知できる範囲から離れたのかはわかりません」
泉に残ることにしてからしばらくして、天使様が変化を感じ取る。
天使様からは、他の小鬼達と同様精霊として扱うように言われているが、天使と精霊のどちらの扱い方も知らない。
『ここの主に用がある。近くにいた悪魔は倒しておいたから、入れてくれないか?』
空から声が聞こえて来る。
「悪魔倒サレタ」「精霊様ノ匂イスル」「助カッタ」
小鬼達が一斉に喋りながら走り出す。
僕も言われた精霊の匂いというのは、この人が天使だということを考えると天界の匂いだろう。僕はあの神に会っているから匂いが残っていたのかもしれない。
そうなると、悪魔を倒してここに入りたいと言っている人は天界の関係者の可能性が高い。
「行っちゃいましたけどいいんですか?」
小鬼達が天使様の判断を聞かずに迎えに行ってしまったことを聞く。
僕自身天界のトップらしき神に良い印象はないというのも心配している要因の一つだ。
「私にあの子達を従え、操る力はありません。私が止めるように言えば大半は止まるかもしれませんが、あなた達がここに呼ばれたように何人かは外に出て呼んできてしまうでしょう。ここは閉ざされた空間ですが、ここに住む者の許可があれば簡単に入れてしまいます」
天使様が答える。確かに僕が呼ばれたのもあの小鬼の独断による行動だった。止めても無駄な以上、相手が敵でないことを祈りつつ待つしかない。
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