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変化

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久しぶりに帰ってきた王都は、異様な空気に包まれていた。
どこかピリピリとした緊張感が漂っている。

「私達が離れている間に何かあったようですね。私はこのままダイスくんに話を聞きに行きます。明日の放課後に学院長室まで来てください。そこで聞いた話を共有しましょう」
家の前で降ろしてもらい、学院長は学院へと走っていった。
ロック君は馬車に乗ったままだったので、家がそっちにあるのだろう。

「教会に行って、神父様に帰ってきたことだけ報告してくるわ」

「それじゃあ僕もカッシュさんとラクネに教えてくる。ルフ、お母さん達のことよろしくね」

「かしこまりました」


まずは、ラクネの家に行く。
「エルクくん。帰ってきたのね。残念だけど、娘は今家にいないわ」
ラクネのお母さんにラクネの不在を聞く。
ラクネは復興の手伝いをしていたから、まだ学院にいるのだろう。

「無事帝都から帰ってきたことを言いにきただけなので、ラクネに伝えておいてもらえますか?」

「伝えておくわね」

ラクネには会えなかったので、次は冒険者ギルドへと向かう。

「エルク君、お帰りなさい。何か依頼を受けにきたの?」
クラリスさんが僕を見つけて、話しかけてきてくれる。

「さっき帰ってきたので、その報告をしておこうかなと来ただけです」

「エルク君は国境を超えて帰ってきたのよね?冒険者の方から帝国領に入れずに依頼が達成出来ないって苦言を何度も言われたんだけど、エルク君はどうやって出入りしたの?」

「僕も知らなかったんですが、学院長はSランクの冒険者だったみたいです。学院長が冒険者証を見せたら通してくれました」

「そうなのね。ルーカス学院長はたまにギルドに来るけど、依頼を受けにくることはないから知らなかったわ」

「僕も驚きました。カッシュさんに帰ってきた報告をしたいんだけど、いますか?」

「あいにくだけど、席を外しているわ。戻ってきたらエルク君が戻ってきたって伝えておくわね」

「お願いします。なんだか街の空気が変わった気がしたんですけど、何かあったんですか?ギルドの中も閑散としてますし……」
冒険者の方達に人気のクラリスさんが、僕とこうして世間話のような話を出来ている時点でおかしい。
緊急のことがない限りは、少し並ばないとクラリスさんに対応はしてもらえない。

「エルク君が王都を立って二日後だったかな。ダイス様が陛下と真っ向から対立する声明を出したの。ダイス様が話した内容を端的に言うと、帝国と戦を起こすべきではないということね。スタンピードによって国力が低下した今、帝国がスキル屋を発端に荒れ始めたのをチャンスと捉えて争い国力を回復させたいという陛下と、国力が低下した今だからこそ他国と争っている場合じゃないというダイス様の構図になっているわ」

「そんなことになっていたんですね」
ダイス君は自分が前倒しで即位する為に、大胆な行動に出たようだ。

「エルク君も徴兵されてるのよね?」

「なんで知っているんですか?」
ダイス君が揉み消す話になっていることもあって、僕が徴兵されているという話は言っていない。
学院長の勧めで帝都の学院に行ってくると話しただけである。

「やっぱりエルク君のことだったのね。ダイス様が今回の徴兵にはまだ10歳にも満たない子供も含まれている。そんな小さい子供に戦わせてまで帝国に勝ちたいと俺は思わない。って言ってたわ」
名前は出してないけど、僕のことを民衆を味方につける材料にしたようだ。
それで平和に暮らせるようになるなら、好きに使ってもらって構わないかな。

「陛下はそれに対して何も答えてないわ。今みたいに本人に聞かない限り、実際に子供を徴兵したかどうかを確かめる方法はないけど、実際に戦になればわかることよね。陛下に対して不信感を抱いた人も多いと思うわ。だから、開戦することになってもエルク君の徴兵は取り消されるのではないかなっていうのが私の見解よ」

「そうなるといいんだけど……」
僕の徴兵が取り消されても、お父さんの徴兵が無くならなければ、僕は隠れてでも付いていくつもりだ。

「元々、建国式の日に陛下自らが戦を好まないと言っているからね。不満が溜まっているところにダイス様が立ち上がって扇動を始めたから、一気に流れが傾いたわ。それと、ダイス様はスキル屋についても触れたわ。王国に帝国が攻めようとしたら帝国にスキル屋が現れて、帝国に住む者のスキルを回収すると言った。王国が何もしなければ帝国は宣戦布告を取り消すだろう。しかし、今度は王国が帝国を攻める話になっている。次は俺達に与えられたスキルが回収されることになるだろう。帝国には先に忠告があったからといって、王国にもまずは忠告がされるとは限らない。朝起きたらスキルが使えなくなっているかもしれない。そうならない為にも、自分は戦に反対しているという意思表示をして欲しい。もしかしたら、それを見たスキル屋が意思表示した者だけは許してくれるかもしれない。そうダイス様は言っていたわ。その結果が今の状況よ。陛下の言うことは絶対。どれだけ嫌でも、従わないといけない。でも、民衆の心はダイス様が完全に掴んだわ。陛下が民衆を無視して突き進むのか、それとも折れるのか、その答えを待っているところなの。冒険者のみんなもね。依頼中にどうなるかが決まったら、すぐに動けないでしょ?」
なんだか大変なことになっている。

「帝都では皇帝に対して毎日激しい抗議の声が飛んでいました。王様がこのまま突き進んだら、王都も帝都と同じようになりそうですね」

「そうなると私も思うわ。ただ、陛下が思い止まったとしても、このまま王であるのは難しいわね。ダイス様が王になることになると思う。新しい体制になれば、良くも悪くも大きな影響を及ぼすから、どっちに転んでも以前の状態に戻るということはないと思うわ」

「そっか……。それは仕方ないのかな」


翌日の放課後、学院長室にて昨日クラリスさんから聞いたような話を聞く。

少し違ったのは、王様が帝国と戦う意志を変えなかった場合には、実力行使でダイス君が王になるつもりでいるということ。
ダイス君も本当はそんなことしたくないはずだから、王様には冷静な判断をしてもらいたい。

今の状況は、国政とかよくわからない僕が見ても、帝国と戦うのはデメリットの方が大きい。
戦に行く兵の士気もダダ下がりだろう。

戦に勝った所で、王国に住む人は王様を称賛なんてしない。
独裁者としてあり続けるしかなくなる。

「ダイス君から、明日に陛下が声明を出すことになっていると聞いています。会議にはダイス君は参加させてもらえていないようで、どちらに転ぶかはわかりませんが、それまでは待つことにしましょう」
帰ってくるタイミングはちょうどよかったようだ。


翌日の昼過ぎ、王様から帝国へ進軍しないと声明があり、帝国が攻めてきた時の為だけの徴兵とすることになったことを知る。

そして、王様は責任をとるような形で退任することになり、ダイス君が正式に王となった。
戴冠式は後日行うとのこと。


スキル屋からスキルを回収されるという話を聞くことなく、しばらく経ったある日、戦いに発展することなく終戦となった。

帝国ではスレッド君のお姉さんであるセレイユ第二皇女が女帝となり、即位したその日に王国への宣戦布告を撤回することを表明したそうだ。

宣戦布告した賠償として、帝国有利となっていた停戦協定が破棄となり、対等な形で協定を結び直すことに決まった。
争うのではなく、助け合えるように、友好国となれるように会談を重ねていくつもりだと、ダイス君は言っていた。

女子寮の修繕もほとんど終わり、男子寮は一部倒壊したままではあるが安全が確保された為、学院の授業が春から再開されることになった。
その関係で、王都に家がない遠方から来ている男子生徒が優先的に寮を使うことになり、王都に家がある者は極力家から通うように連絡があった。

寮内に入る許可もおり自室に入ると、僕の部屋は半壊していた。
だけど運良くフィギュアだけは壊れずに残っていた。
この部屋を僕は使わなくなるので、私物は全てアイテムボックスに回収して持って帰る。

春から学院が再開されることになったけど、ダイス君は退学することになったと学院長から聞かされる。
学院に通う余裕が無くなったのだから、仕方ない。

そして、お姉ちゃんも2年しか通わず卒業した。
回復魔法で畑の土を元気な状態に回復させることが出来るようになり、スタンピードと帝国との戦の準備により各地で食糧難となっている現状を打開するべく、計画を前倒しすることになった。

冬を越せない人が大勢出る可能性がある為、春になるのを待たずに、雪の降る中お姉ちゃんは出発するそうだ。

リーナさんは退学ではなく休学して同行するという。
そのまま辞めるのか、復学するのかは戻ってきてから決められるように、学院長が手続きをしたとラクネから聞いた。

お姉ちゃんの意思は固く、今が緊急を要するということもあり、お父さんもお姉ちゃんを応援することになった。
お父さんは「一度行ってみると、問題点も多く出てくるだろう。帰ってきてから、今後も続けるのかよく考えるといい」と言っていた。
それから「無理だけはしないように」と。

お姉ちゃんの準備はもうすぐ終わる。
終わり次第出発するそうだ。
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