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引き継ぎ

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「……僕が1人で聞きます」
飛越さんは神田さんには権利を譲らず、自身が話を聞くことを選ぶ。

「話をするのは今回限りですが、それでいいんですね?もちろん、神田さん達が飛越さんの力を借りずに僕を見つけたなら、その時は神田さん達と話はします」

「飛越、もう少し冷静になれ。この人は何か大事なことを話していない気がする。ここは俺に任せてくれ」
神田さんが考え直すように飛越さんに言う。

「僕が聞きます」
飛越さんは神田さんを無視するかのように答える。

「せめて全員だ。それならいいだろう?お前には荷が重すぎることになる気がするするんだ」

「ちゃんと後で神田君には何を言われたのか話すからそれでいいじゃないか。僕は帰りたいんだよ!」
飛越さんが神田さんを突き放すように声を荒げる。

「決まったみたいだから飛越さん以外の人は退席してもらいたいけど、その前に1つだけ聞いていいかな?」
神田さん達の方を見て話す。

「なんだ?」

「神田さんの考えはわかったけど、他の人は飛越さんと神田さん、どっちに話を聞いてもらいたいとおもっているのか。それとも全員で聞きたいと思っているのか。大体予想はつくけど、それに答えてから退席してもらえる?」

「もちろん神田君よ。神田君にはこれまでも助けてもらってる。神田君のおかげで安定してお金を稼ぐことも出来て、薄暗い路地で寝なくてもよくなった。神田君なら信用して任せられる」
神田君の二つ隣に座っていた女の人が答える。
他の人も頷いているので、飛越さん本人以外は神田さんが話を聞くべきと思っているようだ。

この場にいること自体、飛越さんが声を掛けた結果ではあるのに、それでも神田さんの方に票は集まるということは、神田さんはこれまで、本当にクラスメイトの為に尽力してきたのだろうな。

「予想通りの答えだね。それじゃあ2人にしてくれるかな?」

「飛越、色々と言ったがいつものところで待ってるからな」
神田さんが立ち上がり言って、飛越さんを残し、皆を引き連れて店を出ていく。

「それじゃあ早速話をしようか」

「はい」

「気付いていると思うけど、僕は約2年前、集団で行方不明になった中学生の1人なんだ。そして、大部分のクラスメイトを僕の手で帰還させた。僕が何を知って、何をしたのか、それを教えてあげる。その中にはさっき話した通り、飛越さんが帰る方法も含まれているから」
委員長が残したヒントは飛越さんに渡さないことにした。
あれはあのままあそこにたどり着いた人の為に残してある。

「お願いします」

「まずは僕の力の説明から。話すのは一部だけど、僕はこの世界に連れてこられた時から自由に元の世界に帰ることが出来た。加えて、こっちの世界にも来ることが可能だった。つまり、僕は初めからこの世界に監禁されておらず、自らの意思でこの世界にいたってこと」

「……そうなんですね」

「しばらくして、ある事件をきっかけにクラスメイトが盗賊として捕まり処刑されることになった。そして、そのクラスメイトと元の世界で再会した。ここまで言えばわかると思うけど、こっちの世界で死ぬと向こうの世界で生き返ることで帰還が叶うんだ」

「……クオンさんはクラスメイトに死ねば帰れると伝えて回ったということですか?」

「違うよ。死ねば帰れると知った時に神様が現れたんだ。そして、死ねば帰れることを話したら敵対すると言われた。なんで話したらいけないのか、その時に説明はされなかったね。それからもう一つ、この世界での行動は向こうの世界に帰った時に、似た形で反映される。見つかった中学生の何人かは捕まっているのを飛越さんは知ってるかな?あれはこの世界で犯罪を犯したから、元の世界に帰ってからも捕まっているんだ」

「……えっと、結局クオンさんはどうやってクラスメイトを帰還させたんですか?」
話の途中だけど、飛越さんが結論を急かす。

「僕が殺して帰還させたんだよ。クラスメイトを殺しても悪いことをしたことにはしないという特別条件をつけられてね。それから、殺す相手と敵対して殺さないといけないとも言われたね。そういうわけで、あの手この手でクラスメイトが敵になるように画策して、殺していったってわけ」

「本当にそんなことをしたんですか?」
飛越さんは信じられないようだ。

「したよ。飛越さんがこの情報をどうするかは任せるよ。もしかしたら、死んだら帰れるよって話しても問題ないかもしれないし、飛越さんがこっちの世界でクラスメイトを殺したら元の世界に帰ってから牢屋に入ることになるかもしれない。でも、僕は死んだら帰れると話したらダメだと思うし、飛越さんがクラスメイトを殺しても帰還してから罪には問われないと思うよ。あ、一つ大事なことを言ってなかったよ。元の世界に戻った後、こっちの世界のことは話せなくなるんだけど、弁明する為に、僕だけ話すことが出来るようにしてくれたよ。それじゃあ話はこれだけだから、頑張ってね」
引き継ぎは終わったので、席を立とうとする。
何も注文しないのは悪い気がするので、持ち帰りでドリンクだけ買って行こうかな。

「ちょっと待ってください。そんなこと言われても僕には無理です」

「別に飛越さんが殺さないといけないことはないよ。みんなを帰す事が出来るのに、自分だけ死んで帰るなら、そうすればいいんじゃない?僕は強制しないよ」
今度こそ席を立ち、店の外に出る。


「クオンさん!お願いします。俺にも話をする時間をください。自分の力でと言われましたが、飛越が使えるような鑑定のスキルを俺は使えない。姿が変えられるなら見つけることは叶わないと思う。こうして店から出てきたところを捕まえるくらいしか出来ないが、お願いします」
店を出たところで、神田さんに行く手を遮られる。

「飛越さんに話した内容は、僕の口から他の人に話すつもりはもうないんだよね。詳しくは話さないけど、意味がなくなるから」

「全員で聞くなら帰還に近付く程度の手助けをしてくれると言っていた。贅沢は言わない。少しでもいいから手を貸してほしい。このとおりだ」
神田さんが急に膝をつき、頭を下げる。

「見た目はおっさんですけど、年下だとわかってますよね?よく土下座なんて出来ますね」

「恥を気にしている場合じゃない。ちゃんと対価を支払うつもりでもいる。金でなくても、俺に出来ることならなんでもやるつもりだ」

「神田さんが出来ることは僕にも出来そうだから、頼みたいことはないかな。お金にも困ってないし。ただ、本当は神田さんとも後で話をする気ではいたんだ。とりあえず場所を変えようか。飛越さんには僕が神田さんと話をしたと知らせずに、1人でどうするのか決めて欲しいからね」
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