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交代

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「僕が嘘つきか……。意を決して本当のことを言ったのに、信じてもらえずに残念だよ。それで、委員長は僕をどうするつもりなの?衛兵にでも突き出すのかな?証拠もないし良くて話を聞いてもらえるくらいだと思うけど」

「どうもしないわ。クオン君の言う通り相手にしてもらえないとわかっているから。殺していることを認めてもらって、なんでそんなことをしているのか教えてほしかっただけ。占いを聞いた上での私の仮説だと、死ぬと元の世界に帰れると思っていたの。元の世界に帰るっていうよりは、元の世界で同じ人間として生まれ変わるって言った方が正しいかもしれないけどね」
当然、委員長ならそこに辿り着くだろう。
より真実に近い形で。

「委員長はそんな夢物語を描いていたんだね」

「田中君は処刑されたのよね?そこでクオン君は死ねば帰れることを知ったのよ。神下さんは以前から、多分あの子供の姿の神に口止めをされていた。クオン君が死ねば帰れることを隠してみんなを殺していたのも、同じような理由じゃないかな。だから、クオン君は私たちの為に動いてくれていた良い人だと思っていたけど、昨日占ってもらったらクオン君は悪だと言われたわ。そこだけわからないけど、それは何か解釈の違いなのかな。他は十中八九仮説は合っていると思う。何かおかしなところがあれば教えて欲しいのだけれど」

「仮に委員長の言った通りだとしても、僕が口止めされているならここで欲しい答えなんて返ってこないよね?だから、僕にそれを話したところで無意味だよ」

「そうね。その通りだわ。でも、反応でわかることもあるわ。クオン君からは何も読み取れないけどね。最後にもう一つだけ聞かせて。クオン君は元の世界に帰りたい人だけを殺していると私は思っているのだけれど、神下さんが見つかったのだから、次は中貝さんを殺すのかな?」
本当は僕の微かな仕草から何か情報を得ているのではないかと疑わしい。

委員長の言う通り、イロハを生かしておく理由はこれでなくなった。
しかし、それとは別の理由ですぐにイロハを殺すのは難しくもなっている。

昨日、少し前に話したいことがあると言われていたこともあって、警察署に行き刑事と話をしてきたからだ。
聞かれたことは一つだけで、以前のように長時間拘束されるようなこともなかった。
大多数が見つかり、以前に比べて深刻度が軽減されたからだろうと勝手に思っている。

聞かれたことは、以前に僕が会いに行く可能性がある人物として名を挙げた、ヨツバとイロハと神下さん、それから委員長だけが未だに見つかっていない件について、何か心当たりがないか聞かれただけだ。
心当たりはなく、心配なので早く見つかってほしいとだけ答えてある。

まだ疑われているようだけど、犯罪をして捕まって発見されるクラスメイトが何人も出てきたことで、疑いは少しはれてきているように思える。

だからこそ、以前のように準備も出来ず警察署に連れていかれることはなく、時間があれば話をしたいとの伝言をされただけだった。
こっちのことを優先して少しの間放置していたけど、催促されることもなかった。

ただ、僕にその質問をしたらすぐに見つかったというのは、タイミングがよろしくない。
だから、少し待ってから帰すつもりだ。

「そんなことを僕に聞かれても困るよ」

「そう答えるしかないわよね。聞きたいことは何も聞けていないけど、言いたいことは言ったから私は部屋に戻るわ」
委員長が言いたいことだけ言って部屋から出ていった。
これはあれだな。宣戦布告をされたんだな。

僕が悪だという占い結果で、委員長とは敵対しやすくなるかと思ったらそうはならないし、対応に困る人ばかり残ってしまった。

とりあえず、子爵を潰してからタイミングは考えればいいかな。
それまでに神下さんがなんとかしてくれるかもしれないし。


翌日、この街で残っていた用事も一旦終わらせたので、馬車に神下さん入りの木箱を積み込んで王都に戻る。

エドガードさん達騎士の人達には話してあるので、神下さんには馬車に積み込んでから木箱から出てきてもらい、閉じ込めたままにはしないけど、食事や休憩の時も馬車から出ないようにはしてもらう。

その後王都に着いてからは、レイハルトさんに神下さんを紹介し、騎士寮の一部屋を借りてそこで生活してもらう。
神下さんの意思で部屋から出るのは自由ではあるけど、それで騒ぎになった場合は全て自己責任で対処してもらうと言ってある。
部屋を用意しただけで、騎士団が神下さんを保護したわけではないと。

神下さんのことはこれでいいとして、僕はレイハルトさんと今後について話をする。

「スカルタでネロという占い師の子供に会ってきました。本人が有名になるつもりがないようで、まだ周りにはさほど認知されていませんが、的中率100パーセントというのは聞いていた通りでした」
まずはネロ君のことを報告する。

「そうなると、遊ばせておくには惜しい人材だな」

「僕もそう思います。僕の勝手な憶測ですが、ネロ君は孤児で、育ててもらった孤児院のあるスカルタから離れて王都に来てはくれないと思うんです。話していた限りでも、裕福ではなくても普通の幸せな生活が出来ればそれでいいという印象を受けました」

「勧誘するのは難しいということか」

「孤児院を離れることを快諾はしないと思います。出来れば王都に招きたいですけどね。それでですが、ネロ君は魔法学院でイジメを受けていまして、自衛の為に発動したスキルが暴発したことで退学処分となっていました。イジメの主犯格はロンデル子爵の息子のクロウトという人物のようで、ネロ君が退学した後もその時のことを恨んでネロ君と孤児院に嫌がらせをしているみたいです」

「その時に何があったのか知らないが、退学という形で既に罰は受けたのだ。それで割り切ることが出来ないとは、クロウトという者の器は小さいな」

「水に流せないようなことになっていれば、退学ではなく衛兵に突き出されているはずなので、僕も同意見です。そういう事情もあって、勝手ながらネロ君と孤児院を第1騎士団の庇護下に入れることにしました。万が一ネロ君に不幸があった場合、国として損失が大きいと判断したからです。ネロ君の身を守るということもありますが、恩を売っておけば、今後ネロ君の価値が広まり客足が絶えなくなったとしても、騎士団は優先的に占ってもらえるのではないかという思惑もあります」

「それで問題ないだろう。団員には私の方から周知させておく」

「それからもう一つ。万が一が起きてからでは遅いので、ロンデル子爵家には潰れてもらおうと思ってますが、どう思いますか?」

「団長は君だ。君が潰すべきだと思うのなら潰せばいい。ただ、貴族を潰すというのだから、それが間違いだった場合にはそれなりに国王から罰がくだるだろう。それは、君だけではなく騎士団としてでもある。力を振りかざすようなやり方は取らないほうが無難だろうな」

「ロンデル子爵が善良な貴族であれば、困ってるのでやめてあげてくださいと言うだけで終わるので大丈夫です。馬鹿な息子に育ててしまったというだけなので。そうでないなら叩けば埃が出るでしょうから、ちゃんとこちらが正義だという風に見えるようにやるつもりです」

「君は騎士らしくないから大丈夫だろう」

「それから、これが終わったら団長の椅子はレイハルトさんに返そうと思ってます。悪くないタイミングだと思いますので」

「わかった。子爵家には引き続きエドガードとケルトとルイスの3人を連れて行ってくれ。特にエドガードは君が来てから随分と腕を上げた。もう少し面倒を見てやってくれ」

「面倒を見るもなにも、僕の方が力を貸してもらってばかりですよ。僕の戦い方が少しだけ変わっているのは自覚していますので、少しでも刺激になっていればいいなと思うくらいです。それでは3人に話をして、早ければ3日後に出発します。長い間お世話になりました」
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