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side 委員長

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盗賊を捕まえて祝杯を上げた翌日、私は団長と話をする。

「まずは盗賊討伐の件ご苦労だった。私としては褒美を用意したいと思っているのだが、何か話があるんだね?」

「はい。団長のことを信用して話をします。これから話すことは団員にも漏らさないで頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
団長のことを信用しきっているわけではないけど、少しでも早く行動に移したい。
あれだけしか最初の手持ちがなかったのだから、既に何人か命を落としてしまっているかもしれない。

「ああ。構わない」

「ありがとうございます。まず私は地球という星の日本という国から、神を名乗る方に連れてこられました。こことは違う世界だと思います」

「……続けてくれ」

「私は日本に帰る方法を探しています。それから、連れてこられたのは私だけではありません。他にもいます。神を名乗る方によって散り散りにされてしまいましたが、皆と合流したいと思ってます。褒美を頂けるのであれば、私の探しごとを手伝っては頂けませんでしょうか?」

「すぐに今の話を信じることは出来ないが、君が別世界の住人だということは置いておいて、調べ事が出来る環境の提供と探し人の手伝いはしても構わない。王都の書庫に入れるように手配しておこう。探し人に関しては、君の方でやり方を考えるといい。私の協力が必要な場合は、可能な限りで協力しよう」

「ありがとうございます。団長は私の話を疑わないんですか?自分でも胡散臭いことを言っているという自覚はあるのに……」

「疑っていないわけではない。君の話を信じる信じないは別として、私は君の力を必要としている。力を借りる以上は私もそれに応えるべきだと思っているだけだ」
ブレない芯がある。流石は団長だと思う。

「私も団長の期待に添えられるようにします」

「期待している」

後日私は団長に相談して、騎士団への求人という名目でクラスメイトに宛てた手紙を各街のギルドや酒場、教育機関などに貼り出してもらう。

紙には暗号が解ければ騎士団に入団出来ると書いてあるけど、クラスメイトがこれを見てやってきた場合は保護する形になっている。
流石に本当に騎士団に入団させるわけにはいかない。

ただ、クラスメイト以外で暗号を解けるような人がいるなら、解読系のスキルを持っていたり、相当に頭のいい人だと思う。
人格に問題がないのであれば入団させて損はないので、本当に入団させても問題ない。

貼り出した効果があったようで、しばらくして5人クラスメイトが見つかった。
4人は騎士団で保護して、食事と寝床を用意する代わりに雑用をしてもらいながら、王都の書庫で調べ物をしてもらうことになった。
もう1人は心配させないように連絡をくれただけで、今の仕事を続けるそうだ。
定期的に連絡を取り合おうということになった。

国からの依頼を受けたり、他の騎士団と模擬戦をしていて再認識することがある。
やはり、この騎士団は強い。
個人の戦闘力で考えると、第8騎士団よりも上だった。
実際、私が指揮はしたけど、統率のスキルを発動させなくても模擬戦に勝利することが出来た。

足りなかったのはやはり全体を視ることの出来る目と、それを活かすための司令塔だった。

今までの模擬戦の内容を聞いたら、極端に言えば突撃だった。
だから、個人の力量で勝っていても、多対一にされたり、伏兵に本陣を攻められたりして、いつの間にか不利な状況に陥っていたようだ。

地形も考慮した作戦を立てて、ロゼを横において相手の出方を見るだけで、弱点は解消された。
盗賊の件で私の言うことを騎士達が素直に聞いてくれるのも大きいと思う。
連携が取れてこそ、隊列を組んだ時に大きな力を出すことが出来る。

ただ、第1騎士団との模擬戦は違った。
統率のスキルをフルに発動しても歯が立たなかった。
あれはダメだ。勝てるビジョンが浮かばない。
特に副団長の存在が異常だ。
人の域を軽く超えている。
相手が副団長1人だったとしても手放しに勝てるとは言えない。

そんな副団長が手も足も出ないという第1騎士団の元団長はどんな人なのだろうか。

私は怪物のような姿をした人を想像する。

色々と走り回りながら過ごしていたある日の夜、私が部屋に戻ると神下さんがいた。
鍵を掛けていたのに……。

「……久しぶりね」
私はとりあえず話しかけてみる。

「驚かせてごめんね。警戒しないでって言っても無理だと思うけど、危害を加えにきたわけじゃないの。邪魔されずに委員長と話をしたかったから勝手に入らせてもらったの」

「神下さんも私の暗号を見てここに来てくれたのよね?この部屋には誰かに入れてもらったの?」
勝手にとは言っていたけど、もう一度確認しておくことにする。

「募集の紙を見て委員長がここにいるって知ったよ。部屋には悪いなとは思ったけど、無断で入らせてもらったよ。ごめんね」
神下さんは簡単に言うけど、ここは騎士団が保有する寮の一室だ。
外で自主訓練している人もいるし、鍵も掛かっている。
簡単に出入りできる所ではない。

「……どうやって入ったのかは聞かないほうがいいのかな?」

「そうしてくれるとありがたいかな」

「それなら聞かないけど、とりあえず神下さんの用を聞いてもいい?」

「斉藤君ってわかるかな?」

「もちろんわかるわよ。あまり話をした記憶はないけれど」

「斉藤君は今クオンって偽名を使ってるんだけど、クオン君と他のみんなを会わせないようにしてほしいの。委員長も含めてね」

「よくわからないのだけれど、理由を教えてくれる?」

「理由は訳あって教えることが出来ないの。だから私の話をするね。実は私は元の世界に戻る方法を知ってるの。本当はすぐにでもみんなを元の世界に帰らせてあげたいんだけど、私だけ特殊で、それをやっちゃうと私だけ一生帰れなくなる可能性があるの。委員長には意味がわからないと思うんだけど、クオン君と委員長達が出会っても私が帰れなくなる可能性が高いから、会わないようにしてほしいって話なんだけど……」
本人も言ってはいるけど、不明な点が多すぎる。

「神下さんは元の世界に帰る方法を知ってるってことだけど、それを教えてはくれないのかな?」

「ごめん。言えないの」
1番知りたいことを教えてはくれないようだ。
言えないと言っているし、神下さんの意思で言わないわけではないのかもしれないけど。

「そう。神下さんが特殊って話も聞かないほうがいいのかな?」

「……そうだね。根幹の部分は言えないんだけど、元の世界に帰るのに、みんなはある事をするだけでいいんだけど、私はクラスの誰かの協力がないとそれが出来ないの。それが誰なのかまだ特定できてないんだけどね……」

「わからないことだらけだけど、言いたいことはなんとなくわかったわ。神下さんが元の世界に帰るのに必要な人が特定出来れば、神下さんが私達を元の世界に帰らせてくれるって認識でいいの?」

「特定出来れば他のみんなが元の世界に帰れるように頑張るよ」

「それなら、とりあえずは神下さんの言う通り斉藤君と会わないようにしてはみるわね。斉藤君のことは何か教えてくれるの?」
現状で元の世界に帰る方法は見つかってないし、少なくても他の手掛かりが見つかるまでは神下さんの話を聞いておくのがいいかな。

「それは…………ううん、それも言えないね。クオン君に会えばわかるかもしれないけど、私からは言えないよ。私の言えることだと、クオン君は四葉ちゃんといろはちゃん、それから桜井君と一緒の所に今はいるよ。それで、委員長の求人も見てるから、会いに来るかもしれないってことだけかな」

「立花さんと中貝さんと桜井君には会ってもいいの?」

「いいよ」

「わかったわ。これも言えないのかもしれないけど、色々と言えないことがあるってことは、誰かに口止めされてるってことよね?誰に口止めされてるのか聞いてもいい?」

「…………やっぱり言ったらダメみたいだね」

「さっきから、誰かと会話してる?」
私に話す内容を誰かと確認しているように見える。

「うん。念話で委員長に話していいのか都度確認してるよ」

「神下さんはこの後どうするの?騎士団でクラスのみんなを保護する準備は出来てるわよ」

「やらないといけないこともあるし、私はここにはいられないよ。話はそれだけだから私はもう行くね。そろそろ限界だし」
神下さんはそう言って消えてしまった。

わからないことだらけだけど、元の世界に戻る鍵は神下さんと斉藤君ってことかな。

斉藤君は私の出した暗号を見ているみたいだし、会わない方がいいみたいだけど、とうしようかな……。
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