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取調べ

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刑事に警察署に連れていかれた。

刑事が来た理由も予想がついているので、連れていかれるのは構わない。
僕の意思とは関係なく知りたいだろうことは話せないので、時が経つのを待つだけだからだ。

ただ1つ問題がある。

もうすぐ昼になる。こっちの世界に戻る時にヨツバ達から昼食をどうするか聞かれた。
居づらいとは思っていたけど、このままズルズルと引きずるつもりはなかったので、僕も一緒に食べると答えてある。

このまま刑事の目から逃れられないと、向こうの世界に行くことが出来ない。

長引きそうなら、一瞬でも向こうの世界に行って、2人に簡単に説明してお金を渡したい。
持ってないことはないけど、2人はお金をあまり持ち歩いていない。
基本僕が持っているからだ。

「署に着いたよ。とりあえずお手洗いに行くかい?」

「行きます」
トイレで用を足しているフリをして一瞬戻るか……

そう思ってトイレに行ったけど、トイレは完全な個室ではなかった。
少し考えればわかったことだ。
もちろん隠さないといけないところは隠されてはいるけど、話しかけられれば答えないといけないし、ドアの下側は少し覗けば足が見えるだろう。
流石に上から覗きはしないだろうけど……

実際にトイレに行きたかったわけではない僕は、仕方ないので少し時間が経つのを待ってから出ることにする。

「お待たせしました」

「この部屋は自由に使っていいから。何か欲しいものがあったら遠慮なく言ってね」
僕は刑事に部屋に案内される。

「……わかりました」
部屋にはVR機器一式にパソコン、飲み物にお菓子までゲームをするには文句のつけようがない環境になっていた。
このゲーミングチェア家に欲しいな。

「とりあえず、話をしたいのだけれど今からでもいいかな?」

「あ、はい。大丈夫です」

部屋に置かれた机を挟んで対面で座る

「色々と聞きたいことがあるとは言ったけど、1番聞きたいのはこれなんだ。なんで見つかった人は君に会いに行くのかな?」
鈴原さんが家から出られるようになってすぐに僕の家に来た。
そして堀田くんが今日家に来た。

明らかに怪しいのは理解できる。

「僕が聞きたいくらいです」
話せないことはわかっているし、嘘をつくのはリスクが高いので知らないことにする。

「……さっき堀田くんとは何を話していたんだ?」

「堀田くんに体調とかは聞きましたよ。堀田くんが僕を訪ねてきたのに、堀田くんは何の為に訪ねてきたのか何も言わないんですよね。何故か口をパクパクしてましたけど……。前に田中くんと話させてもらった時と同じ感じでした」
多分、警察の人とみんなが話す時もこんな感じだろうと思う。

「……そうか」

「刑事さんはなんでみんなが僕を訪ねてくるのか心当たりはないんですか?」

「それは私が知りたいよ」

「そうですか……。他に聞きたいことは何ですか?」
僕としては早く帰らせて欲しい。
どうせ話せることなんて無いのだから。

「とりあえず、昼食にしようか。なにが食べたい?」
僕は時計を見る。すでに昼は過ぎていた。
多分2人は僕が戻って来ないことを不思議に思っているだろう。
今はちょっと遅れてるだけかな?くらいに思ってると思うけど、いつまでも来なければ何かあったと思うだろう。
遅くても今日中には向こうの世界に行かせて欲しい。

「えっと……カツ丼?」
他ごとを考えていて食べたいものを考えていなかったので、何も考えずに答えたらカツ丼と言っていた。
場の空気に流されたようだ。

「……別に君を容疑者として取調べしているつもりはないからね。捜査の協力をお願いしているだけだよ」

「そうですよね。ははは」
そうは言うけど明らかに疑われてはいる。気持ち的には容疑者だ。

「それでカツ丼でいいなら買ってくるけどいいのかな?もちろんお金はいらないよ」

「あ、はい。お願いします」
刑事が出て行く

「…………。」
あ、ダメだ。この部屋盗聴されてる。
前もって準備しているのだし、どこかにカメラもあるかもしれない。

少しして刑事が戻ってきた。

「出前を頼んだから、少ししたら届くよ」

「ありがとうございます」
気まずい空気が流れた後に届いたカツ丼を食べて、捜査協力という名の取り調べが再開される。

「君は最初田中くんに会いにきたよね?」

「はい。その時は融通をきかせてもらってありがとうございました」

「その後に冴木さんをたまたま見かけたと言って会いに行った」

「そうですね」

「それから薬師さんのところにも行ってるね」
当然のように見られていたらしい

「行きましたね」

「鈴原さんの家にも行っている」

「鈴原さんが家に訪ねてきた時に、出ることが出来なかったので」
留守にしていたと答えなかったのは、家を見張られていた場合にいつ外出したんだ?と聞かれない為である。

「ちなみにその時はなんで出られなかったんだい?」

「ゲームに夢中になってたみたいです。後から母さんに、呼んでも返事がなかったから部屋にいないと思ったと言われました」

「そうか」

「それがどうかしましたか?」

「他の4人にはなんで会いに行かないんだい?」
刑事が何を聞きたいのかがいまいちわからなかったけど、僕と関わりなく死んだ人には僕が会っていないことを不思議に思っているようだ。

「その4人に会いに行っていないのは行く理由がないからです。特に親しかったというわけでもないですし……」

「他の人には会いに行っているのに?君はこう言ったら悪いと思うけど、あまり他のクラスメイトとも親しくはなかったよね?」

「……そうですね。でも全くというわけではないです。薬師さんとはそこまでではないですけど仲は良かったと思ってます。僕が一方的にそう思っていただけかもしれませんけど……。刑事さんはその4人に僕が会いに行ってないと言いますけど、僕が心配で会いに行ったのは薬師さんだけですよ。残りの人達に会いに行った理由は説明しましたよね?」
田中くんは公表された1人目だったから。
冴木さんは公園でたまたま見かけたから。
鈴原さんは僕からではなく、鈴原さんから訪ねてきたから会いに行っただけ。
理由を言ってないのは薬師さんだけだ。

なので、薬師さんとは仲がよかったことにさせてもらった。
仲が悪かったわけではないし、木原くんのことで考えれば共犯者だ。
転移後の話ではあるけど、戻ってきている人の中では1番関わりが深いというのも嘘ではない。

後々刑事が薬師さんに聞いたとしても誤魔化してくれると信じよう。

「……そうか。ちなみに他に親しかった人はいるのかい?見つかったら心配で会いに行くくらいの人は」
ここで名前を挙げた人は今後会いに行っても疑われないということだ。
逆に言えば他の人は別の理由をつけないと会いに行きにくいということでもある。

異世界よりも警察とのやり取りの方が明らかにハードモードなんですけど……?

「何人かはいますよ」

「教えてもらってもいいかな?」

「そんなに深い仲ではないですけど、立花さん達とは話すことが度々あったので見つかったなら顔くらいは見たいです。後は委員長ですね。委員長は仲がいいというわけではなくて、不登校だった僕のことも気にかけてくれていたみたいなので……」
ヨツバ達とは戻ってきてから会うことになるだろうし、名前を挙げておこう。
それから委員長に関しては、あの人が異世界に行ったくらいでどうにかなっているとは思えない。
不慮の事故で亡くなることがあったとしても、それは情報の出揃っていない初期の頃だけだと思う。

委員長は自分の生活が問題なく出来るようになったら、元の世界に戻る方法を探しながらクラスメイトを探すだろう。
なので、僕がこんなことをしていればどこかでかち合うと予想できる。
だから名前を挙げておいた。

「立花さん達というのは?それから委員長というのはクラス委員の子でいいのかな?」

そういえば委員長の名前ってなんだっけ?みんな委員長って呼ぶから覚えてないや。

「そうです。立花さんと中貝さん、それから神下さんです。3人は親友みたいです。僕は知り合い以上友達未満というところですかね」
知り合い以上友達未満……クラスメイトはみんなそうだね。

「……友達ではないんだね」
刑事さんに哀れんだ目で見られる

「多分……。」

「嫌なことを聞いて悪かったね」
別にリアルに友達がいないことが悪いことではない気がするけど……。そんな目で見られるとなんだか自分がダメな人間に思えてくる。

「学校にいないだけで友達はいますので……」
友達というのはフレンドのことだろう。
僕のフレンドリストには100人以上の名前が連なっている。
そう思い込むことで心の平穏を保つことにした。
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