聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
529 / 815
第三部 宰相閣下の婚約者

559 海鮮BBQ・堪能編(中)

しおりを挟む
 エドヴァルドたちもじきに来るとマトヴェイ部長から聞いたので、とりあえず殻付きホタテ貝やムール貝、マテ貝なんかを火にくべ始めることにした。

 オムレツやピカタ、アクアパッツァなどはある程度厨房の方で作っておいて、ここでは温めなおす程度として並べていく。

 クレープもテーブルの端に大量に積み上げておき、とりあえず私が実地で、薄い一枚を剥がして、そこに野菜とピカタを乗せてくるりと巻くことを説明した。

「なるほど、薄いサンドイッチ……亜種のようなものですか。何を挟んでも良い、と」

 出来上がりをみたセルヴァンが、ちょっと感心しながら私の手元を眺めている。

「そうそう。生クリームとフルーツの方がむしろ主流かも知れない。だけど今回、ここに主食らしい主食がなかったから、コレもありかと思って」

 エドヴァルドたちには、自分で巻けと言うわけにもいかないだろうから、具材だけ目で見て貰えば良いかと思っている。

 ピカタが嫌なら、鮭のタタキやゆで卵を作って挟んでも良いだろうし。
 デザート用の方は、いくつかフルーツを並べて、あとで選んでもらおう。

「本日はレイナ様もこちらにおかけ下さい。私どもで旦那様同様に取り分けさせていただきますので」

 そう言ったセルヴァンは、当初はエドヴァルドとテオドル大公、コンティオラ公爵の三人用のテーブルと椅子を用意する予定だったものを、急遽一回り大きなテーブルを持ち出して来て、私とシャルリーヌの座席も急遽セッティングしていた。

 本来であれば、自分で取りに行って皆とワイワイ喋りながら食べるつもりだったところが、歩き方がおかしいことを衆目にさらす羽目になるとやんわりと言われ、撃沈したのだ。

 マトヴェイ部長に関しても、同じテーブルで席を用意しようとしていたみたいだったけど、こちらはこちらで、ベルセリウス将軍やウルリック副長たち、イデオン公爵領防衛軍の皆さま方が、あまりバリエンダールで交流を深められなかった分、今日こそは色々と「英雄」の話が聞きたいと、別テーブルのセッティングをセルヴァンに詰め寄り、結果、着席テーブルが二つセットされることとなっていた。

「――おお、賑やかだな」

 落ち着いた声に振り返ると、入口の方からテオドル大公が片手を上げていて、その後ろにエドヴァルドとコンティオラ公爵が続く形で、中へと歩いて来ていた。

「大公様」

 いち早く反応したシャルリーヌが「伯爵令嬢」の仮面を被って、ギーレン仕込みの〝カーテシー〟を披露する。
 私は――色々な意味で、ちょっと出遅れた。

 頭を下げようとしたところ「い、い」と、先にテオドル大公に止められてしまう。

「其方達二人は、知らぬ仲でもないからな。要らぬ気遣いは不要だ。それにレイナ嬢は、バリエンダールでの強行軍がたたって、昨日はとも聞く。楽にしてくれて構わん」

「「「…………」」」

 テオドル大公の表情を見るに、どうやら純粋にこちらを心配してくれている。

 とすると、間違っているようで合っているその話を吹き込んだのは誰だ、と言う話になる。

 皆が恐る恐るエドヴァルドを見ていたけれど、肝心の当人は誰とも視線を合わさずに、何事もなかったかの様な表情で、大公サマの後ろを歩いていた。

(……エドヴァルド様……)

 それでも、私を含め幾人かは、その無表情の向こうの偽りをしっかりと悟っていた。

「あ……りがとうございます、大公殿下。氷漬けの魚や貝がそろそろ限界かと思い、今日の昼食会となりました。座っていれば問題ありませんので、一部作法に反する部分はどうかご容赦いただきたく思います」

 テオドル大公に、そう説明をした私の表情は、十中八九痙攣ひきつっていたことだろう。

「うむ。其方も気にはせんであろう?コンティオラ公」

 気配り上手なテオドル大公は、コンティオラ公爵にも「無礼講」とでも言いたげな、柔らかな圧をかけていた。

 アンディション侯爵と名乗っていた頃は、好々爺的な印象も濃かっただけに、改めて、王族の血を持つ人なのだなと実感させられた。

 コンティオラ公爵としても、黙って頷く以外に取れる態度はなかっただろう。
 大公殿下の言う通りだ、と相変わらずの声量のない声で、そう答えていた。

「ボードリエ伯爵令嬢も、ここでは過剰な挨拶は不要だ。王宮の外で言葉を交わすのは初めてかも知れぬな。ケイス・コンティオラ――コンティオラ公爵家当主だ」

 テオドル大公に続いてしようとしていた〝カーテシー〟を、手で押しとどめるようにしながら、コンティオラ公爵は先にこちらへと話しかけてきた。

 ……後でシャルリーヌに聞いたところによると、一割の聞き取りを九割の想像で補っていた、と言うことらしいけど、この時はニッコリ笑って見事な外交用の仮面を顔に貼り付けていた。

「ボードリエ伯爵が娘シャルリーヌにございます。以後お見知りおき下さいませ」
「ああ」

 そしてここは私も、ホタテのお礼をしなくちゃ!と、お腹に気合を入れて言葉を発する。

「コンティオラ公爵閣下、先ほどマトヴェイ外交部長より、予想以上の〝ジェイ〟ほたてをいただきました。ありがとうございます。本日は色々な調理法を試させて頂きましたので、参考になれば幸いにございます」

「ああ……参加料には足りただろうか」

「小娘が生意気を申し上げました。閣下の寛大なお心に感謝いたします」

「王都は内地だ。なかなか味も名前も浸透しづらいところはあるのだが、確かに今日は、少しでも裾野が広がればと、期待して来た面があるのは否定をしない」

 そう言いながら、コンティオラ公爵は視界の端にホタテの貝殻を収めている。

「アレは……そのまま、火にくべるのか?」

「はい」

 私も軽い相槌を打ちながら、ホタテの説明から始めることにした。
しおりを挟む
感想 1,453

あなたにおすすめの小説

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。