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第二部 宰相閣下の謹慎事情
462 シーグちゃんに叱られる⁉
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エプレのお酒は割とポピュラーらしく、特に名前が付いていないとの話だったけど、その他のバートレット、ミード、グレベン、ヴィット――は、それぞれ西洋梨、ハチミツ、ベリー、じゃがいもを主な原材料にした、お酒の銘柄を指しているとの話だった。
ただ、ユレルミ族の族長夫人であるランツァさんに、あくまでエプレのお酒としての話を聞いていると、土器等の容器に原料となる果実が放置されていた結果の、偶然の産物として出来たのがきっかけだったらしく、それを考えるとビネガー、魚醤なんかと原理は同じと言う事になる。
どうやらお酒が先で、更なる放置がビネガーに繋がるっぽいので、そのあたりはこれからの研究次第になるだろう。
この地域はエプレ中心に育てられているようなので、梨やベリーのお酒を造っている所に頼んで、発酵醸造のタイミングを学んでもらうと言うのもアリなのかも知れない。
当然、それにはサラさんの協力が不可欠になってくるだろうけど。
……って言うか普通に食べたいな、梨。
それぞれのお酒を一口ずつ飲んだ私の感想と、酒豪揃いの軍の皆様の感想を突き合わせてみたところによると、リンゴや梨は女性受けしそうだと思った私と、恐らくはアルコール度数が高く、じゃがいもを主原料としつつ様々なスパイス(香草)で味付けがなされているヴィットは、酒好きに喜ばれるとの意見になった。
サラさんとの話次第にはなるだろうけど、リンゴはこの辺りの地域でビネガーに集中したい。
国外に持ち出すとすれば、梨とじゃがいものお酒かなと、あたりをつけておく。
ただ、残りのお酒も知らなかった事にするのはもったいないので、瓶を工夫して、バリエンダールのお店に並べても良いかも知れないと、ふと思った。
「サラさん、明日の朝、熱下がってると良いけど……」
そう思いながら、この日の夜は私もカゼッリ族長の家にお世話になった。
「あーあ……コレでもう、明日の夕方までに帰るのは不可能になっちゃったわ……一縷の望みくらいはあるかと思ったのに」
部屋に案内して貰って、アルプスの少女が暮らした山小屋の様な内装の部屋と、干し草をシーツで覆ったベッドの上にドサリと腰を下ろすと、荷物を床に置いたシーグが、軽く目を見開いていた。
「……うん?どうかした?」
「いえ……この部屋とか寝台とかに何も思わないのかな、と」
「え?この干し草ベッド?いいじゃない。北部地域に来ました!って言う貴重な体験でしょ。ホントは外でテント張りたかったけど、まあ、コレはコレで面白体験だから、良いよ」
遊牧民生活としては、テントとラグの方が遥かにそれらしい筈だけど、ハ〇ジ体験だって、良い話のタネだ。
「意外とたくましい……」
「年頃の女の子捕まえて『たくましい』はナイでしょ。私だってまだ10代なんだから」
ああ……って、何、その「今思い出した」みたいな表情!
「って言うか、お嬢様。まさか本気で明日帰れると思ってたんですか?」
そして、めっちゃ白い目でこっちを見てる。
当たり前だけど、忖度ないわー、このコ。
別に不愉快にはならないから、良いんだけどね。かえってラクだし。
「だって本当だったら今ごろアンジェスに帰っていて、紹介がないと入れないって言う、国一番の高級レストランに行く筈だったんだよ?一縷の望みくらい持ちたかったんだってば」
「公爵様だったら、いくらだって予約の取り直しくらい出来るのでは」
「いや、まあ、それはそうなんだけどね?本当なら、そこで求婚の返事をする筈だったから、多分今頃絶賛氷点下だろうなぁ……と」
「……はい?」
「あ」
窓の外に視線を向けながら、ついポロっと口を滑らせてしまい、シーグの「はい?」は盛大に語尾の上がったものになっていた。
何言ってんだコイツ、的な要素満載の表情になっている。
「婚約者なんじゃ?」
「いや、それはそうなんだけど、サレステーデのお馬鹿王子の来襲で、なし崩し的に結ばれたみたいなものだから、ちゃんと考えて、改めて返事――って、何で私ここでペラペラ喋ってんのよ」
「……お嬢様は馬鹿ですか?」
「うっ…‼」
どこぞのミステリー小説の執事のセリフにも似た、容赦のないシーグの一言に、私は干し草ベッドの上に、胸を抱えて倒れ込んだ。
もちろん、私は「クビよ!」なんて言わない。
この場合、私の方が圧倒的不利な状況に立たされているのだから。
「だったら何で、わざわざここまで来てるんです!いや、そもそもは大公殿下の事があったかも知れませんけど、それにしたってわざわざ深入りしてますよね⁉自分の人生の一大事でしょう?ちゃんと考えられてます?ませんよね⁉」
「ううっ」
……シーグ、お願いだから抉らないで。
「いや、シ…イオタなら分かるでしょ?実績を積んで役に立ちたいって言うのは」
「それは……」
ずっとエドベリ王子に仕えて、王子の為にと動いてきたシーグに、理解が出来ないとは思えない。
視線でそう訴える私に、一瞬シーグは言葉に詰まっていたけど、すぐに気を取り直したのか「で・す・が!」と、声を上げた。
「絶賛氷点下になるって、自分で言うくらいなら、怒っているって言うより、心配かけそうだって言うのは分かってるワケですよね⁉お嬢様が周りから認められたいって思っているのは、イヤと言うほど分かりましたけど!だけどそれって、どこまであの閣下がお望みかって、考えたコトあります?空回りしてません?」
「イオタぁ……」
更にダメ押しで抉られた私が、ちょっと涙目でシーグを見上げると、シーグは思いもよらない反応だったのか、盛大に表情を痙攣らせていた。
「ま、まあ、言っても今更なんで……せめて今からでも考えてみたらどうですか」
うん。根は良い子なんだよねぇ……。
そして既にリックよりもシッカリしている気が、ヒシヒシと。
「とりあえず、私はちょっと外を巡回して――⁉︎」
言いかけたシーグが、慌てた様に窓の側へと走り寄った。
「お嬢様、ちょっと距離はあるみたいですけど、外に魔力の光が!もしかしたら、リファが――」
「え⁉︎」
私には見えないけど、シーグの目には何かが映ったんだろう。
待って!と私は慌てて引き留めた。
「一人で行っちゃダメ!もしリファちゃんが大公様と接触したなら、レヴが分かるって言ってたから、まずはレヴに確認しないと!」
「あ、そ、そうですよね!お嬢様はここにいて下さい。とりあえず、私が――」
ちょうどそのタイミングで、部屋の扉が軽く叩かれ「レイナ様」と、トーカレヴァの声が聞こえた。
「イオタ、開けて?ちょうどレヴが来たみたい」
さすがに、ここでいきなり私が扉を開ける訳にはいかないので、そっと扉に近づいたシーグが、少しだけ扉を開ける形で、外の訪問者を確認していた。
そしてどうやらホンモノだったようで、開けた扉の向こうから、音を立てずにトーカレヴァが部屋の中に滑り込んできた。
「レヴ、イオタが『魔力の光が見えた』って、今言ったんだけど、合ってる?リファちゃん頑張ったっぽい?」
「ええ。大公殿下と会えたのか、外で狼煙を上げたのかまでは不明ですけど、殿下のいらっしゃる大体の居場所は分かりましたよ」
「「‼」」
予想していたとは言え、私とシーグは思わず顔を見合わせていた。
北方遊牧民達が使役するシロフクロウに見つかって襲われたりしていないか、ちょっと心配だったのだ。
リファちゃん褒め倒してあげようね!と言う私に、コクコクとシーグも頷いている。
「さすがにこの時間から全員では出られないと思うんだけど、逆に朝まで全員待機って言うのも不安が残ると言うか……」
「分かってますよ、レイナ様。見たところ、明日行こうとしていた湖畔沿いで間違ってはいないので、今から先行して、正確な場所を突き止めてきます。レイナ様は明日、何食わぬ顔で出発してきて下さい。現地合流しましょう」
リファちゃんの存在は、対バリエンダール秘匿案件だ。
何故居場所が分かったのか、などと根掘り葉掘り聞かれない為にも、どさくさに紛れてトーカレヴァ一人だけ先に行かせておくのが一番現実的な気がした。
「分かった。夜中に無理させるけど、ゴメンね?」
「……そのお言葉で十分ですよ」
そう言って微かに口元を綻ばせたトーカレヴァは、宵闇に紛れるようにして、部屋を後にして行った。
いよいよ明日、事態は大きく動きそうだ。
ただ、ユレルミ族の族長夫人であるランツァさんに、あくまでエプレのお酒としての話を聞いていると、土器等の容器に原料となる果実が放置されていた結果の、偶然の産物として出来たのがきっかけだったらしく、それを考えるとビネガー、魚醤なんかと原理は同じと言う事になる。
どうやらお酒が先で、更なる放置がビネガーに繋がるっぽいので、そのあたりはこれからの研究次第になるだろう。
この地域はエプレ中心に育てられているようなので、梨やベリーのお酒を造っている所に頼んで、発酵醸造のタイミングを学んでもらうと言うのもアリなのかも知れない。
当然、それにはサラさんの協力が不可欠になってくるだろうけど。
……って言うか普通に食べたいな、梨。
それぞれのお酒を一口ずつ飲んだ私の感想と、酒豪揃いの軍の皆様の感想を突き合わせてみたところによると、リンゴや梨は女性受けしそうだと思った私と、恐らくはアルコール度数が高く、じゃがいもを主原料としつつ様々なスパイス(香草)で味付けがなされているヴィットは、酒好きに喜ばれるとの意見になった。
サラさんとの話次第にはなるだろうけど、リンゴはこの辺りの地域でビネガーに集中したい。
国外に持ち出すとすれば、梨とじゃがいものお酒かなと、あたりをつけておく。
ただ、残りのお酒も知らなかった事にするのはもったいないので、瓶を工夫して、バリエンダールのお店に並べても良いかも知れないと、ふと思った。
「サラさん、明日の朝、熱下がってると良いけど……」
そう思いながら、この日の夜は私もカゼッリ族長の家にお世話になった。
「あーあ……コレでもう、明日の夕方までに帰るのは不可能になっちゃったわ……一縷の望みくらいはあるかと思ったのに」
部屋に案内して貰って、アルプスの少女が暮らした山小屋の様な内装の部屋と、干し草をシーツで覆ったベッドの上にドサリと腰を下ろすと、荷物を床に置いたシーグが、軽く目を見開いていた。
「……うん?どうかした?」
「いえ……この部屋とか寝台とかに何も思わないのかな、と」
「え?この干し草ベッド?いいじゃない。北部地域に来ました!って言う貴重な体験でしょ。ホントは外でテント張りたかったけど、まあ、コレはコレで面白体験だから、良いよ」
遊牧民生活としては、テントとラグの方が遥かにそれらしい筈だけど、ハ〇ジ体験だって、良い話のタネだ。
「意外とたくましい……」
「年頃の女の子捕まえて『たくましい』はナイでしょ。私だってまだ10代なんだから」
ああ……って、何、その「今思い出した」みたいな表情!
「って言うか、お嬢様。まさか本気で明日帰れると思ってたんですか?」
そして、めっちゃ白い目でこっちを見てる。
当たり前だけど、忖度ないわー、このコ。
別に不愉快にはならないから、良いんだけどね。かえってラクだし。
「だって本当だったら今ごろアンジェスに帰っていて、紹介がないと入れないって言う、国一番の高級レストランに行く筈だったんだよ?一縷の望みくらい持ちたかったんだってば」
「公爵様だったら、いくらだって予約の取り直しくらい出来るのでは」
「いや、まあ、それはそうなんだけどね?本当なら、そこで求婚の返事をする筈だったから、多分今頃絶賛氷点下だろうなぁ……と」
「……はい?」
「あ」
窓の外に視線を向けながら、ついポロっと口を滑らせてしまい、シーグの「はい?」は盛大に語尾の上がったものになっていた。
何言ってんだコイツ、的な要素満載の表情になっている。
「婚約者なんじゃ?」
「いや、それはそうなんだけど、サレステーデのお馬鹿王子の来襲で、なし崩し的に結ばれたみたいなものだから、ちゃんと考えて、改めて返事――って、何で私ここでペラペラ喋ってんのよ」
「……お嬢様は馬鹿ですか?」
「うっ…‼」
どこぞのミステリー小説の執事のセリフにも似た、容赦のないシーグの一言に、私は干し草ベッドの上に、胸を抱えて倒れ込んだ。
もちろん、私は「クビよ!」なんて言わない。
この場合、私の方が圧倒的不利な状況に立たされているのだから。
「だったら何で、わざわざここまで来てるんです!いや、そもそもは大公殿下の事があったかも知れませんけど、それにしたってわざわざ深入りしてますよね⁉自分の人生の一大事でしょう?ちゃんと考えられてます?ませんよね⁉」
「ううっ」
……シーグ、お願いだから抉らないで。
「いや、シ…イオタなら分かるでしょ?実績を積んで役に立ちたいって言うのは」
「それは……」
ずっとエドベリ王子に仕えて、王子の為にと動いてきたシーグに、理解が出来ないとは思えない。
視線でそう訴える私に、一瞬シーグは言葉に詰まっていたけど、すぐに気を取り直したのか「で・す・が!」と、声を上げた。
「絶賛氷点下になるって、自分で言うくらいなら、怒っているって言うより、心配かけそうだって言うのは分かってるワケですよね⁉お嬢様が周りから認められたいって思っているのは、イヤと言うほど分かりましたけど!だけどそれって、どこまであの閣下がお望みかって、考えたコトあります?空回りしてません?」
「イオタぁ……」
更にダメ押しで抉られた私が、ちょっと涙目でシーグを見上げると、シーグは思いもよらない反応だったのか、盛大に表情を痙攣らせていた。
「ま、まあ、言っても今更なんで……せめて今からでも考えてみたらどうですか」
うん。根は良い子なんだよねぇ……。
そして既にリックよりもシッカリしている気が、ヒシヒシと。
「とりあえず、私はちょっと外を巡回して――⁉︎」
言いかけたシーグが、慌てた様に窓の側へと走り寄った。
「お嬢様、ちょっと距離はあるみたいですけど、外に魔力の光が!もしかしたら、リファが――」
「え⁉︎」
私には見えないけど、シーグの目には何かが映ったんだろう。
待って!と私は慌てて引き留めた。
「一人で行っちゃダメ!もしリファちゃんが大公様と接触したなら、レヴが分かるって言ってたから、まずはレヴに確認しないと!」
「あ、そ、そうですよね!お嬢様はここにいて下さい。とりあえず、私が――」
ちょうどそのタイミングで、部屋の扉が軽く叩かれ「レイナ様」と、トーカレヴァの声が聞こえた。
「イオタ、開けて?ちょうどレヴが来たみたい」
さすがに、ここでいきなり私が扉を開ける訳にはいかないので、そっと扉に近づいたシーグが、少しだけ扉を開ける形で、外の訪問者を確認していた。
そしてどうやらホンモノだったようで、開けた扉の向こうから、音を立てずにトーカレヴァが部屋の中に滑り込んできた。
「レヴ、イオタが『魔力の光が見えた』って、今言ったんだけど、合ってる?リファちゃん頑張ったっぽい?」
「ええ。大公殿下と会えたのか、外で狼煙を上げたのかまでは不明ですけど、殿下のいらっしゃる大体の居場所は分かりましたよ」
「「‼」」
予想していたとは言え、私とシーグは思わず顔を見合わせていた。
北方遊牧民達が使役するシロフクロウに見つかって襲われたりしていないか、ちょっと心配だったのだ。
リファちゃん褒め倒してあげようね!と言う私に、コクコクとシーグも頷いている。
「さすがにこの時間から全員では出られないと思うんだけど、逆に朝まで全員待機って言うのも不安が残ると言うか……」
「分かってますよ、レイナ様。見たところ、明日行こうとしていた湖畔沿いで間違ってはいないので、今から先行して、正確な場所を突き止めてきます。レイナ様は明日、何食わぬ顔で出発してきて下さい。現地合流しましょう」
リファちゃんの存在は、対バリエンダール秘匿案件だ。
何故居場所が分かったのか、などと根掘り葉掘り聞かれない為にも、どさくさに紛れてトーカレヴァ一人だけ先に行かせておくのが一番現実的な気がした。
「分かった。夜中に無理させるけど、ゴメンね?」
「……そのお言葉で十分ですよ」
そう言って微かに口元を綻ばせたトーカレヴァは、宵闇に紛れるようにして、部屋を後にして行った。
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