聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
417 / 815
第二部 宰相閣下の謹慎事情

462 シーグちゃんに叱られる⁉

しおりを挟む
 エプレりんごのお酒は割とポピュラーらしく、特に名前が付いていないとの話だったけど、その他のバートレット、ミード、グレベン、ヴィット――は、それぞれ西洋梨、ハチミツ、ベリー、じゃがいもを主な原材料にした、お酒の銘柄を指しているとの話だった。

 ただ、ユレルミ族の族長夫人であるランツァさんに、あくまでエプレりんごのお酒としての話を聞いていると、土器等の容器に原料となる果実が放置されていた結果の、偶然の産物として出来たのがきっかけだったらしく、それを考えるとビネガー、魚醤なんかと原理は同じと言う事になる。

 どうやらお酒が先で、更なる放置がビネガーに繋がるっぽいので、そのあたりはこれからの研究次第になるだろう。

 この地域はエプレりんご中心に育てられているようなので、梨やベリーのお酒を造っている所に頼んで、発酵醸造のタイミングを学んでもらうと言うのもアリなのかも知れない。

 当然、それにはサラさんの協力が不可欠になってくるだろうけど。

 ……って言うか普通に食べたいな、梨。

 それぞれのお酒を一口ずつ飲んだ私の感想と、酒豪揃いの軍の皆様の感想を突き合わせてみたところによると、リンゴや梨は女性受けしそうだと思った私と、恐らくはアルコール度数が高く、じゃがいもを主原料としつつ様々なスパイス(香草)で味付けがなされているヴィットは、酒好きに喜ばれるとの意見になった。

 サラさんとの話次第にはなるだろうけど、リンゴはこの辺りの地域でビネガーに集中したい。
 国外に持ち出すとすれば、梨とじゃがいものお酒かなと、あたりをつけておく。

 ただ、残りのお酒も知らなかった事にするのはもったいないので、瓶を工夫して、バリエンダールのお店に並べても良いかも知れないと、ふと思った。

「サラさん、明日の朝、熱下がってると良いけど……」

 そう思いながら、この日の夜は私もカゼッリ族長の家にお世話になった。

「あーあ……コレでもう、明日の夕方までに帰るのは不可能になっちゃったわ……一縷の望みくらいはあるかと思ったのに」

 部屋に案内して貰って、アルプスの少女が暮らした山小屋の様な内装の部屋と、干し草をシーツで覆ったベッドの上にドサリと腰を下ろすと、荷物を床に置いたシーグが、軽く目を見開いていた。

「……うん?どうかした?」

「いえ……この部屋とか寝台とかに何も思わないのかな、と」

「え?この干し草ベッド?いいじゃない。北部地域に来ました!って言う貴重な体験でしょ。ホントは外でテント張りたかったけど、まあ、コレはコレで面白体験だから、良いよ」

 遊牧民生活としては、テントとラグの方が遥かにそれらしい筈だけど、ハ〇ジ体験だって、良い話のタネだ。

「意外とたくましい……」
「年頃の女の子捕まえて『たくましい』はナイでしょ。私だってまだ10代なんだから」

 ああ……って、何、その「今思い出した」みたいな表情かお

「って言うか、。まさか本気で明日帰れると思ってたんですか?」

 そして、めっちゃ白い目でこっちを見てる。
 当たり前だけど、忖度ないわー、このコ。
 別に不愉快にはならないから、良いんだけどね。かえってラクだし。

「だって本当だったら今ごろアンジェスに帰っていて、紹介がないと入れないって言う、国一番の高級レストランに行く筈だったんだよ?一縷の望みくらい持ちたかったんだってば」

「公爵様だったら、いくらだって予約の取り直しくらい出来るのでは」

「いや、まあ、それはそうなんだけどね?本当なら、そこで求婚の返事をする筈だったから、多分今頃絶賛氷点下だろうなぁ……と」

「……はい?」

「あ」

 窓の外に視線を向けながら、ついポロっと口を滑らせてしまい、シーグの「はい?」は盛大に語尾の上がったものになっていた。

 何言ってんだコイツ、的な要素満載の表情になっている。

「婚約者なんじゃ?」

「いや、それはそうなんだけど、サレステーデのお馬鹿王子の来襲で、なし崩し的に結ばれたみたいなものだから、ちゃんと考えて、改めて返事――って、何で私ここでペラペラ喋ってんのよ」

「……お嬢様は馬鹿ですか?」

「うっ…‼」

 どこぞのミステリー小説の執事のセリフにも似た、容赦のないシーグの一言に、私は干し草ベッドの上に、胸を抱えて倒れ込んだ。

 もちろん、私は「クビよ!」なんて言わない。
 この場合、私の方が圧倒的不利な状況に立たされているのだから。

「だったら何で、わざわざここまで来てるんです!いや、そもそもは大公殿下の事があったかも知れませんけど、それにしたってわざわざ深入りしてますよね⁉自分の人生の一大事でしょう?ちゃんと考えられてます?ませんよね⁉」

「ううっ」

 ……シーグ、お願いだから抉らないで。

「いや、シ…イオタなら分かるでしょ?実績を積んで役に立ちたいって言うのは」
「それは……」

 ずっとエドベリ王子に仕えて、王子の為にと動いてきたシーグに、理解が出来ないとは思えない。

 視線でそう訴える私に、一瞬シーグは言葉に詰まっていたけど、すぐに気を取り直したのか「で・す・が!」と、声を上げた。

「絶賛氷点下になるって、自分で言うくらいなら、怒っているって言うより、心配かけそうだって言うのは分かってるワケですよね⁉お嬢様が周りから認められたいって思っているのは、イヤと言うほど分かりましたけど!だけどそれって、どこまであの閣下がお望みかって、考えたコトあります?空回りしてません?」

「イオタぁ……」

 更にダメ押しで抉られた私が、ちょっと涙目でシーグを見上げると、シーグは思いもよらない反応だったのか、盛大に表情かお痙攣ひきつらせていた。

「ま、まあ、言っても今更なんで……せめて今からでも考えてみたらどうですか」

 うん。根は良い子なんだよねぇ……。
 そして既にリックよりもシッカリしている気が、ヒシヒシと。

「とりあえず、私はちょっと外を巡回して――⁉︎」

 言いかけたシーグが、慌てた様に窓の側へと走り寄った。

「お嬢様、ちょっと距離はあるみたいですけど、外に魔力の光が!もしかしたら、リファが――」
「え⁉︎」

 私には見えないけど、シーグの目には何かが映ったんだろう。
 待って!と私は慌てて引き留めた。

「一人で行っちゃダメ!もしリファちゃんが大公様と接触したなら、レヴが分かるって言ってたから、まずはレヴに確認しないと!」

「あ、そ、そうですよね!お嬢様はここにいて下さい。とりあえず、私が――」

 ちょうどそのタイミングで、部屋の扉が軽く叩かれ「レイナ様」と、トーカレヴァの声が聞こえた。

「イオタ、開けて?ちょうどレヴが来たみたい」

 さすがに、ここでいきなり私が扉を開ける訳にはいかないので、そっと扉に近づいたシーグが、少しだけ扉を開ける形で、外の訪問者を確認していた。

 そしてどうやらホンモノだったようで、開けた扉の向こうから、音を立てずにトーカレヴァが部屋の中に滑り込んできた。

「レヴ、イオタが『魔力の光が見えた』って、今言ったんだけど、合ってる?リファちゃん頑張ったっぽい?」

「ええ。大公殿下と会えたのか、外で狼煙を上げたのかまでは不明ですけど、殿下のいらっしゃる大体の居場所は分かりましたよ」

「「‼」」

 予想していたとは言え、私とシーグは思わず顔を見合わせていた。

 北方遊牧民達が使役するシロフクロウに見つかって襲われたりしていないか、ちょっと心配だったのだ。
 リファちゃん褒め倒してあげようね!と言う私に、コクコクとシーグも頷いている。

「さすがにこの時間から全員では出られないと思うんだけど、逆に朝まで全員待機って言うのも不安が残ると言うか……」

「分かってますよ、レイナ様。見たところ、明日行こうとしていた湖畔沿いで間違ってはいないので、今から先行して、正確な場所を突き止めてきます。レイナ様は明日、何食わぬ顔で出発してきて下さい。現地合流しましょう」

 リファちゃんの存在は、対バリエンダール秘匿案件だ。

 何故居場所が分かったのか、などと根掘り葉掘り聞かれない為にも、どさくさに紛れてトーカレヴァ一人だけ先に行かせておくのが一番現実的な気がした。

「分かった。夜中に無理させるけど、ゴメンね?」
「……そのお言葉で十分ですよ」

 そう言って微かに口元を綻ばせたトーカレヴァは、宵闇に紛れるようにして、部屋を後にして行った。

 いよいよ明日、事態は大きく動きそうだ。
しおりを挟む
感想 1,453

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。

和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。 「次期当主はエリザベスにしようと思う」 父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。 リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。 「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」 破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?  婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。