聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
332 / 815
第二部 宰相閣下の謹慎事情

382 銀狼殿下と万華鏡の瞳

しおりを挟む
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

 バリエンダールが海洋国家と呼ばれる所以は、アンジェスの様に、ただ海に面しているだけでなく、複雑に入り組む湾や入り江が、地域によっては王都から200kmくらい先でも、まだ続いていると言う所にある。

 ゲーム上で見ていた限りは、多くのフィヨルドを抱えるスカンジナビア半島の先端付近が、バリエンダールの勝手なイメージではあるのだけれど。

 とは言え〝転移扉〟を抜けた先は、バリエンダール王宮に直結するため、今、外の景色を確かめる事は出来なかった。

「テオ殿!」

 案の定、若いながらも落ち着いた感じのする声が、到着後すぐさま耳に入ってきたので、私は周囲の目に触れないうちに、テオドル大公からは一歩離れて、マトヴェイ外交部長と共に視線を下げ、随行者らしい空気を形作った。

「久しいですな、殿下――いや、王太子殿下とお呼びすべきかな。やはり殿下の様な年代だと、6年も7年も会わぬと、雰囲気も変わるものですな。大きくおなりになられた」

「ははっ!其方そなたにかかると私もまだまだ子ども扱いされてしまうようだ!」

 やはりテオドル大公が、バリエンダール王家との、形式的ではない交流があると言うのは事実なんだろう。実の祖父にでも話しかけるかの様に「テオ殿」と相手むこうから親しげに話しかけているからだ。

 ――ミラン・バリエンダール。

 赤髪の王子様ことエドベリ・ギーレンに、如何にして対抗しうるか、乙女ゲーム〝蘇芳戦記〟運営側が頭を悩ませた結果の……〝万華鏡の瞳を持つ銀狼殿下〟だったんだろうなと、シャルリーヌと勝手な想像は膨らませていた。

 うん、まあやっぱり私よりサラサラっぽい銀髪とか「セントラル・ヘテロクロミア」と現代なら言われる、内側はゴールドとグリーン、外側はライトブルーと、ひとつの目に異なる色彩が出ている〝万華鏡の瞳〟は、静止画スチルの通りだった。

 どうやら王家の色らしいので、この分なら現実リアルのミルテ王女も静止画スチル通りに同じ色を持っているんだろうなと、ひとりでちょっと納得していた。

 ミラン王太子とミルテ王女との間には、確か私とエドヴァルド以上の年齢差があった。
 エドベリ王子よりも幾つか上だった筈だ。
 それもあって、バッドエンドが監禁ルートなどと言う物騒な設定になっていたのだろう。

 あくまでシスコンが拗れ切っただけに留まっていたのは、運営側にも良心があったと言う事か。

 閑話休題それはさておき

 テオドル大公は政変後は、王宮から退いてアンディション侯爵領にいたと言うから、確かに5~6年は会っていないのかも知れないし、その頃はまだ、ミラン王太子も成人はしていても「王太子」ではなかったんだろう。

 お互いが懐かしく思う側面があるのも、無理からぬ事だと言えた。

「テオ殿、早速で済まない。父である国王陛下も、ぜひ今回の顛末をテオ殿自身の口から聞きたいと、西の正面棟ファサードに最低限の人数での昼食会を用意させているのだ。お付き合い願えるだろうか」

「無論ですとも。世間話なら、夜でも明日でも出来る事ですからな。まずは本題を」

 鷹揚に頷いたミラン王太子の目が、ここでようやく同行者の方へと向いた。

「さすがにユリア殿は今回は来られぬか。妹が、息災かどうかと気にしていたのだが」

「これは有難い。王女殿下に気にかけて頂いていると知れば、妻も喜びましょう。そうですな…息災にはしておりますので、また今回の事態が落ち着いたら、私的に来れるか陛下にお伺いを立ててみますとも」

「そうか。ならばそれだけでも妹には後で伝えておこう。それで――」

「ああ。今回は妻を連れて来れぬ代わりに、私が今、孫同然に目をかけている娘を紹介したいと思いましてな。バリエンダール語にもサレステーデ語にも不自由をしておりませんし、アンジェスとギーレン両国の商業ギルドに伝手を持っているので、話題にも事欠かぬ。書記官としてだけでなく、王女殿下の話し相手にも充分なれるかと。後はもう一人外交官と、残りは護衛の様な者と認識しておいてくれて構いませんぞ」

 とりあえず、相手は一国の王太子。
 視線は感じたものの、私は言葉は発さずに〝カーテシー〟で頭を下げるだけに留めた。

 と言うかテオドル大公、マトヴェイ外交部長の方が本来ならば「外交官」で片付けられない人ですよね⁉

 わざとですか、わざと皆の関心を私の方へと向けさせる事で、マトヴェイ外交部長にある程度の行動の自由を持たせるつもりですか⁉

「――名を聞いておこうか」

 そんな私の内心の葛藤は、当然ながら誰に理解される事もなく、一応、最低限の礼儀は遵守されたと、王太子が理解したところで、案の定こちらへと話しかけてきた。

「レイナ・ユングベリにございます。大公殿下の仰られた通りに、現在ユングベリ商会の商会長をしております」

「ほう……女性の商会長か。まあどの国も商業ギルドや職人ギルドでは、女性が男性並みに仕事をしていると聞く。確かに妹も興味を示すかも知れないな。まして、テオ殿の推薦付ときている。これは、会わせぬ訳にもいくまい」

「光栄に存じます」

「昼食会には、元々『書記官』及び『外交官』の参加は認められている。事前にそのように連絡もあった事だし、どちらも国同士の対話の中においては参加必須とされる役職だ。まさかその片方が女性だとは聞き及んでいなかったが、テオ殿が認めた随行者と言う事で、誰も表立って非難はすまい」

 これも、テオドル大公がこれまで積み上げてきた信頼と人脈の為せる業だろう。
 ミラン王太子の声からも、とりたてて不快な感情は感じ取れない。

 どちらかと言うと可もなく不可もなく、今のところはさほど関心がない――と言った感じだ。

 まあ、サレステーデ王族が起こしている事件の詳細を知りたいと言う思いの方が、今は殊のほか強いに違いない。

「明日、妹主催の茶会…と言っても、テオ殿との面識がある者ばかりだが、昼間に開かれる予定だ。テオ殿にあてがわれた部屋には妹の手製の招待状が置かれているだろうが、妹には追加参加者の連絡を入れておくから、テオ殿と共に参加すると良い。護衛を見越して食事も飲み物も多めに用意されているだろうから、一人くらい増えたとて問題ないだろう」

「おお、ミルテ王女主催とは、それは光栄。もしや初めての主催では?」
 
 もともと、着いた翌日は王族関係者との昼食会があるだろうと、テオドル大公は言っていた。

 ただ年齢を考えると、主催が15歳の王女殿下とは思っていなかったのかも知れない。
 それにゲーム設定では「病弱」だった筈で、主催自体可能なのか。

 実際に、大公もちょっと驚いた声をあげていた。

「ああ。そのうち主催はせねばならないだろうが、侍女長が、テオ殿との茶会ならば肩肘張らずに良い練習になるのではないかと言ってきたからな。私と陛下も、それを了承したんだ」

「なるほど。では王女殿下の初めての主催を温かく見守る事といたしましょうか。確かにそう言う事ならば、妻も一緒に来られれば良かったのでしょうな」

「まあ、テオ殿が合格だと思えば、ユリア殿も交えての次の約束でもしてやってくれ。励みにもなるだろう」

 ……なんだろう、ここのところ、おかしな王族ばかりを見てきた所為か、ミラン王太子に後光が差している錯覚を一瞬覚えてしまった。

 いや、本人の性格はまだ何とも分からないけど、少なくとも公務にはそれを反映させてこない、これまで見た中でもっともマトモな王族に見えるのは、私がだいぶ荒んでいるからだろうか。

「では、西の正面棟ファサードに案内させて貰おう」

 そう言ってミラン王太子は身を翻した。
しおりを挟む
感想 1,453

あなたにおすすめの小説

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。