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「いぬもと、き……つまり、『戌もどき』である、『戊』に相応しいのは……いぬもと、お前だけってわけだ!」
「……相変わらずこじつけな理由なのに、なんでそんな強気に出れるのかしら」
「僕の名前のはじめって、”き“とも読むんだけどさー?
 ”もと”とも読むんだよねー。……?」
「……反論出ててるわよ、コウ」
「とにかく!! お前が必要なんだよ!」
「あははー、僕は別に何でもでもいいよー?」

 いつもの肯定返事。
 きっと……しっかりした理由なんかなくたって、バウは絶対参加してくれる。

ーーでも、それじゃ……ダメなんだ。

「ああーっ、わかった~! コウちゃんがバウ君にこだわる理由……これじゃない!?」

 そう言ってミホが見せたのは、スケッチブックに描かれた人狼陣営の役職カード。
 没になったラフも幾つか描かれている原画だった。

「あ。それ……もしかして、僕の愛犬バウがモデルなの?」
「ああー、えーっと……カッコいい狼のイメージが、さ。
 お前ん家のバウしか、思いつかなかったんだよ」

 そのまんまの意味だった。
 でも、頭の片隅で。バウにこれを見せたら、凄く喜ぶんじゃないかって。

ーーそう思っていたのが、本音だ。

 バウのおかげで、最高のデザインになった。
 だから、そのお礼を言わなければいけない。
 
 そう、思っていた。

「あはは、ミホちゃん上手ー。
 実際のバウは……こんなカッコいい顔じゃ、ないけどね」
「そんな事ねーって! カッコいいよ、バウ! ……俺には、そう見えてる」
「あはは……ありがとう」

 気持ちは、焦っていた。
 照れ臭さと……あり得ないと思っていても、バウからの参加拒否の可能性も想像してしまう。

 しばらくそのイラストを見つめた後、バウから切り出した。

「仲間に入ったら……僕も、この役職になれるの?」
「それは……運次第だな」
「……そっか」
「ち・な・み・に! 今入れば、俺様の考えたカッコいいコードネーム付きだぜ?」
「ええー? またコウが考えるのー?」
「不満かよ!?」
「ううん。聞かせてよ」
「バゥッ! じゃなくて…………ヴォゥッ! って感じの、超カッコいい、名前だよ!」
「だから、どんな名前なの?」
「……ヴォウ」
「え? バウ?」
「ヴ、だよ! ブイッ! ローマ字習っただろ!? ヴォウ!」
「……ップ、ハハハハハ! ……それ、最高だよ。コウ」
「な? そうだろ?」

 本人が気に入った以上、アオイからも「問題無いわ」と許可が出た。
 そう言うと、アオイは何も言わずに自分の席に戻ってしまった。

ーーああ。もう直ぐ、チャイムが鳴るから……か?

 ミホはカードデザイン協力にも感謝しつつ、仲間となったヴォウを誰よりも大・大・大歓迎していた。

「遂にちっちゃい文字仲間だ~! やった~!」
「ちっちゃい文字……?」
「みんな3文字なのにさ……私だけ“ィ“小さいイ入ってて、英語っぽくて?
 なんか……寂しかったんだもん?」
「な、なるほどー!」
「わからんっっ!!」

 何となくで理解したをするバウ。
 ミホの考えてる事は、正確には……良くわからん。
 でも、独占欲より寂しい感情が勝るってのが、ミホらしいなと思った。


 根が真面目なバウは、好奇心旺盛で勉強好きだ。
 早速未知の人狼ゲームに興味をもち、マコトとも相性が良く、直ぐに打ち解けた。

 俺は言わずもがな問題無し。
 ヒカルもバウとは元々仲が良いので問題無し。

ーー順調……なんだよな?

 人数が増えて行くにつれて。
 アオイが度々1人になる事が多くなっていくのが、気になり始めた。
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