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【6】
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登校初日。
期待に胸を膨らませたアオイは、赤いハイビスカスのワンピースを選んだ。
祖母が好きな紅色のリボンも合わせた。
ーー私は、赤も好きだけど……紅が、好きだ。
黒板に名前を書いた教員は名前を読み上げると、自己紹介するよう促した。
極度の緊張のせいか、名前を再び読み上げる行為でさえ恥じらい、それ以外に何を言えば良いのかわからなくなった。
両親や祖父母前では明るかったアオイも、見知らぬ子ばかりの教室では何も話せなくなってしまった。
ーー皮肉ね。今日の私はこんなに紅いのに。
顔は青くて、真っ黒の髪。
紅いリボンの付いた頭の中は、真っ白。
教室内は既に顔見知り同士でのグループが出来ていて、アオイの孤立は加速していった。
ハイビスカスのワンピースをクラスの女子が指さし、耳打ちをする。
『名前も赤柄。服も赤。頭のリボンまで赤。名前は、”青い“なのにね』
ーーそう、思うよね。私だって、最初は知らなかったんだもの。
声をかけようと意を決したアオイの耳に、更に入ってきた声。
『もしかして、赤が似合ってるとでも思ってんのかな?』
ーーもしかして? 思ってる……?
ハイビスカスのそれは、流行り物だったらしく。
翌日、何人かの女子が似た服を着て来ていた。
『赤も似合わない。青だって似合わない。どっちも似合わないくせに。
色の入った変な名前。親に捨てられて、祖父母の家で暮らしてる。
そんな可哀想な根暗女には、黒がお似合のネクロちゃん』
ーーネクロちゃん。
そう呼ばれる様になった。
申し訳程度のちゃん付けは、嫌味にしか感じなかった。
それでも、その現実を受け入れられずーーネクロの言葉を調べ続けた。
いくら魔法の本で調べても、考えても。
愛称として相応しいーー嬉しい理由なんて、みつから無かった。
その中でも、やっと見つけたそれは、”死を操る魔術師“
けして、カッコいいからとつけてくれたあだ名じゃなかった。
マンシーのつかないネクロは”死”という意味を表す言葉。
アオイが何も言えない間に。
何も言わないその姿が1人歩きして、デマを作り上げ、広めていった。
声を上げれば届いたかもしれないのに、声は出なかった。
ーー本当に、出ないのか?
出した声は言葉にならず、涙声になった。
『何か喋ったかと思ったら、ネクロちゃんが鳴いたぞ!』
ーー鳴き声・呻き声と馬鹿にするその声こそ……人間離れした化け物だ。
大好きな両親が考えてくれた葵の名前と、大好きな祖父母から引き継いだ赤柄の苗字。
一部の要らない存在のせいで、好きな物を嫌いになりかけた自分が、悔しかった。
「お爺ちゃん。私、この学校で6年生になりたくない」
その言葉の意味を、祖父母は深くは言及せず、抱き止めた。
一緒に住み始めてから不満を漏らさなかったアオイが、涙ながらに訴えた。
両親も驚き、今の今まで気付けなかった自分達を責めたてていた。
両親は近所に家を建てる準備を進める中、祖父母が提案した。
「アオイ。お母さんのじいじとばあばのお家に行こう。自然が多くて、良い所だから」
「でも、ちょっと遠いよ。お爺ちゃんに会えなくなっちゃう」
「会えるさ! 新幹線であっちゅう間に行ける。じいちゃん達も大好きな場所さ。
アオイも気にいると思うよ」
「でも、新しいお家が出来るのに……」
「都会な此処と違って、田舎だ。
でも、あそこなら、きっと優しい人達が迎え入れてくれるから」
ーー厄介払い、かな?
そう、思ってしまったアオイから目を逸らす両親。
顔の見えない2人の気持ちは、読み取れない。
そんな沈黙を割いて、アオイに声をかけたのは祖母だった。
「……昔ね。アオイのお父さんも、アオイと同じ事言ったわ」
「お父さんも…………イジメられた?」
ーー言ってしまった。
誤解があるかもしれないし、させたかもしれない。
ただ確かめたい気持ちが先走り、まわりに気を配らず口にした。
その言葉に、両親は涙していたが……祖母は、強い。笑っていた。
「そうね。ここは都会で、便利だけど……お仕事の頑張り過ぎで、心に余裕が無い人が多いかもしれない」
「お仕事……って」
「お父さんが言ったのは、お父さんになる前……大人になってからだったの。
その時、辛かったお父さんを助けてくれたのがお母さんと……お母さんのご両親と。故郷なの」
「お母さん側の祖父の家……」
「此処も。新しく出来るお家も。じいじの家だって……全部、アオイの家だよ。
寂しくなったらいつでも、幾らでも来たら良い。
でも、学校は今しか行けないから。優先しなさい」
2度とこんな思いはさせない、と両親や兄姉が謝罪する中、アオイは誓う。
ーーこっちこそ。絶対、こんな惨めな思いしないし、誰にもさせない!
そして。アオイは6年生への進級に合わせて。
今の学校へ転校生としてやってきたのだった。
期待に胸を膨らませたアオイは、赤いハイビスカスのワンピースを選んだ。
祖母が好きな紅色のリボンも合わせた。
ーー私は、赤も好きだけど……紅が、好きだ。
黒板に名前を書いた教員は名前を読み上げると、自己紹介するよう促した。
極度の緊張のせいか、名前を再び読み上げる行為でさえ恥じらい、それ以外に何を言えば良いのかわからなくなった。
両親や祖父母前では明るかったアオイも、見知らぬ子ばかりの教室では何も話せなくなってしまった。
ーー皮肉ね。今日の私はこんなに紅いのに。
顔は青くて、真っ黒の髪。
紅いリボンの付いた頭の中は、真っ白。
教室内は既に顔見知り同士でのグループが出来ていて、アオイの孤立は加速していった。
ハイビスカスのワンピースをクラスの女子が指さし、耳打ちをする。
『名前も赤柄。服も赤。頭のリボンまで赤。名前は、”青い“なのにね』
ーーそう、思うよね。私だって、最初は知らなかったんだもの。
声をかけようと意を決したアオイの耳に、更に入ってきた声。
『もしかして、赤が似合ってるとでも思ってんのかな?』
ーーもしかして? 思ってる……?
ハイビスカスのそれは、流行り物だったらしく。
翌日、何人かの女子が似た服を着て来ていた。
『赤も似合わない。青だって似合わない。どっちも似合わないくせに。
色の入った変な名前。親に捨てられて、祖父母の家で暮らしてる。
そんな可哀想な根暗女には、黒がお似合のネクロちゃん』
ーーネクロちゃん。
そう呼ばれる様になった。
申し訳程度のちゃん付けは、嫌味にしか感じなかった。
それでも、その現実を受け入れられずーーネクロの言葉を調べ続けた。
いくら魔法の本で調べても、考えても。
愛称として相応しいーー嬉しい理由なんて、みつから無かった。
その中でも、やっと見つけたそれは、”死を操る魔術師“
けして、カッコいいからとつけてくれたあだ名じゃなかった。
マンシーのつかないネクロは”死”という意味を表す言葉。
アオイが何も言えない間に。
何も言わないその姿が1人歩きして、デマを作り上げ、広めていった。
声を上げれば届いたかもしれないのに、声は出なかった。
ーー本当に、出ないのか?
出した声は言葉にならず、涙声になった。
『何か喋ったかと思ったら、ネクロちゃんが鳴いたぞ!』
ーー鳴き声・呻き声と馬鹿にするその声こそ……人間離れした化け物だ。
大好きな両親が考えてくれた葵の名前と、大好きな祖父母から引き継いだ赤柄の苗字。
一部の要らない存在のせいで、好きな物を嫌いになりかけた自分が、悔しかった。
「お爺ちゃん。私、この学校で6年生になりたくない」
その言葉の意味を、祖父母は深くは言及せず、抱き止めた。
一緒に住み始めてから不満を漏らさなかったアオイが、涙ながらに訴えた。
両親も驚き、今の今まで気付けなかった自分達を責めたてていた。
両親は近所に家を建てる準備を進める中、祖父母が提案した。
「アオイ。お母さんのじいじとばあばのお家に行こう。自然が多くて、良い所だから」
「でも、ちょっと遠いよ。お爺ちゃんに会えなくなっちゃう」
「会えるさ! 新幹線であっちゅう間に行ける。じいちゃん達も大好きな場所さ。
アオイも気にいると思うよ」
「でも、新しいお家が出来るのに……」
「都会な此処と違って、田舎だ。
でも、あそこなら、きっと優しい人達が迎え入れてくれるから」
ーー厄介払い、かな?
そう、思ってしまったアオイから目を逸らす両親。
顔の見えない2人の気持ちは、読み取れない。
そんな沈黙を割いて、アオイに声をかけたのは祖母だった。
「……昔ね。アオイのお父さんも、アオイと同じ事言ったわ」
「お父さんも…………イジメられた?」
ーー言ってしまった。
誤解があるかもしれないし、させたかもしれない。
ただ確かめたい気持ちが先走り、まわりに気を配らず口にした。
その言葉に、両親は涙していたが……祖母は、強い。笑っていた。
「そうね。ここは都会で、便利だけど……お仕事の頑張り過ぎで、心に余裕が無い人が多いかもしれない」
「お仕事……って」
「お父さんが言ったのは、お父さんになる前……大人になってからだったの。
その時、辛かったお父さんを助けてくれたのがお母さんと……お母さんのご両親と。故郷なの」
「お母さん側の祖父の家……」
「此処も。新しく出来るお家も。じいじの家だって……全部、アオイの家だよ。
寂しくなったらいつでも、幾らでも来たら良い。
でも、学校は今しか行けないから。優先しなさい」
2度とこんな思いはさせない、と両親や兄姉が謝罪する中、アオイは誓う。
ーーこっちこそ。絶対、こんな惨めな思いしないし、誰にもさせない!
そして。アオイは6年生への進級に合わせて。
今の学校へ転校生としてやってきたのだった。
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