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「ねえねえ、マコトくん」

 ミホが、いつの間にか会話から外れていた事に気が付いた。
 見れば、自由帳帳に中々上手なドレスを着た女の子の絵が描かれていた。

ーー本当は、人狼ゲームなんて、好きじゃない癖に。

 お絵描きの方が好きで、本当は一緒にお絵描きしたい、とでも言いたいだろうに。
 ミホは、一度もそんな事、言った事がない。

 俺だってミホが嫌がる遊びに付き合わせたいわけじゃない。
 趣味の合う友達を見つけて、そいつらと遊んだら良いと思ってる。

 でも、それを言う勇気が俺には無い。

 ミホが俺を怒らせてくれれば。
 怒りに任せてなら、簡単に言えてしまいそうなのに。

 ミホは馬鹿な癖に、気遣い屋だ。
 俺を本気で怒らせるような事を絶対に言わない。
 マコトにだってそうだった。

「なに? ミホちゃん」
「人狼ゲームに、”お姫様“って役職無いの?」
「んなのあるかよ! ゲームの舞台、村なんだぞ!?」
「ははは。コウもそんな事言わずにさ? お姫様の能力教えてよ、似た様な役職ならあるかもしれないし」
「のうりょく~? えーと……何でも言う事聞いて貰える、とか」
「……はあ。『人狼ゲ~~ム! GMの言う事は~?』……はい」
「「ぜった~~いっ!!」」
「それってGMじゃんか! GMは参加できねーよ。ゲーム破綻すんじゃん」
「まあまあまあ! んーと……何でもっていうのを、もう少し具体的な内容、言える?」

「えーと……誰も死ななくてー、ジャンケンみたいに頭良くなくても出来てー、仲間外れが居ないゲームに……出来る、能力?」

 悩みながら、戸惑いながら。
 ミホが機嫌を伺いながら、言葉を探り探り言っているのは目に見えてわかった。

 この時の俺はまだ、「馬鹿だなー」程度にしか思っていなかった。
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