27 / 54
第27話 謎の少女7
しおりを挟むあの日からロリエはノースバウムの外れに簡易的な住居を構えて住みついている。
おかげで俺は毎晩いつ寝込みを襲われるかも分からないと戦々恐々とした日々を送っているが、今のところまだ被害には遭っていない。
ロリエの事だ、諦めたとは考えにくい。
きっと機会を狙っているのだろう。
そんなある日、村の広場で日課である黒魔法の修練をしていたら魔王の使者と名乗る魔族が一通の書状を持って俺を尋ねてきた。
開封して中身を読んでみると、その内容は予想だにしないものだった。
「うーん、いきなりそんな事を言われてもなあ……」
「どうしたのルシフェルトお兄ちゃん?」
難しい顔で唸っている俺を気に掛けてレミュウが声を掛ける。
「レミュウ、魔王から書状が届いてね……」
「魔王様からのお手紙? さすがルシフェルトお兄ちゃん。それでなんて書いてあるの?」
「俺とロリエの縁談の話だよ。この話がまとまったら俺にロリエの補佐として魔界北部の統治を任せたいらしい」
「ルシフェルトお兄ちゃんがロリエ様と結婚するってことは、魔王様の義理の兄になるってこと? すごーい!」
レミュウは目を輝かせながらはしゃいでいる。
「いや、これは所謂政略結婚ってやつでね。そうなった方が魔王にとって都合がいい事情があるのさ。さすがに簡単に首を縦に振れないよ。それにそもそもロリエにもそんな気はないだろうしね」
俺も貴族の生まれではあるので政略結婚については特にどうこう言うつもりはない。
むしろ貴族の間では恋愛結婚の方が珍しい。
しかし今の俺は貴族の位はとっくに剥奪されており、平民どころか罪人の身分だ。
今更この身を政治に利用されるなんてまっぴらだ。
「ふーん、それはどうかなあ。ロリエ様はルシフェルトお兄ちゃんの事が好きだと思うけどな」
「それはないない。そもそもロリエが狙っているのはあくまで俺の黒魔力だけだからね。そもそもあの内面筋肉ゴリラが人間に対して恋愛感情を持ってると思う?」
「それはちょっと言い過ぎだよお兄ちゃん」
「筋肉ゴリラで悪かったですわね」
「うぐっ……ロリエ……どうしてここに?」
最悪のタイミングで当のロリエがやってきた。
「今の発言は後程一発引っ叩かせていただくとしまして、それよりもアデプトから書状が届いてんですって? どうせ碌でもない内容なんでしょうけど」
本気で怒っている訳ではないだろうけど、ロリエの馬鹿力で引っ叩かれたら俺の身体なんて簡単に壊れてしまう。
俺は苦笑して誤魔化しながら話を続けた。
「そうなんだよ、ちょっと読んでみてくれ。馬鹿馬鹿しくて逆に笑えてくるから」
ロリエは俺が渡した書状を「ふむふむ」と頷きながらじっと眺める。
「へえ、あの子にしては良い話を持ってきたものですわね」
「まったくだ、魔王はいったい何を企んで……って、今なんて?」
「良い話だと思いますわ。私領内の統治とか良く分からないのでそこは全部あんたにお任せしても宜しくて?」
「ちょっと待って、俺たち結婚させられるんだよ。実の弟の一方的な都合で」
「そうすれば私たち毎晩堂々と一緒にいられますわね」
「え? それって……まさかレミュウの言った通りロリエは俺の事を……」
「思わずよだれが出そうになりますわ。じゅるり……」
「……」
ああそうだった。
ロリエは俺の黒魔力を狙っているだけだ。
ロリエにとってはこの縁談は決して悪い話ではないらしくむしろ乗り気であった。
恋愛感情よりも食欲が優先されていなければ俺もちょっとは前向きに考えても良かったんだけどな。
「それであんたはこの話を受けるつもりなのかしら?」
「え? うーん……ちょっと考えさせて。こういう一生ものの事はもっと時間をかけてじっくり検討を重ねた上で結論を出さないとね」
いつまでも煮え切らない態度の俺にロリエは痺れを切らして突っかかってきた。
「もう、何を迷う事があるのかしら? 私が相手では不満がありまして?」
あるに決まっている。
もしロリエと結婚して寝食を共にする事になったら俺は毎晩彼女に黒魔力を吸い取られるだろう。
黒魔力は俺にとっての生命線だ。
魔界は強さこそが全ての世界だ。
黒魔力が枯渇して魔法が使えなくなった俺はこの魔界では虫けら同然、最下層の存在となる。
そうやすやすと他人に渡せるものか。
それに魔王の思い通りになるというのも気に入らない。
しかし俺は仮にも侯爵家の嫡男として育てられた身だ。
領主となってそこに住まう民衆を導けというのなら喜んで協力をさせて貰おう。
それが人間だろうが魔族だろうが関係はない。
俺はロリエとの縁談については一旦保留にしたけど、表向きはロリエに協力するという体で魔界北部の統治を行う事は了承した。
但し決して魔王の傘下に入った訳ではないという事だけは強調しておく。
俺は魔王の使者に返事の書状を渡して送り返した。
これで後は魔王からの正式な任命書を待つだけだ。
俺は中断していた日課の黒魔法の修練に戻ろうとした。
「うふふ……私そろそろ我慢できなくなってきましたわ……」
ふと横を見ると、ロリエの様子がおかしい。
俺を見るその目は獲物を前にした狩人の目だ。
先日俺から黒魔力を奪った時ロリエの身体はその黒魔力のオーラで覆われていた。
しかし今のロリエの身体からは黒魔力を感じない。
人間が食べた物は時間を掛けて体内に取り込まれ血肉や活動エネルギーとなって消費されていくように、あの日俺から奪った黒魔力がそろそろロリエの体内で消費し尽くされる頃なんだろう。
でもロリエは魔獣と同じで普通の食べ物を食べる事もできるはずだ。
黒魔力がなければケーキでも食べればいいじゃないと思ったけど、ロリエはそうしない理由を語った。
「私、あんたの味を知ってから普通の食べ物も物足りなくなって喉を通らなくなってしまいましたの。責任は取って頂きますからね」
「いや、それは自業自得じゃないか?」
「くすくす……それではごきげんよう」
ロリエは意味深な笑みを浮かべながらその場から去って言った。
今のロリエは飢餓状態だと考えられる。
間違いない、これは恐らく今夜夜這いを決行するパターンだ。
前回は不意をつかれて足を掬われたけど、来ると分かっているのなら対処はできる。
そう何度も襲われてたまるか。
二度と俺には手を出せないと思わせるほど徹底的に懲らしめてやる。
俺は自宅に戻ると入念な迎撃準備に取り掛かった。
22
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました
ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。
そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった……
失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。
その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。
※小説家になろうにも投稿しています。
外れスキル【建築】持ちの俺は実家を追放される。辺境で家作りをしていただけなのに、魔王城よりもすごい最強の帝国が出来上がってた
つくも
ファンタジー
「闘えもしない外れスキルを授かった貴様など必要ない! 出て行け! グラン!」
剣聖の家系に生まれた少年グランは15歳のスキル継承の儀の際に非戦闘用の外れスキルである【建築】(ビルド)を授かった。
対する義弟は当たりスキルである『剣神』を授かる。
グランは実父に用無しの無能として実家を追放される事になる。辺境に追いやられ、グランはそこで【建築】スキルを利用し、家作りを始める。家作りに没頭するグランは【建築】スキルが外れスキルなどではなく、とんでもない可能性を秘めている事に気づく。
【建築】スキルでどんどん辺境を開拓するグラン。
気づいたら魔王城よりもすごい、世界最強の帝国ができあがる。
そして、グランは家にいたまま、魔王を倒した英雄として、世界中にその名を轟かせる事となる。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
パーティーを追放された装備製作者、実は世界最強 〜ソロになったので、自分で作った最強装備で無双する〜
Tamaki Yoshigae
ファンタジー
ロイルはSランク冒険者パーティーの一員で、付与術師としてメンバーの武器の調整を担当していた。
だがある日、彼は「お前の付与などなくても俺たちは最強だ」と言われ、パーティーをクビになる。
仕方なく彼は、辺境で人生を再スタートすることにした。
素人が扱っても規格外の威力が出る武器を作れる彼は、今まで戦闘経験ゼロながらも瞬く間に成り上がる。
一方、自分たちの実力を過信するあまりチートな付与術師を失ったパーティーは、かつての猛威を振るえなくなっていた。
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
異世界転生記 〜神話級ステータスと最高の努力で成り上がる物語〜
かきくけコー太郎・改
ファンタジー
必死に生活をしていた24歳独身サラリーマンの神武仁は、会社から帰宅する途中で謎の怪物に追いかけられてゴミ箱の中に隠れた。
そして、目が覚めると、仁は"異世界の神"と名乗る者によって異世界転生させられることになる。
これは、思わぬ出来事で異世界転生させられたものの、その世界で生きることの喜びを感じて"ルーク・グレイテスト"として、大切な存在を守るために最強を目指す1人の男の物語。
以下、新連載です!楽しんでいってください。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/586446069/543536391
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる