ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり

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第26話 謎の少女6

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「……もうよい、下がれ!」

「はっ、失礼致します!」

 まずい事になった。
 よりによって我が姉ロリエがあの人間──ルシフェルト──と手を組んでしまうとは。

 アハトの報告を聞いた魔王アデプトは玉座の上で頭を抱えていた。

 いや、ルシフェルトが人間どもが我ら魔族を討ち滅ぼす為に送りだした英雄の類ではないとはっきりしたことは朗報でもあるか。




 俺はかつて強大な魔力を手に入れる為に実の姉に禁断の呪術を使ってしまった。



 精呪石。

 エルフの住む森でしか手に入らない貴重な鉱石だ。

 この石を媒体として呪術を行うと、対象の者の力を奪い取る事ができる。
 魔王シルクスに仕える魔界公爵家に生まれた俺は生まれつき膨大な黒魔力を有していたが、俺の姉であるロリエの黒魔力はそれ以上だった。

 魔族は魔獣が長い年月の末に人のような姿に進化したものだと言われている。
 先祖返りとでも言うのだろうか、ロリエは今の魔族が持っていない魔界の瘴気を体内に取り込んで自らの血肉とするという魔獣特有の能力を持っていたこともロリエが強大な魔力を有していた事と無関係ではないだろう。

 俺は姉の力に嫉妬し、同時にこう考えた。

 ロリエの強大な黒魔力を奪い取り我が物とすればこの魔界を支配する事ができると。

 俺は単身でエルフの森へ足を運び、侵入者を排除しようと襲いかかってきたエルフたちを蹴散らして奴らの村の祭壇に祀られていた精呪石を強奪した。

 そしてロリエが食後の睡眠を取っている隙を狙って呪術を行いその黒魔力を全て奪い取ってやった。

 その結果俺は先代魔王シルクスをも凌ぐ強大な黒魔力を手に入れ、逆にロリエは全ての黒魔力を失った。
 目を覚ましたロリエは俺に黒魔力を奪われた事を知って激怒しそのまま行方をくらませてしまった。

 黒魔力を失った以上、俺に復讐するのは不可能だと考えたのだろう。

 そう思っていた。

 だが呪術の基本は等価交換だ。
 何かを得る為には同等の対価を差し出す必要があるが、その逆もまたしかりだ。
 魔力を俺に奪われたロリエにはその代わりに圧倒的な力……腕力がその身に宿っていたのである。
 反対に俺は等価交換によって物理的な力をほとんど失っていた。

 しかし黒魔法を極めた俺には物理的な力は全くと言っていいほど必要はなかった。
 どんな力自慢の魔族が相手でも俺の指先から放たれる黒魔法の一撃で吹き飛んだ。

 俺はその力で数年の歳月をかけてシルクスを魔王の座から引き摺り降ろしその座を奪い取った。

 俺が魔界を掌握した日、ロリエがふらっと俺の前に現れた。

 その身体からはかつての強大な黒魔力は一切感じられなかった。
 それどころか俺がロリエの魔力を奪い取ったあの日から全く姿が変わっていない。
 まだあどけなさを残した少女のままだった。

 俺は即座に違和感を覚えた。
 精呪石の力で魔力を奪い取ったとはいえ、ロリエには魔界の瘴気を体内に取り込む能力がある。
 この魔界ではそこらじゅうで瘴気が溢れている。
 ロリエならばあの日俺に奪われた黒魔力なんて短期間で元通りになるだろう。

 なのにロリエの身体から黒魔力が感じられないのはどういう事だろう。

 それを尋ねるとロリエは言った。

「あんたに魔力を奪われたあの日からどうも食欲が湧かないのですわ。不純物が混ざった瘴気を身体が受け付けなくなってしまいましたの」

 呪術による副作用的なものがあったんだろう。
 ロリエはあの日以来魔界の瘴気を一切身体に取り込んでいないという。
 彼女が少女の姿のまま成長していないのはその為だ。

 俺はこの日初めてロリエに謝罪をした。

「そうなのか……あの時は本当に悪い事をした。魔王となった今こそお前から借りていた黒魔力を返そうと思うのだが……」

「今更いりませんわ。それよりも久々の再会なのですからもっと楽しいおしゃべりをしませんこと?」

 最初は他愛もない近況報告や世間話をしていたが、長く袂を分かっていた歳月による価値観の相違によってやがて口論から争いへと発展した。

 やはり俺とロリエは分かりあえない。

 俺はロリエに向けて全てを焼き尽くす黒炎魔法を放った。
 しかしロリエはその魔法を手を振り払うだけであっさりと掻き消してしまったのである。

 俺が黒魔法で魔界を制圧している間、ロリエはひとり物理的な力に磨きを掛ける修行を行っていたらしい。

 ロリエは格の差を突き付けられてショックのあまり身動きできない俺に顔を近付けて言った。

「今のあんたの黒魔力、不純物だらけで不味そうですわ。そんなものこちらから願い下げよ。あーあ、どこかに私の舌を唸らせる極上の黒魔力を持った方はいないかしら」

 そういってロリエはそれ以上俺に手を出さずに俺の城から去った。

 これが今生の分かれになる物だと俺は理解した。







 ……かと思えばその後もしばしば連絡も寄こさずにふらりと城へやってきては城内の一室を占拠してそこで惰眠をむさぼる。

 ロリエにとってはこのサタニキアキャッスルも宿泊地として利用できる便利な場所の一つとしか思っていないようだ。

 ロリエは魔界の政情なんて自分には関係ないとばかりに好き勝手に魔界中を往来し、その自由奔放な性格が災いして各地でたびたびトラブルを起こしている。
 ロリエを止める力も権利もない俺はその後始末に奔走するのが日課となった。

 これは最高幹部を含めて一部の者しか知らない事だ。
 殆どの魔界の住民はロリエが俺の姉であり、普段は魔界を自由に飛び回っているという以外の事は何も知らない。

 もし俺とロリエの力関係が魔界中に知れ渡れば魔王の権威など地の底まで落ち、再び魔界中で新たな戦乱の世が訪れるだろう。


 そしてそのロリエが今ルシフェルトと手を組んでいるという。
 モロクの後任の人選を誤ればルシフェルトどころかロリエまで俺の敵に回る可能性が出てきてしまった。

 これは忌々しき事態だ。
 何か打つ手はないか。
 俺は幹部たちに意見を求めた。

「魔王様、私に良い案があります」

 ひとり魔軍師の異名を持つ知恵者ネジョウが応えた。

「……ネジョウか、申してみよ」

 今は藁をも掴みたい気分だ。
 俺は玉座から身を乗り出してネジョウの次の言葉を待つ。

「はっ、ルシフェルトに魔界北部一帯を治めさせれば良いのです」

「……何を言い出すのかと思えば」

 アデプトは失望したようにがっくりと肩を落とした。

「人間などを領主とすれば他の魔族が黙っていまい。魔王が人間とつるんでいるとなれば下手をすれば各地で燻っている不平分子どもに挙兵する大義名分を与える事になるぞ」

「そこでロリエ様が役に立つのです。表向きは魔王様の姉君であるロリエ様が領主という事にしておいて、ルシフェルトは人間なれどその伴侶として統治を手伝っているということならば文句を言う者は現れますまい」

「ふむ……なるほど。ルシフェルトをこちら側に取り込んでしまえば我々は安泰という訳か。俺が仲人という事になればロリエにも貸しを作る事ができて一石二鳥だな。さすがは稀代の名軍師ネジョウだ」

「はっ、おほめにあずかり光栄で御座います」

 アデプトは満足そうに指で顎を摩った。
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