上 下
20 / 54

第20話 動き出した魔王

しおりを挟む


「やれやれ、また厄介事が増えてしまった」

 魔界の中央には標高五千メートル程の台地が広がっており、その中央には山とも見間違うかのような巨大な城が築かれていた。
 二年ほど前に現魔王であるアデプトが先代魔王シルクスから奪い取って自らの居城としたサタナキアキャッスルである。

 その玉座で魔王アデプトは頭を抱えていた。

 元々アデプトの一族は先代魔王シルクスに仕えていた魔界の公爵家の者である。
 魔界は弱肉強食の世界だ。
 シルクスを遥かに超える魔力を持つアデプトはある日シルクスに反旗を翻して挙兵した。
 三日三晩に渡る大激戦の末にアデプトはシルクスをサタナキアキャッスルから追放すると、自らが魔王を名乗り魔界全体を掌握する為に地方への侵攻を開始した。

 アデプトに従っている魔族は精強であり、瞬く間に魔界の各地を制圧した。
 そしてアデプトはまだ統治が安定していない地方に古参の部下たちを領主として派遣して治めさせる事にした。

 魔界北部を支配していた魔将軍モロクが討たれたという事件は瞬く間に魔界全土に知れ渡った。

 現魔界の支配者である魔王アデプトは直ちにサタナキアキャッスルに幹部たちを呼び寄せ、緊急会議を開いた。

「我々が顔を付き合わせるのも久々だな」

 六本の腕を持つこの男は魔界の東部の支配者である魔公爵アシュラムだ。

「ふん、貴様の顔を見ても何の感情も沸かぬわ」

 鋭い牙と爪、大きな耳を持つネコ科の獣人である彼は魔界の西部の支配者である魔提督アンゴラという。

「静かにせよ。魔王アデプト様の御前であるぞ」

 血気盛んな魔王軍幹部の中でただひとり冷静沈着を貫いているのは魔界の南部の支配者である魔軍師ネジョウだ。

 他にも数名の魔族が魔王城の会議の間に集まっている。
 いずれも魔界では知らぬ者はいない実力者たちだ。

 招集を掛けた全員がこの場に揃ったのを確認すると、魔王はゆっくりと口を開いた。

「今日貴様達に集まって貰ったのは他でもない。辺境のノースバウムで魔将軍モロクが討たれた事は既に耳に入っていよう」

「くくくっ……そのような事でしたか。おっと失礼」

 思わず失笑したのは魔公爵アシュラムだ。

「何がおかしいアシュラム」

「恐れながら魔王様、モロクなど過去の栄光に胡坐をかいて大きな面をしていただけの小物。取り立てて騒ぐほどの事もないかと」

 アシュラムの言葉に魔提督アンゴラと魔軍師ネジョウも頷いて賛同の意を示す。

 しかし魔王アデプトは真剣な表情で話を続けた。

「ああそうだな。奴は戦いから離れて久しく、目に見えて衰えていた。だが生き残ったモロクの部下の話では、モロクを討ったのはルシフェルトと名乗るたった一人の青年だという」

 魔王の言葉に会議室がどよめいた。

「人間風情がモロクを!? まさか、噂に聞くアガントス王国の英雄ヘンシェルがこの魔界に攻めてきたとでも言うのですか」

「いや、それは考えられない。ルシフェルトという男は魔獣の谷の魔獣を自在に操っていたばかりか、アガントス王国では忌まわしきものとされている黒魔法を使ったという」

「そんな馬鹿な……そやつはいったい何者なんです?」

「分からん。現時点では奴の目的すらはっきりとしない。それに実際に奴の姿を見た者の証言もちぐはぐで一向に要領を得ない。モロクを黒魔法で一瞬で粉々に吹き飛ばしたかと言えば、逆に死んだ者を蘇らせたり、崩壊した壁を一瞬で元通りに戻したとも聞いた。一人の人間ごときがそのような相反する力を使いこなせるとはとても信じられん」

「破壊と創造の力ですか……はっ!? お待ち下さい魔王様、それではまるで……」

「ああ、かつて破壊の後の創造というスローガンを掲げ、人間界への侵略を繰り返した魔王がいたな」

「人間ごときがかつての魔王の遺志を引き継いだとでも言うのですか?」

「ううむ、ますます分かりませんな……ここはしばらくそのルシフェルトと申す人間を刺激しないように遠巻きから監視し、その目的を見定めようではありませんか」

「そうだなネジョウ。しばらく様子を見る事にしよう。皆異論はないな!?」

「はは、魔王様がそう仰るのでしたら我らは従うのみです」

「よし、それではノースバウムに誰を送り込むかだが……」

「魔王様、失礼します!」

 その時バタンと扉が開いて側近の魔族が入ってきた。

「何事だ、重要な会議中だぞ」

 側近は畏まって用件を述べた。

「申し訳ございません、実は今朝からロリエ様の御姿がどこにも見えないのです」

「なんだと!? まさか、ノースバウムへ向かったのではあるまいな」

「はっ、状況から恐らくはその通りかと……どうなさいますか魔王様、連れ戻しますか?」

「できもしない事を口にするな! しかし厄介な事になった。こうなれば一刻を争う、ネジョウよ貴様にノースバウムの偵察を命ずる。だが決してルシフェルトとやらと事を構えるような真似はするな」

「ははっ、仰せのままに。我が配下にアハトと申します老練な密偵がおります。彼の者に命じてロリエ様の動向を探らせましょう。それでは失礼」

 ネジョウは魔王に一礼をして会議の間を後にした。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

外れスキル【建築】持ちの俺は実家を追放される。辺境で家作りをしていただけなのに、魔王城よりもすごい最強の帝国が出来上がってた

つくも
ファンタジー
「闘えもしない外れスキルを授かった貴様など必要ない! 出て行け! グラン!」 剣聖の家系に生まれた少年グランは15歳のスキル継承の儀の際に非戦闘用の外れスキルである【建築】(ビルド)を授かった。 対する義弟は当たりスキルである『剣神』を授かる。 グランは実父に用無しの無能として実家を追放される事になる。辺境に追いやられ、グランはそこで【建築】スキルを利用し、家作りを始める。家作りに没頭するグランは【建築】スキルが外れスキルなどではなく、とんでもない可能性を秘めている事に気づく。 【建築】スキルでどんどん辺境を開拓するグラン。 気づいたら魔王城よりもすごい、世界最強の帝国ができあがる。 そして、グランは家にいたまま、魔王を倒した英雄として、世界中にその名を轟かせる事となる。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

異世界転生記 〜神話級ステータスと最高の努力で成り上がる物語〜

かきくけコー太郎・改
ファンタジー
必死に生活をしていた24歳独身サラリーマンの神武仁は、会社から帰宅する途中で謎の怪物に追いかけられてゴミ箱の中に隠れた。 そして、目が覚めると、仁は"異世界の神"と名乗る者によって異世界転生させられることになる。   これは、思わぬ出来事で異世界転生させられたものの、その世界で生きることの喜びを感じて"ルーク・グレイテスト"として、大切な存在を守るために最強を目指す1人の男の物語。 以下、新連載です!楽しんでいってください。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/586446069/543536391

パーティーを追放された装備製作者、実は世界最強 〜ソロになったので、自分で作った最強装備で無双する〜

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
ロイルはSランク冒険者パーティーの一員で、付与術師としてメンバーの武器の調整を担当していた。 だがある日、彼は「お前の付与などなくても俺たちは最強だ」と言われ、パーティーをクビになる。 仕方なく彼は、辺境で人生を再スタートすることにした。 素人が扱っても規格外の威力が出る武器を作れる彼は、今まで戦闘経験ゼロながらも瞬く間に成り上がる。 一方、自分たちの実力を過信するあまりチートな付与術師を失ったパーティーは、かつての猛威を振るえなくなっていた。

処理中です...