鸚哥が繋ぐアイのうた

七海澄香

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心配

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 放課後、部活の集合時間前のわずかな時間を使って図書室のパソコンで『バードステーション』のホームページを見ていた。可愛らしいパステル調のデザインで、明るくて優しい雰囲気。あの実際の店の中とのギャップが大きい。

 ホームページにはブログがあって、ほぼ毎日更新されていた。智貴さんが書いているはずだ。マメな人。

「なぁに、それ?」
 瑞稀が借りていた本を返して戻って来た。
「私がインコを貰った店のネットショップ。ブログがあるの」
「あー、こないだ言ってたお店?」
「そうそう。店主さんがブログを書いてるみたいなんだ」
 ブログにはインコやオウムの飼育情報が多く載っている。過去の投稿からインコ飼育についての情報を見ていた。

「スマホで見ればいいじゃん」
「充電20パーなの。昨日寝る前に線つなぐの忘れてて」
「あー、なーる」
 昨夜はなんだか落ち着かない気持ちのままベッドに入った。いつもなら充電ケーブルをつないで眠るのに、そんなことすら忘れていた。

「店主さん、イケメン?」
 イケメン、だろうか。あまり考えたことがなかった。
「どうだろう。背は高めかな。色白で、目は切れ長っていうのかな……優しい人だよ」
「年上の男の人っていいよねぇ。ハルのタイプなの? 恋してる感じ?」
「恋!? そんなんじゃないよ」
 でも、どうなんだろう。

「あらあらぁ? ハルのそういう話、あんまり聞かないからさぁ」
 恋なんて、意識したことがなかった。
「あんまり興味なかったんだよね。家族の方が大事だったし」
「ああ、そっかぁ。お父さんと仲いいもんね、ハルんちは」
「そう……だね」

 会話をしつつ、目はちゃんとブログの情報を追っている。
 ホッペの様子が気になるのだ。
 今朝、カゴのトレイの掃除と餌の入れ替えをした。
 餌箱の餌が減っていなかった。ほとんど口をつけていないようだった。

 ホッペの餌はシードと呼ばれる皮付きの穀物と、ドッグフードを細かくしたような、ペレットフードと呼ばれる人口の餌。ペレットフードの方が栄養バランスが良いらしいが、食べ慣れていないホッペはまだシードしか食べない。
 今朝は、よく食べるはずのシードもあまり食べていなかった。

「ハル、そろそろ行かないと間に合わないよぉ」
 もう部活に行かないといけない時間。
 ブログにはコメント欄があった。私は急ぎ、そのコメント欄に書き込んだ。
 昨日のお礼、そして、今日のホッペの様子。このまま様子を見て大丈夫なのか、なにか原因があるのだろうか。
 2回、自分のコメントを読み直して送信ボタンをクリック。コメントが書き込まれた。

「じれったいじゃん。インスタとか知らないの?」
「やってないみたい。店の電話は知ってるけど……」
 なんだか、電話は照れ臭いし。
「ふぅーん、そういうこと……」
 物知り顔で含み笑いを浮かべる瑞稀をかるく小突いて、体育館に向かう。



「ちょっと出かけてくるからね」
 投げかけられた言葉に、床に座り込んだ玲子は、黙って小さく頷く。
 当分帰ってこないだろう母親の背中を見送る。
 玄関を出て行く後ろ姿をじっと見つめる。切なそうに。寂しそうに。

 ここで暗転。
 パチン、と美那が手を鳴らす。

「はい、オッケー。じゃあ次のシーン準備してー。その前に5分休憩いれよっか」
 次のシーンには、私の出番はない。しばらく休憩を決め込もう。
「さっすがハル。迫真の演技」
「そう? サンキュー」
 瑞稀の言葉を軽く受け流して、体育館の隅に座りこむ。

「でも大丈夫? 顔色良くないみたいだけど」
「え? そう? ちょっと寝不足かなぁ。ほら、インコ飼ってから朝寝坊できなくなったし」
 冗談っぽく笑ってみせた。実際、ホッペが来てから朝が早いのは本当だけど、全然苦にはなっていない。

「無理、してない?」
 珍しく美那が優しい言葉をかけてくる。そんなに顔色が悪く見えるのだろうか。
 美那が隣に座り、小声で続ける。

「正直ね、この役はハルにはちょっと難しいかなって思ってたんだ」
 私には難しい役。わかっている。でも、だからこそ私はこの役に挑もうと思った。
「ハルはリンクしすぎる。玲子に」
 私の役は、玲子という幽霊の役。
 ひとりぼっちで死んだ、幽霊だ。

「遺骨を引きとる親族もなく、幽霊になって、恋した人とも別れなきゃならない。そんな悲しいひとが私とリンクする?」
 嫌味っぽく言ってみた。
「そうじゃない。幼少の頃の、その……体験がよ」
 玲子は虐待を受け、母親に捨てられた経験を持つ。

「思い出して……辛いんじゃないかって」
「まあ、ちょっと思い出すことはあるけどね」
 小学校からの幼馴染である美那は知っている。

 私の両親は小学2年のときに離婚した。私は母に引き取られたけれど、母には彼氏がいた。何度、夜な夜な出かける母の背中を見送ったことか。一人きりで夜を過ごすのが怖かったのを覚えている。
 私が小4に上がるころ、母に赤ちゃんができた。それから、母は私に見向きもしなくなった。

「あんまり無理はしないで。でも、ハルの演技には期待してる」
「わかってる。ちゃんと演る。できるよ」

 月に一度、父と面会できる日があった。いつも、おいしいランチの店を見つけては連れて行ってくれた。それだけを楽しみにひと月を過ごしていたといっても過言ではない。
 その面会日。月を追うごとにみすぼらしくなっていく私の姿に、父は恐怖感を覚えたという。このままでは娘が危ない、と。

 小5に上がったとき、父が親権を取ろうと母に直談判した。母はあっさりとそれを承諾し、私は父に引き取られた。そして、転校した学校で美那に出会ったのだ。

「ハル、いい芝居にしようね」
 ぽん、と私の肩をたたき、美那は舞台監督に戻った。
「休憩終了ー! 次のシーンいくよー」

 次のシーンの出演者が集まってくる。その舞台を他人事のように眺めていた。
 こっそりカバンの中のスマホを見た。
 さっき書いたコメントに、もう返信が来ている。

『環境が変わったばかりなので、緊張したりストレスを感じているのかもしれません。もう一晩様子を見て、それでも食事していないようなら、また教えてください。ホッペちゃんが安心できるよう、優しく声をかけてあげてくださいね』

 頭の中で、その返信が智貴さんの声で再生される。なんだか安心した。
 スマホには別のメッセージも届いていた。

『ホッペちゃん、ちゃんとごはん食べるようになったよ。安心してね。部活がんばって!』
 今日は仕事が休みだった愛子さんからだ。
 一日中、ホッペを気にかけていたのだろうか。
 私はそれに返信することもなく、そのままカバンを閉じた。 
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