豆を奪え、転生者!

おもちさん

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第34話 みんなと笑顔がリンクする

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フンフンフン。
心が軽いってのは素晴らしい。
自然と笑顔になって愛想も良くなる。
すると、周りの人たちの反応も変わるのだから面白い。


「ごきげんよう、大臣さま」

「こんにちわ大臣さま! 今日も良い天気ですなぁー」


道すがら、住民たちとすれ違う。
オレはニッコリ笑って手を振ってみた。
すると相手もニッコリと笑って、丁寧にお辞儀をしてくれた。
こうやって微笑み合うのって良いね。
たったそれだけで心がホッコリ暖まるしさ。


「おや大臣さま。何か良いことでもありましたかな?」

「うーん。まぁ、ちょっとなー」


皆がオレを大臣と呼ぶが、以前は王様と呼ばれてた。
流石にそれは勘弁してくれ、とお願いしたら、今の呼び名に定着しつつある。
面倒なので特に訂正はしていない。
役割的にも宰相ポジションだし、間違いじゃないしな。

何組かのおっちゃん、おばちゃんとすれ違いつつ坂を降って行く。
農場を横目に過ぎ、住宅エリアを通り、開墾地の端までやってきた。

この辺りはまだ拓けておらず、トガリをリーダーにして木こりが開墾作業に従事していた。
流石に本職が集まっているので仕事が早い。
トガリの変態的な働きっぷりを除外したとしてもだ。

木こりの一人と目が合う。
すると、オレに気づいた作業者全員が帽子をはずし、こっちに向かって頭を下げた。
トガリ以外。


「何しに来やがったんだよテメェ! サボりかコラ!」

「違うぞ親方。ちゃんと各所の仕事が動いてるかの見回りだよ」

「口の減らねぇガキだな。つうかよ、石材はまだかよ石材は! こんなんじゃいつまで経っても防壁なんか建てらんねぇぞ!」

「石工(いしく)の数が足りねぇんだわ。だから、そっちも任せたからな」

「任せたからな、じゃねぇよボケナスッ!」


こちらに槍状に尖った木片が飛んできた。
もちろんミノルさんはアッサリと回避。
それを見てトガリが更に吠えるが、取り合ったりはしない。
その元気を採石場でも活かせと思うだけだ。

それから坂を下り、左手にある小道に入っていった。
ここは獣道と大差の無い未舗装なものだが、登山道として利用している。
深緑の景色を楽しみながら進むと、採石場にたどり着いた。

オレの姿を見ると、責任者の一人が歩み寄ってきた。
顔は日に焼けて土で汚れているが、笑って見せた歯はとても白かった。


「こりゃ大臣さま。こんなむさ苦しい所へ何用ですかい?」

「用って程じゃないんだが、今度トガリがこっちを手伝ってくれる。それを伝えに来たんだ」

「トガリって木こりのあんちゃんかい?」

「そうだ。本職は大工だがな。たまに騎士もやる」

「そうかい、変わりモンな兄ちゃんだよなぁ……」

「何か気にかかることがあるか?」


トガリの名を出した瞬間に、相手の顔がだいぶ曇った。
もしかすると職人同士で衝突が起き始めてるのかもしれない。


「いやいや、気がかりっつうかね。大した事じゃ無いんですがね」

「些細なことでも良いからさ、一応教えてくれよ」

「いやね、あの兄ちゃん、すげぇ事するだろ? 早いし正確だし、そしてオレらよりずっと若ェ。あの仕事っぷりを見せつけられると、どうにもやる気っつうか、誇りみてぇなもんがなぁ……」

「あぁ、なるほど。アイツは別格なんだよ。魔獣の一種だと思ってくれて構わん」

「違ぇねぇ! 実際恐ろしく強ェしな!」


再び白い歯が光るのを見て、とりあえず安心した。
職人は国の宝だ。
彼ら無くして発展は有り得ないので、細やかなケアは欠かせない。
それから話の流れで、ノミや金槌が足りないから補充して欲しいと頼まれた。
今はそれに応える事が出来ないので、引き続きある物で作業するようお願いし、その場を後にした。

登山道から元の道に戻り、今度は来た道を登って行った。
木こりエリアに差し掛かったときだけは空中浮遊し、上手く敵の目から逃れつつ、住宅地へと着地。
その一角にある縫製所へとやってきた。


「あんらぁー誰かと思えば大臣さまじゃないですかぁー。今日は位かがなさいました、可愛い格好したいですかぁー?」

「ちょっと仕事場を確認しようと……やめろ、着せようとすんな!」


縫製所の責任者は、小太りの若い女だ。
コイツが中々のくせ者で、腕は良いが性格もアレだ。
何せ初対面の時に、オレを赤ちゃんの格好にめかしつけようとしたからな。
極めつけは『ママって呼んでいいのよぉ?』ときたもんだ。

その日に食ったジャガイモコロッケ吐いちまったぞ。
もちろんちょっとだけ弱くなった。
クソが。


「見回りなんですぅ? お召し替えじゃなくぅ?」

「そうだよ! 何か不都合は無いかっての」

「そうですねぇー。布や皮、糸は十分なんですけどぉ、やっぱり針が少なくてぇー」

「針……か。それは解消したいんだが、中々なぁ」


この村には鍛冶場が無い。
仮に建てたとしても、鉱石を取る為の人員が足りないし、鉄製品を作る金型も無い。
その為この村では慢性的に鉄製品が不足しているのだ。
解消するとしたら交易するしか無さそうだが、今はその目処もたっていない。


「まぁ、話は分かったよ。引き続き頼むぞ」

「はぁい! またいらしてくださいねぇー」


ウインク、投げキッス、傾げ首の欲張り3点セットが送られた。
返礼として苦笑いを残し、次のスポットへと向かう。


「ええと、農場にいこうかな」

「グルルルァーーッ!」

「いや待てよ。その前に解体小屋に……」

「コロコロロッ! コーロコロロッ!」


何やらペットたちの鳴き声が激しい。
森を挟んだ向こう側がワンニャンランドなので、他の場所よりもグッと臨場感があるのだろう。
今日もホンワカしてるようで何より。

ドォオオオンッ!

地響き、錯綜とする火焔。
遠くの木々が何本もなぎ倒されていて、徐々に騒ぎが近づいてくる。
このままじゃマズいな、住宅地までがホンワカしてしまう。

飼育係りであるジャンヌの気配は無い。
こうなったらオレが止めに入るべきだろう。
右手に最大限の魔力を込めて、全力で跳んだ。

体は一瞬で木々を飛び越え森を抜け、特撮会場までたどり着く。
ぶつかり合う2体の大魔獣。
この世の終わりのような闘争劇に単身乗り込み、再び大跳躍する。


「お前らァ、お座りッ!」

「ギャウンッ!」

「ゲウン!」


強烈な拳骨により、ケルベロスとキングコーンが地面に叩きつけられ、そこへ這いつくばる。
ここ最近は喧嘩が絶えず、荒れやすくなっていて困る。
ジャンヌが少しでも外そうものならこのザマだ。


「はぁ、あの子はどこへ遊びに出たのやら」

「あーッ! お兄ちゃんいらっしゃーい!」

「おうジャンヌ。戻ってきたの……それ何だ!?」


魔獣使いの少女ジャンヌが帰還した。
よく分からないモノに跨がってだ。
よく分からないモノは顔も胴も足も識別不能だ。
だから傍目からではよく分からないし、そもそも哺乳類やら歴とした括(くく)りがあるのかすら怪しい生物だと思った。


「この子ねー、山で拾ったの。可愛いでしょ?」

「ウニュラ、ウニョラ」

「そんな訳分からんもんは飼えません。捨ててきなさい」

「えぇー!? こんなに良い子なのに?」

「ウニュ、ウニュル」

「こいつが何を食べるか知ってる?」

「ううん。わかんないの」

「じゃあダメだ。山に置いてきなさい」

「……はぁーい」


肩を落としてジャンヌが森の奥へと向かった。
よく分からなんモノも、名状しがたい謎器官をショゲさせて、指示に従っている。


「そうだ、ジャンヌ。最近コイツら仲悪いけど、何かあったのか?」

「え? うーん。コンちゃん機嫌が悪いかなぁ。何かね『ニエヲ、ニエヲ』ってずっと言ってるの」

「……そうか。ありがとう、気を付けていってらっしゃい」

「はぁーい」


そうか、贄(にえ)を寄越せと。
要求が一向に通らないから苛立ってるんだろう。
でも何をあげりゃ良いんだろう?
狐の好物……気に入りそうなものは……。
考えようとしても、先日愉しんだ温泉ばかりが浮かんでしまい、中々まとまらない。
いや、待てよ。


「油揚げか!?」


お稲荷さんのイメージが鮮明に閃いた。
異世界で通用するかは分からんが、手当たり次第試すよりはずっと公算が高い。
行って良かったジャパン宿。
こんな局面でも役立つなんて、ほんと足向けて寝られねぇわ。

それから食堂へ向かい、シンシアに相談してみた。
解決が目前に迫っているのを感じて、妙に熱っぽく語ったと思う。
だがこの時までオレは気づかなかった。
料理を作るにはレシピが必要だと言うことに。

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