ハロウィンの魔法

るいのいろ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

ハロウィンの魔法

しおりを挟む
今日は、年に一度のお祭り、ハロウィン。
世界中の人間も、世界中のおばけも、みんなワクワクした気持ちを抑えきれず、忙しなくハロウィンを迎えました。

街の子供たちのハロウィンは、おばけの仮装をして近所にお菓子を貰いに行きます。
大きなカゴを手にぶら下げて、お友達とニコニコしながら歩いています。

おばけたちのハロウィンは、街の人間たちを驚かせたり、街の子供たちに混ざってお菓子をもらいに行ったり、街のあらゆる所でイタズラをして困らせたり、目的は様々です。

「この先には、人間界が広がっています。人間界はとても楽しいところです。今日だけ、このハロウィンの日だけは、イタズラをしても、お菓子をもらいにいっても構いません。ですが、いいですか皆さん。くれぐれも、本物のおばけだとバレないようにしてくださいね。もしバレたら、大変なことになってしまいますよ。」

警官姿でふわふわ浮いている幽霊たちが、大きな門の前に立って注意をします。
ハロウィンの夜になると、おばけたちは人間界に繋がる大きな門の前に集まって、開くのを待ちます。
大きなカマと黒いマントを来たガイコツや、人間の子供の姿に仮装した1つ目のおばけ、宙を自由に飛びまわる虹色のコウモリなど、色んなおばけが集まってきました。

そんなおばけの列から少し離れたところに、大きな大きなトラネコのおばけがいました。
しっぽが3本もあり、車よりも大きなトラネコのおばけも、ワクワクした気持ちが隠せていません。

このトラネコの名前は、パロ。
パロは、今年初めてハロウィンに参加します。
パロは元々人間に飼われていた小さなトラネコでしたが、1年前に車に轢かれて死んでしまいました。
パロが目を覚ましたときには、大きな大きなトラネコのおばけに生まれ変わっていたのです。

「よーし、仮装の準備はOK。あとは門が開くのを待つだけ…」

パロが独り言を言っていると、ハロウィンの時間がやって来ました。
人間界に続く門が開かれると、おばけたちは続々ともんをくぐりぬけました。

「いっちばーん!」

死神の格好をしたガイコツが最初に門を通ります。

「待ってましたー!」

1つ目のおばけも、門を通ります。

「沢山イタズラするぞー!」

虹色のコウモリも、バタバタ飛びながら門をくぐりました。

「よし!僕も行くぞ!」

パロは1番最後に門を通り、人間界にやってきました。


パロが着いた頃には、街は大変賑わっていました。
早速イタズラし放題なおばけや、すでにカゴいっぱいにお菓子を貰っているおばけ。それぞれ楽しんでいるようでした。
街の子供たちも上手に仮装をしていて、子供たちなのか、それとも本物のおばけなのか、区別に悩むほどでした。

しかし、パロの目的は、お菓子を貰うことでも、イタズラをすることでもありませんでした。
パロの目的はただ一つ。大好きだった飼い主の男の子に会いに行くこと。
パロは早速、全身を白い布で隠して仮装すると、男の子を探しに街を歩きました。


コンコンコン。

「この子を知りませんか?」

パロは紙に書いた男の子の似顔絵を首に掲げ、色んな家を訪ねて聞いて回りました。

「うーん、知らないねぇ」

真っ白髪のおじいさんはそう言って、パロにお菓子をくれました。

「ところで、君とっても大きな体だね。どこの子だい?」

おじいさんはパロの大きな体をジロジロ見ながら言いました。

「まずい…本物のおばけだってバレたら大変なことに…」

パロはおじいさんから貰ったお菓子が飛んでいくほどのスピードで走り出し、その場から逃げました。

「おやおや…」

おじいさんは、パロの後ろ姿を不思議そうにみながら、落ちたお菓子を拾いました。



「この子を知りませんか~?」

パロはまた、男の子探しを再開しました。
街を見渡しながらのそのそ歩いていると、5人の子供たちの集団がパロに近づいてきました。

「ねえねえ、あなただあれ?」

「それ、なんの仮装?」

「大きな体!車よりも大きいよ!」

子供たちは、パロに沢山話しかけました。
車よりも大きな体のパロが街にいると、やっぱり目立ってしまいました。

「あなたはお菓子貰えた?」

「う、う~ん。まだかな…」

子供たちはパロに興味津々。パロは逃げるタイミングを失ってしまいました。

「そうなのね。じゃあ、よかったら私たちと一緒にお菓子貰いに行かない?」

「えっ」

このままだとバレてしまう。パロはだんだん焦ってきて、冷たい汗が出てきました。
すると、一人の男の子がパロの仮装を引っ張りました。

「ねえ、お顔見せてよ!」

「え!ちょっと!やめてよ!」

男の子はパロが被っている白い布を引っ張りました。

「みたいみたい!」

「僕も見たい!見せて!」

子供たちは次々にパロの頭へ手を伸ばし、一斉に引っ張り始めました。

「だめだってば!離して!」

「せーの、それ!」

パロは必死に抑えましたが、5人の子供たちが同時に引っ張ると、白い布はヒラヒラと宙を舞いました。

「キャーー!!化け物だー!!」

白い布に隠されていたパロの姿があらわになると、子供たちは一斉に叫び、走って逃げていきました。

「どうしよう…」

パロは顔を見られてしまったので、急いで帰らなくてはなりません。

すると、さっきの子供たちが戻ってきました。
後ろには、大勢の人間たちを連れて。


「本当だ!化け物がいるぞ!」

「キャー!怖いー!」

大人も子供も、パロの姿を見て叫びました。
パロはその場から走って逃げだし、ハロウィンの街に隠れました。

「あ!逃げたぞ!追えー!」

人間たちもパロの後を追って、走りました。


「ここまで来れば大丈夫かな…」

パロは街の少し静かな路地裏に身を隠しました。
パロが地面に座りため息をつくと、白い息が漏れました。

「本物のお化けだってバレちゃった。急いでお化けの国に帰らなくちゃ。もう、男の子に会いに行けないなぁ…」

パロはもう一度溜息をつき、静かに泣きました。

すると、パロの後ろで足音が聞こえました。
ハッとして振り返ると、そこにはパロの飼い主だった男の子がいました。

「お前、もしかしてパロなのか?」

男の子は、車よりも大きくなったパロを怖がることなく、パロに近づいていきます。

「ワン!ワン!」

パロは大きな声で返事をするように鳴きました。

「パロだ!やっぱりパロだ!パロ!」

男の子はパロに向かって飛びつき、そして強く抱きつきました。

「パロ!会いたかったよ!」

「ワンワン!」

パロと男の子は、抱きつきながら泣きました。
パロがどんな姿になっても、男の子はすぐにパロだとわかりました。

その時、警察官の仮装をした幽霊たちが、パロを連れ戻しにやって来ました。
幽霊たちはパロを囲み、そのままパロと共にふわふわと浮かび、おばけの国に帰っていきました。

「ワン!ワンワン!」

パロは男の子に気持ちを伝えようと、大きな声で鳴きました。
男の子はパロをじっと見つめ、最後は大きく手を振ってお別れをしました。

「パロ、会いに来てくれてありがとう。また、来年。」

男の子はパロが見えなくなると、そっと手をおろし、家へと帰っていきました。

ハロウィンが終わると、街の子供待ちも、おばけたちも、みんな家へ帰っていきます。
人間界への門が閉まると、また1年経つまで開けられないように鍵が掛けられました。
そうして、おばけたちのハロウィンは幕を閉じました。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【怖い絵本】ピエロのびっくりばこ

るいのいろ
絵本
昔買ってもらった、ピエロの出てくるびっくりばこ。 ボタンを押すと、ピエロが飛び出すおもちゃ。 小さい頃は、怖くて苦手だった。 ピエロの顔が怖くて。 ピエロが、いつも笑ってて。

僕とケンが、入れ替わっちゃった

るいのいろ
絵本
5年生の男の子のしょうたくんは、夏休み明けの学校が嫌でした。 なぜなら、また勉強をしなくちゃいけないから。 せっかくの夏休みが、終わってしまうから。 毎日毎日遊べたのに、もう遊べなくなっちゃうから。 夏休み最終日、しょうたくんは星に願いました。 どうか、ペットのケンのように、勉強も宿題もせず、毎日のんびり暮らしたいです。 次の日の朝、目を覚ましたしょうたくんは、ペットのケンになっていました。

マフィとカエルくん

るいのいろ
絵本
マフィは元気なウサギの女の子。 今日はお友達のカエルくんとお散歩に行く約束。 でも、マフィったら寝坊しちゃって、カエルくんと喧嘩しちゃった。 さて、どう謝ればいいのかな…?

とべない鳥

赤鈴
絵本
これは、とある森にすむ2羽のとべない鳥の物語――。 挿絵(イラスト):まつりさん

手乗り姫

ねこいかいち
絵本
それは、小さな小さな女の子の冒険のお話。小人族の女の子ニアが猫の友だちコニックと共に旅に出て色んな種族と触れ合う物語。

鏡の中の僕

るいのいろ
絵本
鏡の中の自分に向かって、よく話しかけるゆめとくん。 「今日はこんなことがあったよ!」 「今日の給食はね〜…」 ゆめとくんは学校から帰ると、毎日鏡の中の自分に向かって話しかけていました。 もちろん、鏡の中のゆめとくんは、ゆめとくんと同じ動きをします。 でも、夜になると…。

大きな木の思い出

るいのいろ
絵本
何年も何年もそこにいる大きな木。 大きな木は長い間みんなを見守っている。 大きな木は、大切な人との思い出を忘れず、何年も生き続けるのである…。

僕の家が、乗っ取られた!

るいのいろ
絵本
お母さんのお手伝いをしないゆうたくん。 面倒くさがりのゆうたくんはいつも自分のことばかり。 家のお手伝いを全くしません。 ある日、ゆうたくんのお父さんがお手伝いロボを買ってきて…。

処理中です...