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Chapter #3
ゴールドコーストへ②
しおりを挟む二人のやり取りを横目に、私は改めて自動販売機のラインナップを眺めた。
そして、
「あっ……『ティムタム』がある!!」
見覚えのあるパッケージを見つけて、思わず目を輝かせた。
「ティムタム? あー、それ美味しいよね。でもめちゃくちゃ甘いし絶対カロリー高いやつ……」
舞恋がうんざりとした顔で言う。
ティムタムというのは、オーストラリアで古くから人気のある国民的お菓子だ。
チョコクリームを二枚のビスケットで挟み、さらにその上からたっぷりとチョコが塗られている、最高に甘いお菓子。
数日前、初めてオリバーから貰ったときはその美味しさに感動して、何枚も食べすぎてその日の晩御飯が入らないという弊害が出た。
「せっかくだし、私買っちゃおうかな~……」
「あっ、みさきちズルい! 裏切り者! 薄情者!」
悔しげに吠える舞恋の声を無視して、私はスマホ決済を準備する。
隣からカヒンがお金を払おうとしてくれたけれど、さすがにそれは遠慮しておいた。
ボタンを押すと機械が動き、並んでいるティムタムの袋が手前へと一つ押し出されるのが見えた。
あとは商品が落ちてくるのを待つだけだ——と思っていると、
「……あれ?」
なぜか、落ちてこない。
押し出す力が弱かったのか、袋はほとんど動かず、そのまま機械は役目を終えて停止してしまった。
「えっ、うそ。これって……どうしたらいいの?」
「えーーー! なにこれ。クレーンゲームで失敗したみたいになってるじゃん!」
こんなことってあるのか、と驚愕する私の隣で、カヒンは近くを歩いていた駅員らしき人を呼び止めた。
そうして事情を説明して助けを求めたのだが、その人は渋い顔をして首を横に振る。
どうやらこの自動販売機は駅が管理しているものではないので、自動販売機の会社へ直接問い合わせろというのだ。
「はぁーーー!? 意味わかんない! 駅にある自動販売機なんだから駅が何とかしてよ!」
きーっ! とムキになる舞恋。
しかし次の瞬間、ハッと何かを閃いて怪しい笑みを浮かべる。
「しょうがないな~。こうなったらもう、この手しかないよね~」
言いながら、彼女もまたスマホを取り出して自動販売機へかざした。
「ティムタムをもう一つ買って、後ろから押し出したら今度こそ出てくるんじゃない?」
「そっか! 舞恋、頭いい! ……でも舞恋、今はダイエット中だったんじゃないの?」
「今回は仕方がないから特別! 不可抗力で食べるしかないの! だから無効!」
まるで自分に言い聞かせるように主張する舞恋。
結局食べるんじゃん。
彼女がボタンを押すと、機械は再び動き出し、ティムタムの袋を後ろから押し出して……、
「えっ? うそ。ちょっと!!」
今回もまた、袋は落ちてこなかった。
「冗談でしょ!? 私のティムタム……!!」
動きを止めて静かになった自動販売機に、舞恋は泣きそうな顔で縋りついた。
「Here comes the train. 」
電車が来たよ、とゴルフが無慈悲に言った。
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