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Chapter #3

ゴールドコーストへ①

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「いざ行かん、ゴールドコーストへ——!!」

 握り拳を天高く掲げ、舞恋が叫ぶ。

 オーストラリアに来て三週目の日曜日。
 私たちは国内屈指の観光スポット、ゴールドコーストへ向けて出発しようとしていた。

 今回のメンバーは私と舞恋とカヒン、そしてゴルフの四人だ。

 ブリスベンシティのセントラル駅で午前九時に待ち合わせをして、現在は九時半過ぎ。
 ゴルフが約三十分の遅刻をして今に至る。

「ていうかみさきち、ほんとに良かったの? せっかくカヒンとデートできるのに私たちまでお邪魔しちゃって」

 舞恋は私にだけ聞こえるように小声で聞く。
 別にコソコソと話さなくても他の二人は日本語がわからないので気にしなくていいのだけれど。

「うん、いいの。今日はみんなで行きたかったし。それに、昨日はカヒンと二人でガーデンシティに行ってきたし、平日は毎日放課後に会ってるから大丈夫だよ」

「んまーっ、言うようになったなこいつ! すっかり『彼女』が板についてやがる!」

 カヒンと付き合うようになってから、すでに一週間以上が経過していた。

 最初は彼と恋仲になれるなんて夢か幻だと思っていたけれど、こうして毎日彼と一緒にいると、段々とそれが自然なことのように思えてきた。
 人間って変わるものだな、とこれだけ実感できるものも珍しい気がする。

 それより、と今度は私の方が質問する。

「舞恋こそ良かったの? ゴルフも一緒にって……」

「んー、まあ。浮気……というかハーレムの件についてはまだ許してないけど、こうなったら誰が一番魅力的な女性なのかをわからせてやろうと思ってね」

 ゴルフには舞恋以外にも複数の彼女がいる。

 私ならすぐさま別れて逃げ出すような案件だけれど、舞恋は違うらしい。
 むしろそのハーレムの頂点に立ってやるという闘志を燃やしているのだから、さすがだ。

「そういうわけだから、今日はダブルデート! めいっぱい楽しんじゃお~~~!!」

 威勢の良い声を上げながら、舞恋は我先にと駅の階段を駆け降りる。
 電車のホームは地下にあるのだ。

 彼女に続いて私も降りようとすると、すっと横からカヒンが遮る。
 不思議に思って顔を見上げると、彼はいつもの微笑みを私に向けてから、そのまま階段を先に降り始めた。
 どうやら私が転倒しても支えられるように、自分が前に出たかったらしい。

「じぇ、じぇんとる……」

 あまりにも紳士的なその気遣いに、私は震えた。





 ホームへ降りると、先に降りていた舞恋とゴルフが何やら自動販売機の前で話し合っていた。

「No, no~~. I want to be skinny!」

 だめだめ、痩せたいの! と舞恋は頭を抱えている。

「舞恋、どうしたの?」

「もう~、聞いてよみさきち! 私いまダイエットしてるのに、ゴルフってばお菓子をすすめてくるんだよ! 鬼じゃない!?」

 彼女の前にある自動販売機には、色とりどりのスナック菓子がずらりと並んでいた。

「I love fat girls.」

 太った女の子も好きだよ、とゴルフは意地の悪い笑みを浮かべて言う。

「Shut up!」

 黙れ! と噛み付く舞恋を見て、彼はますます嬉しそうな笑顔を見せる。

(もしかして、ゴルフってちょっとSっ気があるのかな……?)
 
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