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第三章
第三章20 〈ネリフィラ〉
しおりを挟む「我々以外にも、ダンジョン攻略を目論む輩がいようとは……いやはや面倒な事だ」
黒いスーツ、黒いシャツ、全身を黒で固める男はブツクサと独り言を言いながら頭を掻いている。
そして俺には分かっていた。
このまるで生臭いような、ネットリと絡みついてくる気配……間違いなく魔族だ。
もちろん魔族全員がこんな気配をしているのではないだろう。
だが、俺が出会った悪意を持った魔族は例外なくこの気配を漂わせていた。
「ここにいるということは、私の愛すべき子供達をなぎ倒して来たという事か……ああ、可愛いそうな子達。せっかく死を超越して黄泉の国から帰ってきたというのに……」
魔族の男は大袈裟な身振り手振りで、まるで芝居を演じているようだ。
「何が言いたいんだ?」
「おお! 私には子供達を亡くした悲しみに、身を浸す時間すら与えてもらえないのか……!?」
なんなんだこの自己陶酔野郎は。
間違いなく魔族なんだが、さっきから一人で芝居をしているようだ。
『あのアンデッド共はお前の仕業なのか?』
タロが魔族に質問した。
「低俗な狼風情が!! この私と対等に口を聞けると思わない事です!」
『なんだと?』
俺はタロを抑えながら、代わりに質問をする。
「ミニドラゴンのゾンビや他のアンデッドもお前の仕業なのか?」
「そうです! 死を超越した素晴らしい愛すべき我が子供達です」
「なるほど……ダンジョン攻略中なのか?」
「ええ、そうですとも。先日まではダンジョンマスターであるドラゴンと戦っていたのですがね……あと一歩というところで違う階層に飛ばされてしまいました」
ダンジョンマスターのドラゴンが負けそうになって戦闘を強制終了したって事か!?
てことは、少なくともドラゴンを追い詰められる実力者という事だ。
「まあ、それもあと少しの辛抱ですがね。ドラゴンも直に愛すべき我が子に生まれ変わるでしょう!!」
!?
「どういう事だ?」
黒一色で身を包んだ魔族の男がよくぞ聞いてくれたとばかりに笑みを浮かべる。
「貴方は何故このダンジョンの魔物までもが、我が子供になっていたのだと思いますか?」
俺の日本での知識なら、生物がアンデッドになる理由なんて一つだけだ。
「……病原菌か?」
ウィルスと言う概念があるか分からないので、あえて病原菌としておく。
「!! おお……なんという素晴らしい日なのだ。仕組みを完全に理解している者がいようとは!! 素晴らしい……素晴らしいですよアナタ!! 名前をぜひお聞かせ願いたい!」
いちいち芝居ががかって面倒くさい奴だな。
「魔族に名乗る名前は持っちゃいないよ。それに仕組みを理解してるわけじゃない……知っているだけだ」
俺の言葉に魔族は一切の落胆の表情は見せず、未だ好奇心が湧いてしょうがないと言った感じだ。
「知っているだけで素晴らしい事ですよ。名前をお聞かせ願えないのは残念ですが……じきにアナタ方も我が子供になる事ですし問題ないでしょう」
「? どういう事だ?」
「ドラゴンも時間の問題だと言ったでしょう? 今頃私の作り出した可愛い病原菌に侵され、もがき苦しんでいることでしょう。抵抗をやめて身を委ねれば楽になれると言うのに……」
──!? ドラゴンはこのままだと死んでアンデッド化してしまうのか!?
……ん? もしかしたら最下層への道が無くなった理由が分かったかもしれない。
ドラゴンもダンジョンマスターとして苦肉の策だったに違いない。
何とかして助けてやらなくちゃ。
「私の可愛い子供達と戦闘をしてきたアナタ達も感染している可能性は高いと思いますけどね」
大丈夫。俺達は傷一つ負わずにここまで来ている……ゲームや映画の知識で言えば問題はないはずだ……それに全部燃やして来たし……でもソースがゲームや映画か……自信無くなってきた。
「て事はだ。今すぐオマエをぶちのめして一刻も早くドラゴン助けに行かなきゃな」
「いいでしょういいでしょう。私の可愛い子供達にしてあげますよ。私の名前はネリフィラ。魔族一の死霊使いネリフィラです。一度黄泉の国に行ってきなさい!! すぐに私の子供として蘇らせてあげます!」
「来るぞ! リリルは万が一のために皇帝を呼びに言ってくれ」
もしかしたら間に合わないかもしれないけど、それでも……。
「私じゃ言葉が通じないわよ!」
「!? そうか、そうだよな……カナも一緒に行ってくれ! 最速でだ」
「二人で大丈夫か!?」
「なんとかするさ。行け!」
「死ぬなよ」
「お前達こそ道中気をつけてな」
俺に言われカナとリリルが皇帝を呼びに地上へと向かって走り出した。
もちろん地図は渡してある。
俺がカナとリリルと話している間に、タロと魔族ネリフィラとの戦闘は開始していた。
ネリフィラが呼び出したアンデッドの群れにタロが火魔法を放っている。
ネリフィラはと言うと、自分のアンデッドの群れの後ろで戦闘を見守っている。
俺はネリフィラに向かい、神剣エクスカリバルを抜きながら走る。
一瞬で距離を詰めて斬りかかるが、ネリフィラの硬質化した爪に防がれてしまった。
「死霊使いの私など簡単に倒せるとお思いですか? ならばその誤った認識を正して差し上げましょう!」
そう言うとネリフィラは己の身体に爪を突き刺した。
───ドクン。
すると何かが大きく脈打った途端、ネリフィラの身体が大きく逞しく変化していってのだ。
「ああそう……自分でも戦える系ね」
一人で仕掛けたのは無謀だったか……。
だが今はタロもアンデッドの相手をしていて、すぐにはこっちには来られないだろう。
「チッ」
「フフフフ……なんだか焦っておられるようですね。言っておきますが、この爪には気を付ける事です……私の可愛い子供になりたくないのならね!!」
「なら一撃も貰わずに倒すしかないね」
「フフフ、言うではない……おわっとぉ!?」
俺はネリフィラが喋っている隙に斬りかかったかが、ギリギリ躱されてしまった。
「何という卑怯な……ゆるしまゴハァッ!!」
話をしているネリフィラの背中に、タロの火魔法が直撃した。
【思念通信】でタイミングを見計らって魔法を撃ってこいと伝えておいたのだ。
そしてタロはネリフィラが背中を向けたタイミングで魔法を放ったのだ。
俺はタロにグッと親指を立てて合図する。
「ゆるさん、ゆるさんぞ~!!」
ネリフィラが怒り狂い、ここらからが戦闘の本番になりそうだ。
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