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第二章 エンドレスサマー
第二章16 〈乾杯〉
しおりを挟む「ここが自慢のエンドレスサマーです!」
「ダンジョンの中なのに海がある……それにこの星空凄すぎでしょ」
今、外の時間は夜なので、エンドレスサマー内も夜の海になっている。
「夜の海もなかなかオツなんだぞ」
アイラさんにもマルチナさんにも、ダンジョン内ではモンスターと会話が出来る事を説明してある。
タロは人間の言葉で会話済みだけど、いきなりリリル達が話したら、さらにビックリしてしまうからね。
説明もこちらから先にした方が楽だし。
「決めた……私ここに住む!」
そう決断してくれたのは、アイラさんではなくマルチナさんだった。
「ちょ……マルチナ何言ってんの!?」
「そうですよ。酔っ払った勢いで決める事じゃないです」
「酔いなんかとうに醒めてるぞ。私ここが気に入っちゃった~! 飲食店以外に何か募集してない?」
オイオイ、この人本気だよ。
「そうですね~……酒場とか宿屋とかですかね」
「あちゃ~……どれもやった事ないなぁ。仕方ないからアイラの店のウエイトレスでもするかな~?」
「ユウタ、アレは? 水着作って貰ったら?」
「なるほど、水着か……確かに販売したいしな。マルチナさん水着って作れますか?」
「作れるに決まってんじゃ~ん! 人形の服だって全部手作りしてるんだし、人間サイズもユウタ君のオーダーで作ったしね!」
「俺としては水着作って販売してもらえるのは、すごく助かりますが、『フランソワ』はどうするんですか?」
マルチナさんは、あっ……という顔をしたがすぐにいつもの調子で話し出した。
「お母さんに頼むから問題ナッシン! だいたいお母さんが継ぐ予定だった店なんだしね。それを自分が楽したいからって私に押し付けたんだぞ」
でも、そんな調子でお店を娘に押し付けた母親が、簡単に引き受けてくれるだろうか?
「人形作りの腕は私より遥かにイイんだし、いざとなったら店閉めてでも、ここに来るわ。私だってやりたい事やって生きたいわよ」
マルチナさん……。
「分かりました。人形のお店については俺達がとやかく言う事じゃないですしね。マルチナさんには水着の製作販売、それと更衣室の管理をお願いします」
「やだ~、仕事増えてる~! でも任せておいて~!」
よし、次はアイラさんだ。
アイラさん達を連れて、浜辺の飲食店建設予定地を案内する。
「ここで食べ物を提供して欲しいんです。お店の要望があれば出来るだけ希望に添えるようにします」
アイラさんは建設予定地を何度も行ったり来たり歩き回り、目を閉じて何か考えているようだ。
頭の中でイメージを膨らませているのだろう。
「わかった。私もやる! ここにお店を出させてもらうわ」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「今の屋台も急に閉めるわけにはいかないから、立ち退き期限の今月いっぱいはあそこでやらせて」
「私も~。今月内にはお母さんを説得してみせるわ」
「全然問題ありませんよ。俺が町まで行くんで希望とかあったら、その都度教えてください」
アイラさんとマルチナさんが、エンドレスサマーにお店を出してくれる事になった。
あとは宿屋と酒場をやってくれる人が見つかれば、基本的な海のリゾートの完成だ。
「出店決定を記念して乾杯するわよー」
いつの間にかいなくなっていたタロとリリルが、カチ割りレモンゴを持って来た。
マルチナさんの出店が決まったあたりで、作りに行っていたのかな?
それにしても、あの二足歩行でお盆を持って来る、まるんとした生物は一体何なんだろう……絵面がシュール過ぎる。
「あ! 乾杯の前に……コロッと忘れてたよ」
俺は【四次元的なアレ】から、マルチナさんに頼んでおいた人間サイズのメイド服を着た人形を取り出す。
『ユウタ様……コレは?』
「マルチナさんに頼んでおいたマスコの新しい身体だよ」
「本当に可愛く出来てるよねー」
「コレなら動いてても不思議じゃないぞ」
「気に入ってくれると嬉しいぞ~」
「マスコ……乗り換えてみ?」
『ハ……ハイ』
そう言うと、マスコ・スペシャルの西洋人形から新しい人形へと移り変わる。
カクン……と西洋人形が俺の腕の中で力をなくし、新しいメイド風の人形に命が宿る。
『どう……ですか?』
「キャーー! マスコ超可愛いよー!」
「マスコが人間になったぞ」
「へぇ……マスコさんが入ったら、人間っぽく見えるもんだね」
「良かった~! 可愛いくなってるよ~! 初めはユウタくんの変な趣味だと思ったけどね!」
『ユウタ様……』
俺はマスコ・デラックスに可愛くバージョンアップしたマスコに笑顔とサムズアップで答える。
『ユウタ様……皆さん……本当に嬉しいです。ありがとうございます』
「じゃあ改めて乾杯しようぜ!」
「アイラさんとマルチナさんの出店決定と、マスコの新しい身体を記念して、カンパーイ!」
「何これ~? 美味しい~」
「このサッパリとした甘みは、ヤキメン食べた後とかに口直しにいいかもなー」
相変わらずカチ割りレモンゴは大人気だ。
いずれはレモンゴ以外の味も増やしていきたいが、まだ先の話だ。
「お? 何か賑やかだなぁ」
巣穴で寝ていたジロが騒ぎを聞きつけて出て来た。
「代理守護者のくせに、いつまでも寝てんじゃないわよ」
「自覚が足りんぞ化けネズミ」
「黙れ犬ころ。何かあったら起きるに決まってんだろ」
『ジロ様、どうですか?』
「おわ? マスコか!? 新しい身体貰ったんかよ。スゲエ可愛くなったじゃんか」
「今度はネズミのモンスターか」
「いや……何この生き物……やばい、やばいよ……可愛すぎる~! キャー! 何このネズミ~!! 何で武装してんの~? ウケる~!」
「出たよマルチナ独自の感性が」
「うわっ! なんだこいつ。ちょ、やめ……ユウタ笑って見てないで助けろや」
なんとマルチナさんは、ジロがどストライクに可愛く見えるらしい。
まるで犬猫を愛でるように、大型ネズミのジロをモフリまくる。
「いや~ん、このネズミおウチに連れて帰りた~い」
「ネズミじゃねえっつうの! ヌートリアだっつーの!!」
いや、君はネズミだからねジロ。
ヌートリアは大型のネズミの仲間だから。
それについに自分でヌートリアって言っちゃってるよ。
奇跡の固有種ヌートリアームズじゃなかったのか?
やっぱり武装してるからヌートリアームズって言ってただけなのか。
「誰か~……た~すけて~くれ~」
ジロの悲鳴がエンドレスサマーに響き続けた。
朝になり、アイラさんとマルチナさんをアルモンティアに送る。
「やっと解放されるぜ……」
『マルチナ様、素敵な身体をありがとうございました。大切にします』
「そんなに喜んでもらえて嬉しいぞ! メンテとか服とか新しいの欲しくなったら、いつでも言ってね」
「私は眠たいから待ってるね~」
『アイラ様も是非次は自慢の海で泳いでください』
「ここで働くようになったら、いつでも泳げるからね。それまで楽しみにとくよ」
「じゃあタロ頼む」
「オーケー! へ~んしん! とう!!」
『行くぞ……乗れ』
「じゃあまた来月来るよ」
「またね~!」
2人をアルモンティアに無事送り届けた帰り道、傷だらけのボロボロの二人組が平原に倒れていた。
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