『ダンジョンdeリゾート!!』ダンジョンマスターになった俺は、ダンジョンをリゾートに改造してのんびりする事にした。

竹山右之助

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第二章 エンドレスサマー

第二章15 〈思い立ったが吉日〉

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 もうみんな集まってるかな?

 冒険者ギルドに入り、カウンターや依頼の貼り出されている掲示板を素通りして、併設された酒場に向かう。

 奥の方の離れた席にジュルジュ、バンチ、レナさんを見つけた。

「こっちこっち」

 俺達を見つけたレナさんが手招きをしている。

「なぁユウタ~」
「ん?」
「ここいろんなモンスターが居るから話して来ていい?」
「いいけど、主人のテイマーに絶対迷惑かけるなよ」
「わかってるぞ。ついでにエンドレスサマーの宣伝もしておくぞ」
「どうせ会話に加われないし、私もタロと行くわね」

 そう言ってリリルは俺の肩からタロの上へと移動した。

 マルチナさんと席に着く。

「こちらのお嬢さんは?」

「アイラさんの親友のマルチナさんです」

「よろしくね~」

「ほう……アイラさんの……オホン! 私がこのパーティーのリーダー、ジョルジュです。お見知りおきを」
「バンチです」
「レナで~す! 『フランソワ』の店長さんよね?」

「え、何~? 私の事知ってるの~? 一方的に知られてるのは何だか恥ずかしいぞ!」

「見た目と話し方とのギャップが凄いね」
「まだ子供の頃、お店に何回か行った事があるの。もちろん先代の頃だけどね」

「お婆ちゃんの頃ね~、懐かしい~」

 アイラさんが来るまで、自己紹介がてらにお互いの事を話して時間を潰す。
 いつの間にか席を外していた気の利くバンチが酒を持って来てくれた。



 ──ゴクッゴクッゴクッ。

「プハァッ……うんめぇー!」

「中々イイ飲みっぷりじゃない?」

「酒飲むの久しぶりなもんで」

 いつもは無駄にうるさいマルチナさんが、俺の横ですでに二杯目を飲み干そうとしている。
 このペース……ザルの予感がするぜ。

 しかし、こっちの世界のエールが、日本でたまに飲んでたエールと変わらなくて良かった。
 出来ればこのエールもエンドレスサマーで売りたいものだ。
 海と言ったらやっぱりビール!
 ラガーじゃないのが少し残念だけど、贅沢は言ってられない。
 それにもしかしたら、この世界にもラガーがあるかもしれないしな。


 酒も入りみんなが饒舌になる中、マルチナさんだけが寡黙になっていく。

 酒が入ると静かになるタイプなんだな。


「いたいたぁ。お待たせ~!」

 走って来たのか、額に汗しながらアイラさんが合流する。

「あれ? マルチナ? しかも飲んでる!?」

「マズかったですか?」

 俺の問いにアイラさんは苦笑して、

「悪くはないけど、必要最低限しか喋らなくなっちゃうんだよね」

「なら問題無しですね。いつもは喋り過ぎなんで」


 アイラさんの酒も、気の利く男バンチが持ったきた。
 ジョルジュは何故か背筋をピンと伸ばして座っている。


 改めて自己紹介などをしてから、アイラさんの現状を確認する。

 話を要約すると、やはり店は閉めるか移転するかの二択らしい。
 行列を整理するように人を雇おうかと思ったらしいが、それでは商人ギルドの許可が下りないらしいのだ。
 おかしな話だが、商売をする以上は商人ギルドには逆らえないらしい。

「移転するにしても、先立つものがねー……屋台型じゃなく店舗型にしてくれって言われてるし」

 アイラさんが酒が入った木製のジャッキを煽りながら愚痴る。


「なら一度エンドレスサマーを見に来てくださいよ。お店はコチラで用意しますし」

「でも話が上手すぎる気がするんだよねー」

「あ、その辺は私達が保証するわよ」
「うんうん」
「します!」

 どうしたジョルジュ? なんか固いぞ? いつもの斜に構えた感じはどうした。

「保証出来ないと言えるのは、売り上げだけですね。なんせまだ出来たばかりの無名リゾートなんで……」

「仕入れとかは?」

「それも行く行くは商人に定期的に入ってもらうとして、初めのうちは俺がやります」

「通える距離じゃないから、住み込みだよね?」

「そうなりますね。住居も用意しますし、アルモンティアに帰りたい時があれば送迎しますよ」

「ますます上手すぎるねー」

「とにかく俺はエンドレスサマーをお客で一杯のリゾートにしたいんですよ。そのためには飲食店は欠かせません。一度見てからでもいいんで、ぜひ検討してみて下さい!」

 俺は深く頭を下げた。
 アイラさんは一度大きく呼吸をしてから、ニコッと笑った。

「その話が本当なら渡りに船で、助かるのは私の方さ。売り上げなんて元から保証されてるものじゃないし、私のヤキメンで客を増やせば良いんだよ。よろしく!」

 そう言って差し出された右手を、俺も右手で掴み握手をした。
 何故かこの時、ジョルジュから殺気が放たれ、バンチが苦笑し、レナが呆れた顔をしていた。

「で、いつ見学させてもらえる?」

「俺の方はいつでも構いませんけど……」

「なら思い立ったが吉日。今からでもいいかい? 送迎もするって言うくらいなんだから、何か足があるんだろ?」

 酒を飲んでいるというのに、なかなか勘がするどい人だな。
 勘がいいと言うより頭が良いのか?

「マルチナも連れて行っていいかい? 流石にこの状態のこの子を置いていけないから」

「大丈夫です。帰りも無事にアルモンティアに送り届けますから」

「じゃあ行こうか?」

 バンチ達はアルモンティアに残ってスカウトをつづける事になり、ギルドで別れることになった。
 ギルドから出る時に鋭いナイフの様な殺気を、ぶつけられたが、犯人は言うまでもない。


「タロ! リリル!」

 俺の声に反応して、タロとリリルが戻ってきた。
 エンドレスサマーに戻る事を伝え、街の出口まで歩く。

「ユウター。タロってばギルドに居た猿のモンスターにおちょくられてたのよー?」
「ファンキーモンキーのトムだぞ。なかなか生意気な猿だったけど遊んでやったんだぞ」
「遊ばれてたようにしか見えなかったけどね」
「何だと~?」
「あ、ちゃんとエンドレスサマーの事は話しといたからね。主人を上手く誘導出来たら行ってみるって」
「お、いいね~」


 町の出口から少し離れた所まで歩いてから、タロにオリジナルサイズに戻る許可を出す。

「刮目せよ! へーんしん! とーう!!」

「喋っ……!?」

 突然喋ったタロが空中でみるみる大きくなり着地する。

『ふむ……悪くない。アイラよ……ヤキメンの味に我は感動しておる。これからも研鑽を怠らず精進するがよい』

「狼が喋っ……デッカくなっちゃった!?」

 俺はこれがタロの本来の姿で、人間の言葉も話せる事、アルモンティアの送迎は当分の間このフェンリルが担当する事を説明する。

「フェンリルって伝説の中だけの生き物じゃないんだねぇ。さらにそのフェンリルを足代わりに使おうってんだ、何が何だかこんがらがってきちゃったよ」

『アイラには世話になっておる……特別丁寧に走ってやろう』

「アハ……アハハ」

「大きくなっても可愛いじゃん」

 酔っ払いのマルチナさんが久しぶりに口を開いたと思ったら、これだけ話してまた黙ってしまった。


 全員を乗せて夜の平原をタロが駆ける。
 傍から見たら、長い銀髪が月光に照らされ、一筋の銀色の光の様に見えるだろう。

 そしていつもより少しだけ時間を掛けてエンドレスサマーに到着した。
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