上 下
4 / 75
第一章 ダンジョンマスター・ユウタ

第一章3 〈守護者フェンリル〉

しおりを挟む
 
 ズゴゴゴゴゴゴ……。

 大きな扉が重そうな音を立て土煙を巻き上げながらゆっくり開いていか。

 リリルと目を合わせ、互いに頷いて同意の意思を確認してから最後の部屋に入る。
 一歩足を踏み入れただけで、フェンリルが道中に出てきたモンスターと格が違うのがわかる。
 部屋の奥から物凄いプレッシャーを感じるのだ。


『フ……よもやこんなにも早く挑戦者が来るとは思わなんだわ……是非我を倒して解放してほしいところだが、人間とピクシーか……わざと負けるワケにはならんというのに……』


 諦念の混じった重く低い声が腹に響く。
 のそりと立ち上がった銀色の毛をしたフェンリルは、コチラを向き咆哮した。
 あまりの声量に手で耳を塞いでしまう。
 リリルにいたっては、音圧で飛ばされてしまった。
 だが咆哮の後は何もしてこない、コチラを舐めているのだろう。
 飛ばされたリリルを確認するとフラフラと飛び上がり、邪魔にならないように隠れていると言って後方に下がった。

 俺を舐めて何もして来ないフェンリルに対し、俺も攻撃する前に、もう一度スキルを試す。
 地下三階の狼の群れの他にも道中試してみたけど、リリル以外に【完全なる懐柔パーフェクトフレンズ】は発動しなかったんだよね。
 実力差などの条件があるのだろうか?
 物は試しとスキルを使おうとするが、やはり発動しない。

 仕方ないので攻撃に移ることにする。
 剣を貰ったあの時から言ってみたかった台詞を言いたいがため、神剣エクスカリバルを鞘から抜いた。

「飛ぶ斬撃を見た事はあるか!?」

「……」

 フェンリルは反応しない。
 実際に剣で斬撃を飛ばす自信はないから、風魔法でそれっぽくやってみる。

「切り裂け!エア・カッター!」

 簡略化された詠唱から発動される風魔法の刃、かまいたちがフェンリルを襲う。
 取った! と思った瞬間にノーモーションから風魔法を放たれて相殺されてしまった。
 そりゃ魔法がある世界だ……飛ぶ斬撃くらいあるわな。
 よし、そろそろ本気出す……そう思った瞬間にフェンリルの周りに無数の雷球が浮かび上がっていた。

「あわわわ……」

 フェンリルの周りの雷球から迸る電撃を、チートな身体能力に任せて何とか避ける。
 だけど電撃は止まず、このままではジリ貧だ。


 対応したいけど、イマイチ自分に何が出来るか分からんのだよなぁ。
 剣と魔法が何となく使えるのはわかるんだけども。
 色々試してみるしかない。

 全速力で電撃を避けながら、余裕綽々のフェンリルを視界の端に捉える。

「頼む、出てくれよ!アースウォール!」

 声と共に地面から土の壁がせり上がり、電撃を土中に受け流す盾となった。

「おお!上手くいった! なら次は、ストーンジェイル!!」

 フェンリル目掛けて岩の柱が何本も格子状に伸びて、巨大な狼の動きを封じた。

「よーーし、イメージ通り!」
『なんだと!?だがこの程度のくびき、すぐさま振り解いてくれるわ!』

 岩で出来た檻を力づくで壊そうとフェンリルがもがいている。
 フェンリルの動きが止まってる内に、ケリをつけなくちゃ。

 一直線にフェンリルに向かい、ジャンプして顔を斬りつける。
 その美しい銀色の毛に赤い色が滲む。
 斬られたからなのか、フェンリルの表情には怒りの感情が混じりつつある。


 どうトドメを刺そうかと考えていたら、フェンリルが檻に捕らえられたまま、大口を開き攻撃態勢に入っていた。

「ブレスか!?」

 いや……違う、火球だ。
 直径50センチ程の高密度に圧縮した火球が、俺を目掛けて放たれた。

 また例の文字が頭に流れた。

 〈スキル【打撃の極意メッシャミーン】強制起動──成功〉
    〈【身体強化パワーブースト】 強制起動──成功〉
 〈打ち返せます〉

 ……打ち返せますて……。


 放たれた火球は唸りを上げて襲いかかってきた。
 俺は何故あんな事をしたのだろう。
 打ち返せますの言葉に従って、エクスカリバルを咄嗟に鞘に納め、野球のバッティングの要領で火球を打ち返した。

 グワァラゴワガキーーン!!

 凄まじい音と共に打ち返された火球は、その火球を放ったはずのフェンリルに直撃して爆散した。
 その衝撃でフェンリルは気を失ったようだ。

「スッゴーイ」

 隠れて身を守っていたリリルに勝利条件を尋ねる。

「この場合だとフェンリルが死ぬか戦闘不能になるか、気を失ったら勝ちなんじゃないかな。多分守護者討伐の報酬が……」

 物陰から出てきたリリルが言い終える前に、目の前に金色の宝箱が出現した。
 早速開けてみると、何やら首輪の様な物が入っている。

「へ?これだけなの?」
「う~ん、フェンリルにこの首輪をつけろって事かぁ?」
「ユウタは鑑定スキルとか持ってないの?」
「そんな都合良く何でもあるわけないだろ!?」
 ……ないよな!?


 〈スキル【解析】【鑑定】を統合しますか?〉

 〉はい
  いいえ

 ……あるんかい。

 〈スキル【真贋・解析なんでもかんていだん】を生成しました〉
 〈スキル【真贋・解析なんでもかんていだん】をAUTOに設定します〉

 ……名前よ。すごいスキルだとは思うけど名前よ。



「……鑑定スキルありました」
「さっきないって言ったじゃない!?」
「俺も知らなかったんだから仕方ない」
「どーゆーことよ!?」
「ええい!うるさいうるさい!とにかく使うぞ」

 疑問を投げかけるリリルを強引に黙らせて、鑑定スキル【真贋・解析なんでもかんていだん】を使って宝箱の首輪状の物を見てみた。


 アイテム名【グレイプニール】
   ランク ウルトラレア
 装着した天狼族を従属させ使役できる効果がある。大型の天狼属にも使用出来るよう長さは伸縮自在である。また、これを装着された大型の天狼族は一般的な狼のサイズまで小型化され、装着して主となった者の許可なく従来のサイズには戻れない。

「……らしいです」
「えぇ……なにそのフェンリル特攻」
「でもコレを気絶してる隙に無理矢理付けるのはなぁ……」
「アンタ何言ってんの?フェンリルが黙って装着すると思うの!?狼属の最上位種なのよ!? さっきだってユウタの事舐めてなけりゃ、あんなに簡単に倒せる相手じゃないのよ!?」
「それは分かってるんだけど、どうもね……」
「バカ!バカなの!?ユウタってバカなの!?」

 ……3回もバカって言った……覚えとくからな。
 だけど、フェンリルだって好きでダンジョンの守護者になったわけじゃないんだしな。
 とにかく目を覚ますのを待つとしよう。
 あ~腹減った。




「んぐんぐ……ぷはぁ!湧き水あって助かったぜ。よく考えりゃ何の準備も無しにダンジョン入るの自殺行為だな。笑える」
「なに笑ってんのよ、本当にバカね」

 フェンリルが目覚めるのを待つ間、暇つぶしがてら最深部を探索してたら、綺麗な水が湧く水場を発見し休憩していたのだ。


『……我は……そうか、負けたのか』

 やっとのお目覚めである。
 起きたフェンリルに守護者の任が解かれる事、宝箱から天狼族を従属させ使役することの出来るグレイプニールなる首輪が手に入った事を説明した。

『矮小なる人間如きが我を使役するだと? せっかく短時間で守護者の任が解かれたのに、誰が好き好んで使役などされるというのか』

「ほら見なさい」

 リリルのドヤ顔がウザイ。

「いやまあ、そう言うとは思ったんですけどね? 気を失っているところに勝手に着けるのはどうかと思ってさ」
『ふ……人間如きが、天狼族最上位種の我を慮ったというのか? 面白い奴よ』
「それしか取り柄がありませんもので……」
へりくだるな人間。一つ聞かせてくれるか? お前はダンジョンマスターになって、この生まれたばかりのダンジョンをどうするつもりなのだ?』
「あ、私も聞きた~い」

 フェンリルの突然の問いに、俺は少しだけ考えてから答えた。

「マスターコアに聞いてみないと分からないんだけど、可能ならやってみたい事はある。えーと……」

 そう言ってフェンリルとリリルに構想を伝えた。

「なにそれ面白そう!」
『フハハハハ!! 面白い!面白いぞ人間!』

 気に入ってもらえて何よりです。
 まだ実現できるかどうかは分かんないけどね。

『決めたぞ。我もその計画に付き合うとしよう……グレイプニールを着けるが良い』
「え?いいの!? 使役されちゃうんだよ!?」
『我も長く生きておるが、お前のような奴には会ったことがない。お前の計画が実現するのなら使役されるのも、また一興。気が変わる前に着けるが良い』
「……へへへ。そう言う事なら遠慮なく」

 着けやすいように座って頭を下げてくれたフェンリルの首にグレイプニールを装着した。
 すると、みるみるとフェンリルのサイズが、ぷっくりした芝犬くらいの大きさに縮んで、ブンブンと尻尾を振っている。

「俺の名前はユウタ。んでこっちがピクシーのリリル。これからよろしくな! そういやフェンリルの名前は?」
「オイラの名前かい!? 前の名前は捨てて新しい人生を生きるんだ。ユウタが名前つけてくれよ」
「このフェンリル性格と声変わってない?それに狼サイズになるんじゃ…」
「そんなんどうだっていいだろ? 名前かぁ……じゃあタロで」
「なにその適当な名前」
「俺の地元じゃ伝説犬の名前だぞ!」
「犬じゃないやい狼だい! でもタロか……気に入った!」
「えぇ……アンタもアンタで気に入んの?」
「てゆうか、気付いたら二足で立ってるし……グレイプニール恐るべし」

 縮んだタロがいつの間にか二本の足で立って会話していた。
 どうやらグレイプニールの効果でサイズダウンしている時は二足歩行が可能なようだ。


 こうして俺は、新たに二足歩行する(サイズダウン時のみ)フェンリルのタロを仲間に加えダンジョンを攻略した。
 あとはマスターコアにご対面するだけだ。


─────────────────────

ダンジョンの攻略に成功

回収した宝

・古金貨 30枚
・宝石類 14個
・金杯 2脚
・王冠 1個
・装飾付き道具箱 1個
・腕輪 2個
・首飾り 1本
・装飾付き儀式用剣 1振り


仲間になったモンスター

・ピクシーのリリル
・フェンリルのタロ
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

転移先は勇者と呼ばれた男のもとだった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
 人魔戦争。  それは魔人と人族の戦争。  その規模は計り知れず、2年の時を経て終戦。  勝敗は人族に旗が上がったものの、人族にも魔人にも深い心の傷を残した。  それを良しとせず立ち上がったのは魔王を打ち果たした勇者である。  勇者は終戦後、すぐに国を建国。  そして見事、平和協定条約を結びつけ、法をつくる事で世界を平和へと導いた。  それから25年後。  1人の子供が異世界に降り立つ。      

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

底辺召喚士の俺が召喚するのは何故かSSSランクばかりなんだが〜トンビが鷹を生みまくる物語〜

ああああ
ファンタジー
召喚士学校の卒業式を歴代最低点で迎えたウィルは、卒業記念召喚の際にSSSランクの魔王を召喚してしまう。 同級生との差を一気に広げたウィルは、様々なパーティーから誘われる事になった。 そこでウィルが悩みに悩んだ結果―― 自分の召喚したモンスターだけでパーティーを作ることにしました。 この物語は、底辺召喚士がSSSランクの従僕と冒険したりスローライフを送ったりするものです。 【一話1000文字ほどで読めるようにしています】 召喚する話には、タイトルに☆が入っています。

愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

処理中です...