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第一章 ダンジョンマスター・ユウタ

第一章2 〈スキル強制起動〉

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 地下三階に下りてから、何だかダンジョンの空気が変わった事に気が付いた。

 なんだかひんやり肌寒いというか緊張感があると言うのか……。

「念のために聞くけど……リリルって強いのか?」
「ユウタ様……この私のどこをどう見たら強く見えるのですか!? 魔法は少し使えるけど、戦闘面では期待しないでください」

 ……何なら期待していいんだよとツッコミたくなるが我慢しておく。
 まあ、色々教えてくれてるし話し相手もいないよりかは全然いい。


 地下三階に下りてからは、ダンジョンも一本道ではなくなって複雑になってきていた。
 だけど俺が道に迷う事は無かった……何故かって?

 スキル【自動地図オートマップ】と【道順視認化ルートナビ】が発動しているからだ。
 もう目の前に罠だのゴールへのルートだのダンジョンが丸裸にされて見えてるのさ。

 自動地図オートマップのおかげで全体像も分かるし、探索した範囲でマップ情報が書き足されていくし、道順視認化ルートナビのお陰で目的地までの道に迷うことはない。
 ただ2つのスキルが同時に発動してるのは邪魔だなぁ……何とかならんもんか……。


 〈スキル【自動地図オートマップ】と【道順視認化ルートナビ】を統合しますか?〉

 〉はい
  いいえ

 統合……だと……?もちろんイエスだ。


 〈スキル統合完了しました〉
 〈スキル【完全なパーフェクトる座標ロケーション】を生成しました〉
 〈スキル【完全なパーフェクトる座標ロケーション】を使用します〉

 おお!さっきまで別々だったスキルが1つになって圧倒的に見やすくなったぜ……こんなに至れり尽くせりでいいのだろうか……?
 神様、ジジイって言ってゴメンなさい。


 すると、迷わずに歩いている俺をリリルが不思議に思ったのか尋ねてきた。

「ユウタ様って……」
「ユウタでいいよ。フランクに行こうぜ」
「じゃあ、ユウタってこのダンジョンの道知ってるの?」
「んなわきゃないじゃん。生まれたてなんだろ?信じる信じないは勝手だけど、神様の御加護ってやつさ」
「……何それ……。──!!ユウタ何か来る!」

 大丈夫大丈夫。無問題ですよ。
 自動地図に俺たちを表す青い点以外の、赤い点が近づいてきてるの見えてたから。
 でも、意外にスピード早めの敵なのかな!? 結構早いわ。
 でもワイには完全なる懐柔パーフェクトフレンズがあるんや。
 モンスターは怖くはないんや!
 仲良くなるんや!


「グルルルル……」

 狼みたいな犬系のモンスターの群れですな。
 ヨダレを垂らしながらオレ達に襲い掛かろうと、フォーメーションを組んだ動きをしてるぞ。

「ユウタ……」
「任せとけって」

 オラ! 完全なる懐柔パーフェクトフレンズ発動だぜ!

 ……。

 ……。

 ……アレ? スキルが発動しない……てかスキルってどうやって使うんだっけ? さっきまでは勝手に選択肢が出てたのに……。


「アイスピック! ユウタ、ボケっとしないで! 死ぬわよ!」

 ツララ状の氷が狼の群れに飛んでいく。
 スキルが空振りに終わった瞬間、狼の群れが襲い掛かったきた。
 動揺を隠せない俺の代わりに、リリルが小さい体で高速飛行しながら魔法で応戦してくれていた。
 ──オイオイ裕太よ……あんな小さな妖精の女の子が1人で戦ってるんだぞ? 何ボケっとしたんだよ。何のためにその剣はあるんだよ!
 このままじゃリリルが危ないぞ!
 使い方が分からなくたっていい……とにかく抜くんだ俺!!

 意を決して神剣エクスカリバルを抜いた時、また目の前に例の文字がまた浮かび上がった。

 〈スキル【剣術】強制起動─────成功〉
    〈【体捌き】強制起動────成功〉
    〈【気配察知】強制起動───成功〉
    〈【無手の心得】強制起動──成功〉
    〈【心眼】強制起動─────成功〉

 〈これらのスキルを強制統合します──完了〉
 〈ジョブスキル【剣を奏でる者ソードマスター】を生成しました〉
 〈ジョブスキル【剣を奏でる者ソードマスター】を強制適応します〉
 〈インストールを開始します〉
 〈1、2、3…………99、100% 完了〉

 〈スキル【火属性魔法】強制起動──成功〉
    〈【水属性魔法】強制起動──成功〉
    〈【雷属性魔法】強制起動──成功〉
    〈【風属性魔法】強制起動──成功〉
    〈【土属性魔法】強制起動──成功〉
    〈【光属性魔法】強制起動──成功〉
    〈【闇属性魔法】強制起動──成功〉
    〈【星魔法】  強制起動──失敗〉
    〈【時空魔法】 強制起動──失敗〉
    〈【召喚魔法】 強制起動──失敗〉
    〈【精霊魔法】 強制起動──失敗〉
    〈【詠唱省略】 強制起動──失敗〉
    〈【詠唱簡略化】強制起動──成功〉
    〈【自動照準】 強制起動──成功〉

 〈これらのスキルを強制統合します──完了〉
 〈ジョブスキル【上位魔導師アークウィザード】を生成しました〉
 〈ジョブスキル【上位魔導師アークウィザード】を強制適応します〉
 〈インストールを開始します〉
 〈1、2、3…………99、100% 完了〉


「うわわわ……今の何だ!?」

 頭の中を物凄い大量の情報が流れていったぞ。
 だけど……何故か剣の使い方が分かるぞ。
 それに何だか魔法が使える気がする。

「キャーーーー! ユウターー!!」

 リリルの悲鳴だ。
 俺は自然と左手を前に出し魔法を使ったんだ。

「燃えろ! ファイヤアロー!!」

 だ、ダセー!! 名前がダサイ!!
 咄嗟に浮かんだ名前がとにかくダサかったけど、左手の掌から無数の火矢が狼の村に向かって飛んでいった。
 放たれた火矢に射抜かれて、狼達は火ダルマになっている。

「うわ……スッゴイ。ユウタって魔法も使えたのね」
「俺も初めて使ったんだけどね」
「初めてであの威力の火属性魔法!? あり得なくない!?」

 燃えて死んでいく狼と、それを見て一目散に逃げていく狼達。
 出来れば命は奪いたくないし戦いたくなかったのに……なぜ今回は【完全なる懐柔パーフェクトフレンズ】が使えなかったのだろう。
 スキルさえ使えていれば、モンスターといえど無駄に殺さなくても良かったのに。

「あの狼達はアレを守ってたのね」

 リリルが指差す方にRPGゲームなんかによくある宝箱があった。
 なるほど……【完全なパーフェクトる座標ロケーション】上の黄色い点は宝箱か……早速開けてみるとするか。

「罠とかないよな!?」
「こんな浅い階層ではないとは思うけど……多分」

 〈スキル【罠感知】をAUTOに設定します〉

 また、例の文字と声だ。

「スキル【罠感知】だってさ」
「何それ」
「とにかく安全ってこと」

 宝箱を開けると宝石と金貨などが入っていた。

「おお……!」
「さすが生まれたてのダンジョン。財宝は手付かずね」
「これ誰が置いたんだ?」
「さあ?これも世界の意思ってやつじゃない?」
「貰っていいの?」
「当たり前じゃない。でも全部は持ち運べないかな~。この先にもあるかもだし……」
「持ち運んで入れ替えていくって手もあるけど……もしかしたら……」

 〈スキル【四次元的なアレアイテムポケット】を使用します〉

 また例の声……俺の思考に反応してるな。
 それよりもアイテムボックスの名前はそれで良いのか?

四次元的なアレアイテムポケットに仕舞えるみたいだな」
「え!?ユウタってアイテムボックス持ちなの!?本当にアンタ何者?」

 宝箱の中身を四次元的なアレアイテムポケットにしまいながら、リリルの質問は笑って適当に誤魔化した。
 何故なら俺は何者でもないからだ。
 神様の手違いで死んで、神様のミスで転生できなかったただの人間……アレ? やっぱ全部あのジジイのせいだわ。


 俺は少し寂しさを感じながらもダンジョンを奥へと進んだ。
 そして地下25階まで色々なモンスターを倒し、宝箱を回収しながら、大した苦労もなくたどり着いてしまった。


「ここ最深部だわ……」
「何で分かるんだよ?」
「ホラ、扉のここ見て」

 そう言ってリリルが飛んで行ったバカでかい扉の中央に、何か紋章のようなものが刻まれている。

「この紋章がこのダンジョンの守護者の種族を表しているの。この紋章なら天狼族……おそらくフェンリルね。道理で道中、狼系のモンスターが多いハズだわ」
「フェンリル!? そんなん勝てるワケないですやん」
「そうかな~!? ここまで一切苦戦しなかったじゃない!? 私こんなに強い人間見たの初めてよ?」
「いや~それほどでも……」

 冗談はさておきフェンリルか……ファンタジーだねぇ。
 余り詳しくはないけど、確か北欧神話の巨大な狼だよな? 
 神話に出てくるフェンリルとは別物だとしても、同じ名前を冠してダンジョンの守護をしてるんだから、弱いわけはないよな……一番初めのボスキャラにしては格が高すぎる気がするが。
 でも、なんでそんなに強い狼がダンジョンマスターにならずに守護者なんてやってるんだろ?

「そんなん私に聞かれても分からないわよ。世界の意思ってやつじゃない!? 私も気付いたら、この生まれたてのダンジョンにいたからね」

 リリルの話だと、ダンジョンが生まれると世界の意思とやらに守護者や道中のモンスターが選ばれて配置されるそうだ。
 気付いたらダンジョンにいたらしいけど、自分が生まれたてのダンジョンに召喚されたなど全てを理解していたらしい。

「だから大抵の守護者は永い間守護させられてイラついている奴が多いって聞くわ。ワザと負けたり出来ないみたいだし、そもそもが最深部まで辿り着く奴が少ないしね」
「なら、出来たてホヤホヤのこのダンジョンの守護者ならそんなにイラついてないのかな」

 それにしても、世界の意思か……あの神様とは違うのかな?
 どちらにしてもフェンリルを、早くその責務から解放してあげた方がいいだろう。



 最深部の守護者のいる部屋へと繋がる扉にそっと手を触れる。
 次の瞬間、大きな音を立てて扉は勝手に開き出した。

「いくぞ」

 さあ攻略だ!!
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