2 / 75
第一章 ダンジョンマスター・ユウタ
第一章1 〈リリル〉
しおりを挟む引き寄せられるように、小さな山の空洞へと歩く俺。
中を覗き込んでみると、ほぼ何も見えない……真っ暗闇だ。
でも、何故か歩みを止める気には不思議とならなかった。
中に一歩足を踏み入れると、洞窟の中が急に明るくなった。
ちょうど松明や焚火などで照らされてオレンジ色に明るくなったと想像してもらえばいい。
「なにこれ……何で明るくなったんだ?」
明るくなった洞窟をよく見ると奥に地下へと続く階段が見える。
「遺跡……なのかな……。もしかしてダンジョンだったりして……ファンタジー世界なわけだし」
引き返そうかとも考えたが、怖い物見たさに先に進む事にした。
チート能力も少なからずあるしね。
地下へと続く階段を一歩また一歩と下りていく。
どれくらい階段を歩いたのだろう……いい加減代わり映えもしない風景に飽き飽きしてきた頃、階段を下り切った。
その時急に、空間に直接響くように声が聞こえたんだ。
『冒険者よ……聞こえますか……?』
ん?冒険者じゃねーし。
『そこの並々ならぬ気配を漂わせた君の事ですよ』
キョロキョロと辺りを見回す。他には誰も居ないようだが……。
『……わざとですか? まあいいでしょう。聞いているものとして話を進めます』
やっぱり俺に話しかけてんのか?
『このダンジョンは生まれたばかりでマスターが不在です。見事ダンジョンを踏破し、このダンジョンのマスターコアである私の所まで辿り着けたのなら、貴方にこのダンジョンのマスターになれる権利が発生します』
イマイチ意味がわからん。
『初めて踏破した者がダンジョンマスターになるのは、この世界の常識のはずなのですが……』
「あ……俺この世界の人間じゃないんだよね」
『……理解しかねます』
「そのままの意味なんだけど…!?」
『とにかく! 貴方だろうがそうじゃなかろうが、初めてこのダンジョンを踏破した者が、このダンジョンの支配者になれるのです』
「なるほどね~。でもダンジョンの支配者って悪者っぽくね!?」
『ならば経営や運営をする者ではどうでしょう?』
……運営……経営者……だと……!?
ブラック企業に勤めて早半年……何度も辞めたいと思いました。
だが辞める隙さえ与えられなかった社蓄の俺が経営者に……!?
「……やる……挑戦する!」
『ならば無事踏破して私の所へ……そこで質問にも答えましょう』
「待ってな……チート能力全開で向かったらぁ」
マスターコアからの念話? が途切れた後、俺はダンジョンの奥へと向かって歩き出した。
そういや、神様がモンスターとかいる世界って言ってたけど、平原では見てない気がするなぁ……この洞窟はダンジョン言ってるくらいだかららモンスターはいるんだろうか!?
そんな事を考えながら奥へと進んでいると、何かがこっちに向かって飛んで来た。
よく見てみると、ロールプレイングゲームなんかによくいるピクシーみたいな女の子のモンスターだ。
慌てて神様に貰った剣を抜こうと手を掛けた瞬間、頭の中に、急に文字が浮かび上がり誰かの声が響いた。
〈スキル【完全なる懐柔】を使用しますか?〉
〉はい
いいえ
俺は突然の出来事にパニくってしまい、はいと返事してしまった。
すると、俺とピクシーの目が合ったと思った瞬間、一瞬だけ目の前が光ったんだ。
眩しさに驚いて目を逸らしてしまっていたが、改めてピクシーを見てみると、何だか顔つきが変わっている……今にも襲いかかってきそうだったのに、優しく可愛くなってる気がする。
〈スキル【異文化交流】をAUTOに設定します〉
と、さっきと同じに頭の中で流れた。
その途端、
「ご主人様、よろしくお願いします。リリルと申します」
「ふぁ!? 言葉が分かる! それにご主人様って……」
「なんか御主人様見てたら心のイライラしてた何かが綺麗になくなっちゃった。これからついていくからよろしくです」
「お……おう……。何だかよく分からんが仲間になったってことだな!? こちらこそよろしく。俺は竹原裕太……ユウタって呼んでくれ」
「分かりました。ユウタ様……私の事はリリルとお呼びください」
初めて遭遇したモンスターが仲間になったけど、やっぱりあの頭の中に浮かんだスキルとかが関係してるんだろうな……ジジイ……グッジョブ!
そこからはピクシーのリリルと一緒に行動する事になった。
「ユウタ様は冒険者なのですか?」
「うーん……それがよく分からんのだよねぇ」
リリルの問いの答えに困ってしまう。
なぜなら俺はこの世界かは分からないが転生するはずだったからだ。
それをあのジジイのミスで転移させられた挙句、大した説明もないまま放り出されてるんだよな。
やっぱり一度町なり村なりに行って情報を集めるべき何だろうか……でもさっきのマスターコアとかいう奴が質問に答える言ってくれたから、先ずは奴に会いに行く事を優先しよう。
「一応、冒険者ではないと思う。全く戦えないわけではないと思うんだけど……今の目標はこのダンジョンの踏破です!」
「踏破!? ユウタ様は冒険者じゃないとの事なので説明させていただきます。……このダンジョンは生まれたばかりだからダンジョンマスターが不在なんですけど、通常人間がダンジョンマスターになる事はありえません。……歴史上でもいないんじゃないでしょうか……」
「……そうなんだ」
「そうですよ。大体が魔族か龍族がダンジョンマスターですよ。……で自分の住みやすい環境にダンジョンを改造するんです」
頭の周りをパタパタと飛びながら話すリリルに、肩に乗りなと合図すると、リリルはとても嬉しそうに肩に乗ってくれた。
「魔族や竜族か……ファンタジーだけどあまり会いたくはないな……」
「魔族や竜族といってもピンキリですけどね。その中の上位種族の上位個体がなることが多いと思います」
「へえ……」
こりゃ踏破は無理かもな~。
まあ、無理なら無理で適当に金になりそうな物見つけて町とかに行くって手もありだな……何せ俺は一文無しだからな!
そうこうしているうちに、突き当たりにぶち当たったり、そこにまた下へと続く階段があった。
そこをリリルと下りていく。
ふむ……地下二階か……。
「なぁリリル……ダンジョンてこんなに平和な物なの? モンスターもリリルしか出てきて無いけど……」
「私をモンスターと呼ばないで下さい。人間は自分達以外をモンスターと一括りにしますけど、私たち妖精族は精霊様に仕える神聖な存在ですのよ!?」
それにしては、凄い顔付きで出てきたけどな……。
「それはさておき、通常のダンジョンでこんな事はまず有り得ません。ダンジョンマスターの性格に寄るところが大きいですが、大抵はもっと罠やらモンスターやらが張り巡らされていますわ」
「え?て事は今はチャンスって事?」
「他の冒険者も来ていないみたいですし、これ以上ない大チャンス中ですわ。マスターがいないダンジョンは他に比べれば攻略しやすいはずです。と言ってももう少し深い階層に行けば、もっと敵がいるとは思いますが……」
「……なるほど……でもモンスターはリリルみたいに仲間に出来るっぽいし大丈夫だろ」
「そんなに上手くいけばいいですけど……」
地下二階を進む間、リリルにダンジョンの簡単な説明を受けた。
要点をまとめると、
・初踏破者がダンジョンマスターになる。
・ダンジョンマスターは、そのダンジョンを自分好みに改造出来る。なのでダンジョンの特性、モンスターの配置などはマスターの性格によるところが大きい。
・世界中のダンジョンは種族問わずに、その存在・場所を把握されている。
・だが稀に何故かその存在を隠す事に成功しているダンジョンがある。
・新たにダンジョンが生まれた場合も例外なく存在と場所を認知される。
・ダンジョンマスターは本人が死亡するか、誰かに譲渡しない限り変更はしない。
という仕組みらしい。
「なるほどねぇ……他の種族が攻略しに来る前に踏破しなくちゃなのか」
だが何となくだが仕組みが分かってきたぞ。
だからあのマスターコアも支配者だの経営者だの言っていたんだな。
冷静になって考えてみると、ダンジョンマスターになった時の旨味は半端ないんじゃないのか!?
あの曲がりなりにも神様のジジイにチート能力貰った俺ならば、何とかならんだろうか……。
そして何事もないまま、地下三階へ続く階段にたどり着いた。
「……こんな簡単でいいのか?」
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる