120 / 151
祖母の晩年 7〜祖母と私達〜
しおりを挟む
祖母には父の他に子どもはいない。
祖父の生前に父の弟妹で私の叔父叔母にあたる子ども達を授かったものの、戦後の栄養事情と僻地の医療事情の劣悪さがたたり、乳児の時に亡くしている。祖父共々、風邪をこじらせての肺炎だったそうだ。
思えば私の産前産後、「冷やすな」「もっと着ろ」「赤ん坊に着せろ」とそれはそれはうるさかったのだが、気持ちだけはわかるような気がする。
若い頃から人一倍以上の苦労をした祖母は、生活の心配がなくなってからも服すら滅多に服を新調しなかった。私が敬老の日などに何かあげても、繕いながら同じ物を何十年も着続けた。
何か趣味かあるわけでも美味しいものをあれこれ食べ歩くわけでもなく、散財するといえば年に一度の老人会の旅行か孫に小遣いをくれる時くらいだった。生きた時代が時代なだけに、毎日が必死過ぎてちょっとした楽しみや贅沢を覚える暇がなかったのだろう。
そうして身体が動かなくなるぎりぎりまで働いてこつこつお金を貯め続け、私達の大学入学やら成人やら結婚出産といったお祝い事のたびにびっくりするような額をぽんとくれたりした。
「お婆ちゃんの稼いだお金なのに、いいのかな?」
私がそう聞くと母は
「気が変わらないうちにもらっておきなさい」
なんて澄ましていた。
自分ならきっとそんな生き方もしないしそんなお金の使い方もしない。
子どもに手がかからなくなって祖母にケアが必要になった時に、何かの形で返せればいいかな、と思っていたのだが結局もらいっぱなしになってしまった。
祖母の生きていたうちに、もっとできたことがあったのかもしれない。例えばカウンセリングの勉強を少しずつでも続けていたら、祖母の心に届き平穏を与えられる言葉が何か一つでも見つかったのだろうか?
畑中君のように宗教の範疇まで探したら、あるいは……?
祖父の生前に父の弟妹で私の叔父叔母にあたる子ども達を授かったものの、戦後の栄養事情と僻地の医療事情の劣悪さがたたり、乳児の時に亡くしている。祖父共々、風邪をこじらせての肺炎だったそうだ。
思えば私の産前産後、「冷やすな」「もっと着ろ」「赤ん坊に着せろ」とそれはそれはうるさかったのだが、気持ちだけはわかるような気がする。
若い頃から人一倍以上の苦労をした祖母は、生活の心配がなくなってからも服すら滅多に服を新調しなかった。私が敬老の日などに何かあげても、繕いながら同じ物を何十年も着続けた。
何か趣味かあるわけでも美味しいものをあれこれ食べ歩くわけでもなく、散財するといえば年に一度の老人会の旅行か孫に小遣いをくれる時くらいだった。生きた時代が時代なだけに、毎日が必死過ぎてちょっとした楽しみや贅沢を覚える暇がなかったのだろう。
そうして身体が動かなくなるぎりぎりまで働いてこつこつお金を貯め続け、私達の大学入学やら成人やら結婚出産といったお祝い事のたびにびっくりするような額をぽんとくれたりした。
「お婆ちゃんの稼いだお金なのに、いいのかな?」
私がそう聞くと母は
「気が変わらないうちにもらっておきなさい」
なんて澄ましていた。
自分ならきっとそんな生き方もしないしそんなお金の使い方もしない。
子どもに手がかからなくなって祖母にケアが必要になった時に、何かの形で返せればいいかな、と思っていたのだが結局もらいっぱなしになってしまった。
祖母の生きていたうちに、もっとできたことがあったのかもしれない。例えばカウンセリングの勉強を少しずつでも続けていたら、祖母の心に届き平穏を与えられる言葉が何か一つでも見つかったのだろうか?
畑中君のように宗教の範疇まで探したら、あるいは……?
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
夜食屋ふくろう
森園ことり
ライト文芸
森のはずれで喫茶店『梟(ふくろう)』を営む双子の紅と祭。祖父のお店を受け継いだものの、立地が悪くて潰れかけている。そこで二人は、深夜にお客の家に赴いて夜食を作る『夜食屋ふくろう』をはじめることにした。眠れずに夜食を注文したお客たちの身の上話に耳を傾けながら、おいしい夜食を作る双子たち。また、紅は一年前に姿を消した幼なじみの昴流の身を案じていた……。
(※この作品はエブリスタにも投稿しています)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
青春リフレクション
羽月咲羅
青春
16歳までしか生きられない――。
命の期限がある一条蒼月は未来も希望もなく、生きることを諦め、死ぬことを受け入れるしかできずにいた。
そんなある日、一人の少女に出会う。
彼女はいつも当たり前のように側にいて、次第に蒼月の心にも変化が現れる。
でも、その出会いは偶然じゃなく、必然だった…!?
胸きゅんありの切ない恋愛作品、の予定です!
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる