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ゴシップネタは見出しが九割
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玄英は出張中で、リアルタイムで連絡を取れる時間帯が限られている。D社の誰かに様子を聞いてみるしかない。
「古賀さんなら詳しいだろうけど、さすがに今は社長代理だから忙しいだろうし……」
仕事でよくやり取りしてたのはアンジェラだが、彼女も新支社設立の準備のための出張中で、玄英と韓国で合流するという。そういやルーツがコリアだって言ってたような。
「あとは……そうだ。ジェシカって確か、広報担当だったよな」
俺は人の来なそうな資料室にこもり、彼女に電話してみた。記事の事はD社でも把握しているが、静観する方針だという。
「確かに見出しはセンセーショナルだけど、スキャンダルやバッシングってほどの記事じゃない。ありきたりなレポートとパーティセレブ達の定番の噂の焼き直し。ありがちな暇ネタね」
「そうなんだ」
「記事を書いたメディアもそれほど知名度や信用度のあるところじゃないし。会社に実害は無いと思うーーコウセイは気分がよくないだろうけど」
「いや、俺の事はいいんだけどーーネットだと炎上するんじゃない?」
「そうだね。二人とも有名人だし、見出しと画像が一人歩きしたりするかもしれない。アウティングの問題もあるね。ボス本人の対応をどうするのか意思確認だけでもしておきたいんだけど」
ふと、嫌な予感がした。
あのザ・抜け目なくイヤな男、ユーラの主催したパーティである。客の中に勝手にこんな事をした連中がいたとしたら決して黙っているわけがない。
彼奴があらかじめ仕込んだ誰かにこの記事を敢えて書かせたとしたらーー当てつけか嫌がらせか、あるいは既成事実ぽく外堀を埋め合わせるために?
あのダンスが停戦合意だと思ってたのにーー何となく不穏な予感がする。油断も隙もない、食えない男だ。
「玄英は記事の事知ってるのかな?」
「報告は行ってるはず。本人が先に直接目にしたかもしれないんだけど、その事で特に指示はないね」
「そうなんだ?」
「コウセイ。大変かもしれないけど、ボスのパートナーでいるならこれからもこういった事は避けられない。少しずつ慣れないと」
「わかってるよ」
「ボスと連絡が取れたら、どうしたいか聞いてみて」
と、ジェシカに頼まれて電話を終えた。
そんな事だけでも十分頭痛いのに、課に戻ろうとしていたら今度はまた別方面で面倒臭い人から電話がかかってくる。
「おっ、まだこの番号生きてたんだな。真面目になって立派にやっとるそうじゃないか」
「一体何世紀前の話してんスか。今や普通の善良サラリーマンですって。アンタの給料になる税金だって納めてるし……」
「感心感心。ガハハハ……」
俺の暗黒歴史ヤンキー時代の全盛期、ちょくちょくこの人に説諭されては家に帰されたーー地元の某警察署生活安全課少年係だった小川巡査長(当時)だ。
「小川さんこそ、とっくに定年退職して悠々自適だと思ってましたよ」
「勝手に年寄り扱いすんな。こちとら、お前の母ちゃんとは同級生なんだよ」
その当時ですら珍しいくらいの強面の熱血警官だったが、そんな事情もあってか特に俺の事は気にかけてくれてた気がする。
何だかんだで(清さんのお陰もあり)俺の軌道修正を無事見届けてから異動になってそれっきりだ。
何年か前、近くに来たついでに実家に顔を出したとかいう話は聞いたが。
「ひょっとして、母が何か?」
俺を祖父ちゃんに預けっぱなしにしてからも恋愛脳が抜けず、昭和のラブコメ主人公気取りのイタい所業を繰り返してきたトンデモ実母だが、最近ようやく落ち着いてきたようだ。もはや孤独死だけしないでくれたらいいやと達観している俺だが、警察沙汰も勘弁だなあ……
「古賀さんなら詳しいだろうけど、さすがに今は社長代理だから忙しいだろうし……」
仕事でよくやり取りしてたのはアンジェラだが、彼女も新支社設立の準備のための出張中で、玄英と韓国で合流するという。そういやルーツがコリアだって言ってたような。
「あとは……そうだ。ジェシカって確か、広報担当だったよな」
俺は人の来なそうな資料室にこもり、彼女に電話してみた。記事の事はD社でも把握しているが、静観する方針だという。
「確かに見出しはセンセーショナルだけど、スキャンダルやバッシングってほどの記事じゃない。ありきたりなレポートとパーティセレブ達の定番の噂の焼き直し。ありがちな暇ネタね」
「そうなんだ」
「記事を書いたメディアもそれほど知名度や信用度のあるところじゃないし。会社に実害は無いと思うーーコウセイは気分がよくないだろうけど」
「いや、俺の事はいいんだけどーーネットだと炎上するんじゃない?」
「そうだね。二人とも有名人だし、見出しと画像が一人歩きしたりするかもしれない。アウティングの問題もあるね。ボス本人の対応をどうするのか意思確認だけでもしておきたいんだけど」
ふと、嫌な予感がした。
あのザ・抜け目なくイヤな男、ユーラの主催したパーティである。客の中に勝手にこんな事をした連中がいたとしたら決して黙っているわけがない。
彼奴があらかじめ仕込んだ誰かにこの記事を敢えて書かせたとしたらーー当てつけか嫌がらせか、あるいは既成事実ぽく外堀を埋め合わせるために?
あのダンスが停戦合意だと思ってたのにーー何となく不穏な予感がする。油断も隙もない、食えない男だ。
「玄英は記事の事知ってるのかな?」
「報告は行ってるはず。本人が先に直接目にしたかもしれないんだけど、その事で特に指示はないね」
「そうなんだ?」
「コウセイ。大変かもしれないけど、ボスのパートナーでいるならこれからもこういった事は避けられない。少しずつ慣れないと」
「わかってるよ」
「ボスと連絡が取れたら、どうしたいか聞いてみて」
と、ジェシカに頼まれて電話を終えた。
そんな事だけでも十分頭痛いのに、課に戻ろうとしていたら今度はまた別方面で面倒臭い人から電話がかかってくる。
「おっ、まだこの番号生きてたんだな。真面目になって立派にやっとるそうじゃないか」
「一体何世紀前の話してんスか。今や普通の善良サラリーマンですって。アンタの給料になる税金だって納めてるし……」
「感心感心。ガハハハ……」
俺の暗黒歴史ヤンキー時代の全盛期、ちょくちょくこの人に説諭されては家に帰されたーー地元の某警察署生活安全課少年係だった小川巡査長(当時)だ。
「小川さんこそ、とっくに定年退職して悠々自適だと思ってましたよ」
「勝手に年寄り扱いすんな。こちとら、お前の母ちゃんとは同級生なんだよ」
その当時ですら珍しいくらいの強面の熱血警官だったが、そんな事情もあってか特に俺の事は気にかけてくれてた気がする。
何だかんだで(清さんのお陰もあり)俺の軌道修正を無事見届けてから異動になってそれっきりだ。
何年か前、近くに来たついでに実家に顔を出したとかいう話は聞いたが。
「ひょっとして、母が何か?」
俺を祖父ちゃんに預けっぱなしにしてからも恋愛脳が抜けず、昭和のラブコメ主人公気取りのイタい所業を繰り返してきたトンデモ実母だが、最近ようやく落ち着いてきたようだ。もはや孤独死だけしないでくれたらいいやと達観している俺だが、警察沙汰も勘弁だなあ……
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