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目指せ、恋人達のクリスマス
しおりを挟む船上の夢と社会見学と悪夢の一夜から、勤労シンデレラ青年は地上の日常に戻りーーつっても俺にとっては、玄英とつき合ってる事自体が未だに非日常の連続だがーーいよいよ年末が近づいてお互い仕事も忙しくなり、ロクに会えないまま年の瀬を迎えようとしていた。
そういや、日本じゃクリスマス=恋人達のイベントデーだけど、玄英どうすんのかな?
キリスト教圏の人々にとっては日本人の正月くらい特別な日で、家族で過ごす人が多いって聞いたけど。
で、聞いてみたら世界各地で暮らす遠山家(全員経営者)恒例のクリスマス休暇は、シンガポール集合でその後、南アジアのどっかのリゾート地に移動してゆっくり過ごすのだと言うーースケール違うぅ!
「恒星も一緒に来るよね?」
画面の向こうで玄英が微笑んだ。年末年始に海外旅行なんて、生まれて初めてだわ!
これまでは仕事の次に盆暮の行事に命を掛けるガチ昭和人の祖父ちゃんや清さんと一緒に実家で年を越すのが当たり前でーーあ、ヤンチャ時代に悪友が企てたニューイヤーイベントで中抜けしてコッテリ搾られた事もあったっけ(懐)
12月の青木造園は地味に繁忙期だ。
植木の菰囲いなど庭の冬越しを終えると、商店や宿泊施設に飾る門松作りの注文をこなす。年内一杯は猫の手も借りたい忙しさなので、俺も貴重な休日返上で駆り出される。
年さえ明けてしまえば、「松の内は刃物を扱わない」というしきたりがあるとかで長い正月休みが待っている。
俺が子どもの頃は、休みの間も祖父ちゃん達は安全祈願だの年始回りだので正月から結構忙しくしていた。今はご多分に漏れず高齢化で、昔馴染みが商売を畳んだり祖父ちゃん自身が歳をとったりで、だいぶ簡略化しているようだ。
祖父ちゃんに今年は旅行したいと連絡したら、案の定あれこれボヤかれたが、クリスマス前ギリギリまでは頑張るという事で渋々納得してもらった。
正月は清さんもダイもいるし、寂しくはないだろう。土産奮発しなくちゃな。
というわけで、人生初の南国リゾート冬休み取得のために俺は目下、昭和の猛烈リーマン並みに24時間戦っている。
『おい、見たか?』
平日の昼間、会社での本業の方をやっつけていると、堀田から何やら英語のネットニュースの記事を添付した社内メールが届いた。どうやら芸能人か何かのゴシップ記事らしいが……営業、ヒマかよ!
『何コレ?』
写真を拡大してみて、目が点になった。トラウマレベルで見覚えのありすぎる光景が、別アングルの写真としておそらく見開きのページ一面に再現されている。
タキシード姿で踊るユーラと玄英ーー画角度や画質からすると許可を得て正式に撮られたものではないようだが、モデルの完成度がそれを補ってグラビアのような完成度だ。当然ながら記事は全て英語。
「船上の豪華な一夜ーーSNS王チャンとグリーンビジネスの若き旗手トオヤマ。秘密の恋人かーー?」
見出しだけをどうにか拾い読みで読んだ。
「恋人じゃねえわ!」
俺は思わず叫び、課内の視線が一瞬俺に集まった。課長と補佐はそれぞれ別の会議で席を外していたため怒られずに済んだが。
『驚くよなぁ。俺はユーラ・チャンをリスペクトしてるんだが、まさか遠山社長と……』
『堀田、人を見る目無いのな。あんなロクでなし!』
『何だよ、ユーラの知り合いじゃあるまいし。ネットの噂を真に受けるアンチか』
『定形文であおってくんな』
ユーラのせいで、何で悪友とまでケンカしなきゃならんのだ。
『ま、ガセだろうがな。遠山社長だって一度は結婚してたんだし、男とつき合うとかねえわな』
……それについてはノーコメントだ。
『ユーラはブッ飛んだ天才で成功者、色々叩かれるもんだ。そこいくと遠山社長は好感度の塊みたいな人だ。どっちかが女なら、バランスの取れた世紀のカップルだったかもしれん。惜しいな』
『惜しくねえよ。仕事しろバカ堀田』
そんな事より。
確かあのパーティは招待者だけのクローズな集まりで、どこからの取材も受け入れていないーーそう聞いていたのに。向こうのパパラッチってどこにでも潜り込んでいるんだな。
俺はゾッとした。
玄英、この記事読んだかな。本社のあるアメリカで何か困った事になってるんじゃーー
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