上 下
89 / 144

二人の再チャレンジ

しおりを挟む
「だからさ。無理に俺に合わせなくたっていいんだよ。お互い一人暮らし長いし、できてしまったライフスタイルの差も無理に埋めなくていいと思う。しばらくはこのまま、お互いの時間が合う時に会ったり、一緒に出掛けたりして楽しく……」

「でもそれじゃ、いつまで経っても一緒に暮らせないし、結婚もできなくない?」

「ああ……それもそうか。まあ、あんただって本社と掛け持ちで何気に長期出張が多かったりするじゃん。俺は別居婚とか週末婚でも別に」

「僕が嫌なの!」

 玄英が、まるで駄々をこねる子どものように首を左右に振った。

「恒星と暮らしたいの!家に帰ってきたら恒星に『お帰り』って言ってもらいたいし、朝起きたら隣にいてもらいたいし、グリーンティー淹れてあげて『行ってらっしゃい』って仕事に送り出したい。そのためにならいくらでも努力する!恒星。僕に家事を教えてくれ!」

 そして珍しくスポ根的なガッツを見せたーー誰この超絶イケメン。惚れるだろ。

「指でツッて障子のさんなぞって、『こんなトコにまだホコリが』って罵ってくれてもいいし、『この役立たずが』って言いながら蔵に吊るして折檻してくれてもいい」

 モチベーションの理由!

「結局そういうプレイなのかよっ!そもそもここん、障子も蔵も無いだろ」

 ツッコミどころ とは

 そもそもこの人、こんなネタどこで拾ってくるんだろう……?謎。

「家事を覚えたいのは本気だってば。その代わり、僕も君に今度こそ真面目に英語を教える」

「おお……」

 そう言えばそういう話もあったが諸事情(ええっと……)で長続きせず、俺の独学も挫折しかけている。

「それはいいな。俺もありがたい」

「二人で頑張ろうね。きっと両方叶うよ」

 玄英の揺るぎなく未来を信じているような笑みに、俺はハッとした。

 往年の名画「ラストエンペラー」の終盤、宮殿で何一つ不自由なく暮らしていた元皇帝が思想矯正所に送られ、粗末な監獄で惨めな思いをする……同居の話が出るたび、俺はそのシーンを思い出していた。
 玄英が同居のために生活レベルを俺に合わせるということは、そういう事に思えて気が進まなかった。映画の元皇帝は全くできなかった身の回りの事を一つ一つ覚え、庶民として平穏に暮らすラストが待っている。だが、この人にはずっとD社の社長でいてもらわなきゃならないし。

 が、適応力ならこの人、おそらく愛新覚羅溥儀以上にありそうだし、何と言っても好奇心と向上心の塊だ。趣味感覚で楽しみながら家事を覚えてもらったら、カクテルや茶みたいにハマるジャンルが見つかるかもしれない。空き家バンクで物件探してDIYしたら、綺麗さと広さだけは確保できるし自宅パーティだって続けられるかもしれないし……

 とは言え道はかなり遠そうだけどな。ま、根気よくやるか。

「わかった。二人で頑張ろう。よろしくな」

「じゃ、さっそく今からこの家では日本語使用禁止ね?でも恒星の啖呵は聞きたいから、プレイの時だけは例外」

「……はああぁっ?」

 あれ?何だかデジャヴが……

「ノー。スピーク イングリッシュ」

 玄英は真顔でそう言い放つと俺の両頬を挟み、満面の笑みを見せた(クッソ可愛い)ーーこいつ、絶対めちゃくちゃドSの気あるだろ!

「Tell me how to wash,my knight。OK?」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

【BL】僕(18歳)、イケメン吸血鬼に飼い慣らされる。

猫足02
BL
地下室に閉じ込められていた吸血鬼の封印が解け、王族は絶体絶命。このままでは国も危ないため、王は交換条件を持ちかけた。 「願いをひとつなんでも聞こう。それでこの城と国を見逃してはくれないか」 「よかろう。では王よ、お前の子供をひとり、私の嫁に寄越せ」 「……!」 姉が吸血鬼のもとにやられてしまう、と絶望したのも束の間。  指名されたのは、なんと弟の僕で……!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...