赤いトラロープ〜たぶん、きっと運命の

ようさん

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現実の探偵はディアストーカーハットも被ってないし、キック力増強シューズも履いてない。バーにいることはあるかもしれない。

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「古賀さんって遠山社長の元カレですか?」

 今度は古賀さんが「ぐぇほっ」と盛大にラテに咽せる番だった。

「は、はい?何でそうなります?」

 目を白黒させて咳き込みながら、ハンカチで口元を押さえているーー高級ハンカチはどの道今日、こういう運命にあったらしい。

「え、違うんですか?俺みたいなのにわざわざ、個人的な話をしに来たって事はてっきり……」

「そういう目でお互いを見た事は無いですね。長年の友人で仕事上のパートナーですから、大切な人には違いないですが」

 ありゃ。

 これで絶対絶命の泥沼三角関係にでもなりそうだったら潔く(?)奴をつけてお返ししてスタコラサッサと身を引く腹づもり満々だったのに。俺の恋愛センサーは絶望的に感度がズレているようなのだが(体感的に斜め30度くらい)今日またそれを実証してしまった。

「創業者自ら日本支社長兼任で乗り込んでの今回の事業展開ですから、我々も社運を懸けています」

「うちもそうです。今回の契約は大変光栄だと……」

「本来、ボスのプライベートには立ち入らない主義です。が、この局面となると流石に話は別です」

 古賀さんは俺の言葉を遮ってそう言うと、ビジネスバッグからおもむろにA4サイズの分厚い封筒を取り出してテーブルの上に置いた。表に「調査報告書」と書かれている。

「これは何ですか?」

「大変失礼ながら、青葉さんについて独断で調査させていただきました」

 中からは興信所が作成したらしい書類の束とここ数日来の俺の写真が何十枚と出て来たーー遠山と飯食ったりマンションに泊まったりした日のもある。
 ミステリーもののドラマではよく見るシチュエーションだが、まさか自分が尾行や隠し撮りの対象になるなんて想像したこともなかった。
 知り合いーー特に会社の人間には見つからないように気を配っていたつもりだが、見知らぬ他人につけられている事には全然気づいてなかった。怖いとか気持ち悪いとも思ったが、それ以上に怒りが湧いた。

「何故わざわざこんな事をしたんですか?俺の事で知りたい事があれば直接、聞きに来てくれたらいいでしょう」

「それについては謝ります」

 古賀さんは素直に立ち上がって深々と頭を下げた。ノリノリの洋楽BGMのお陰で互いの席の会話は聞き取れないものの流石にこれは周囲の目を引いた。

「やめてください。そういう事して欲しいわけじゃないんです」

 俺も慌てて立ち上がり、古賀さんをどうにか着席させた。

「青葉さんのおっしゃる通りです。ですからこうして会いに来ました」

「……」

「中には一般人を装ったスパイや危険人物がプライベートでボスに近づいて来る場合もありますので。私の関心はその点がクリーンであるかどうかだけです。その資料は処分してください」

「わかりました。渡されて嬉しいもんでもないですけどね」

 興信所ってどこまで調べるもんなの?実家とか元カノの事とか?元ヤン時代の黒歴史まで書かれてたら死にたくなる……中見る勇気もないから、実家の庭にある廃焼却炉でこっそり焼こうっと。

「で、俺に聞きたい事って何なんですか?」

 まあだいたい察しはつくけど。

「体面が悪いからもう会うなとか、担当外れて接点持つなとかそんな感じですか」

 古賀さんはきょとんとして、

「はい?いや全然、お好きにどうぞ。元々、ボスのプライベートには踏み込まない主義です」

 と答えた。何なんだよこの人。

「ただ会社の業績に直結するとなると、幹部の一人としてまるきり放置もできません。うちの社はご存知の通り、遠山玄英の才能と個性で八割方っている会社です。しかも彼はーー本人は絶対認めたがりませんがーー私生活での、特に恋愛面での好不調が仕事のパフォーマンスに大変影響するタイプでして」

「はあ」

 俺に一体何をしろと?
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