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各々方、Xデーで御座る。

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「失礼ながら青葉さん、元々は異性愛者ですよね。うちの遠山とはどういうつもりでおつき合いを?」

「勝手に人の事根掘り葉掘り調べといて、失礼も何も無いと思うんですが」

 イラっとして思わず心に浮かんだままをポロッと口にしてしまった。

「『慇懃無礼』いう四文字熟語ご存知です?社長のことがよほどご心配なんでしょうが、昼ドラに出てくる姑さんみたいです」

 これでも本契約目前の取引先の幹部だと思って言葉を抑えた方だ。そうじゃなければド正論の啖呵でひとくさりキレ散らかしてる。

「お気に障ったなら申し訳ありません。昼ドラ、ですか?あいにく、そちらのジャンルについては不勉強なもので……」

「いや、もういいですよ。遠山社長とは別に恋人同士ってわけでもないし」

「じゃあ遊びなんですか!」

 結構な爆弾ぶっ込んで来た割にイラつくほど感情表現に乏しかった古賀さんが、ここに来て突然、一筆書きのような細目を見開き突然声を振るわせた。マジで一瞬、ビビりそうになった。

「そ、そういうわけでもなくて。とりあえず修行期間で様子見中というか……」

「修行?」

 一気に形勢逆転。裁判中の検事よろしく鋭い目つきでツッコんでくる古賀さんに、しどろもどろの俺。

「ええと、じゃなかった、ですね。おつき合い前のお試し期間みたいな」

「……『お友達から始めましょう』的なことでしょうか?」

「そ、そんなところです」

「なるほど」

 いや、本当に「修行期間中」なんだ。奴の「ご主人様」としての……けど、そんなディープな話したら余計にややこしくなりそうだしなあ。

 あの後、結局遠山に……玄英に「お互い独り身で現在交際相手もいないことだし、何でも試してみないとわからないじゃない」と理屈で説得されたり
泣き落とされたりしてーーどうも俺は奴の泣き顔に弱いようだーー結局何度か奴の部屋に行っている。

 古賀さんに「どうぞ前向きにご検討ください」と深々と頭を下げられ(案件?)飲み物代も「経費で出ますから」と奢られてしまった。
「できれば末永くよろしくお願いします」とつけ加えて去った彼の背中に、「忠臣蔵」のテーマソングが一瞬流れたような気さえした。

 
 さらに数日後。「ガルテン松山」に「Xデー」が訪れた。

「D’s Theory」と晴れて業務提携が決まり、遠山玄英が正式契約と広報イベントのために古賀さんを伴って弊社を訪れた。
 その数日前から(主に女子社員中心に)社内はまるで七年に一度の奇祭前のような、歓喜とプラス方向の殺気(?)が充満していた。非公式ファンクラブまでできているとか何とか……

 しかも全課において当日、全く急ぎではない他社との打ち合わせが組まれていたりして……担当外の業務にまであれこれ口は出せないが、八割方遠山目当ての野次馬だろう。

 全く業務に関係ない事で万が一にでも混乱が起きたり本人に失礼があったりしては困るので、内川補佐以下ベテラン+モブ扱いのフツメン(俺とか堀田まとか)男子社員有志でにわか警備班が結成された。

 彼の来社時間については社のトップと担当課である俺の部署の部内秘扱いになっていたはずなのだが、何故かひっそりとリークされて共有されていたーー二次元にしか興味なさそうな女子社員を内輪のSNSに潜らせて判明したーーので、それらしき理由をつけて直前変更した。

 って、これなんて言う半沢地面師系企業サスペンスだよ。リスク管理とかセキュリティとかコンプラうんちゃら以前の問題だろ、これ。身内で余計な仕事増やしてんじゃねえわ。

 だが、幅広い年齢層の女子社員たちが浮き足立ってしまう気持ちはよくわかる。安定はしているものの主に専門業者相手の地味目の業界で、社員の平均年齢と既婚率高めの中小企業に突如現れた、見目麗しきマルチリンガルの天才研究者で紳士的なヤングセレブーー最近の恋愛ドラマでもちょっとお目にかからないような、ハーレクインばりの由緒正しき非日常だ。

 そしてモブ社員の一人である俺はもっとデカい爆弾を密かに抱え持っているーー


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