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⭐︎密室の二人2
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「いやあのっ……やっぱり、後で自分でなんとかしますのでっ……すっ、すみません……!」
「おいまさか、下まで縛ってあんのか」
ほぼ臨戦体勢のそれを見た恒星は軽蔑しきった態度を隠そうともしない。辛すぎて背中に電流が走る。
恒星は長いため息をつくと、顎で視線の先を指した。
「脱げ」
「……はい?」
「聞こえなかったのか。脱いでそれ出せよ」
「っでも……」
「そんな格好でうちの社内を歩かせられるかってんだよ。流石に通報されっぞ。俺が元凶だって知れたら女子社員全員に半殺しにされるわ。今期のボーナスだってかかってるし……」
「……」
「おい、聞いてんのか」
最大限に同様した後で歯切れ良くテンポのいい彼の声を聞いているうちに呼吸が覚束なく朦朧となってくる。
「また泣いてんのかよ。くそ。俺が泣かせてるみてえじゃねえか」
恒星は毒づきながらもちょっと狼狽えた。
「仕方がねえ。悪く思うなよ。俺だって他人のなんて見たくもねえが」
恒星はそう吐き捨てると口にハサミをくわえて勢いよくしゃがみ、玄英のベルトを外し始めた。腹を括った男前の、いい面構えだ。
「い、いいんですか……」「今さら何恥じらってんだよ、馬鹿」
ほとほとあきれきった口調でそう言いながら、恒星が玄英のスラックスと下着を同時に、少し乱暴に降ろした。
「やっ……」
必死に抑えていた矯正が漏れた。
「おい、なんて声出して……」
身も蓋もない場所が縛られている様に、さすがの恒星も絶句した。が、あまりに常識の範囲外の出来事に出会うと、人というのはかえって冷静になるのかもしれない。
「……お中元の焼き豚みてぇ……」
恒星がそれを凝視したまま口の中でぼそりと呟いたのが聞こえた。顔に八割方集まっていた熱と血液がさらに脳まで駆け上る。
「!……ちょっと!……」
「ああ悪い。俺がしたんだよな……痛えだろ」
「こうなってしまうと……さすがに。自分が調子に乗り過ぎたせいなんですが、どうしていいか……」
「触ってもいいか」
「ど、どうぞ……って、か、え?や、そこまでしてくださるんですか?」
「馬鹿か、ヘンタイ野郎。支えてねえと切りづれぇんだよ」
「……」
玄英は一瞬、微かに身震いした。万一手元が狂ったらどれだけの惨劇になるか……恒星もそれを想像してしまったのかもしれない。
「ヘラヘラしてんなよ。別なモン切り落とすぞ」
狂い続けるパーソナルスペースの、息がかかりそうな場所に恒星の厳しい表情がある。冷ややかな怒りを湛えた瞳、対象物をとらえた硬い手のひらの熱、冷たい金属が触れ、微かにぞわりと動くーー
「……あっ……!すっ、すみません……」
短く叫んではっと気がつくと、絶叫して秒でドアを蹴り開けた恒星が、噴水のように水飛沫を辺りに飛ばしながら手洗い場で顔を洗っていた。
「クソっ!クソっ!ふざけんのも大概にしろよ!あんたが大事な取引先じゃなかったら、ソレごとミンチにしてやるのに!」
嗚咽に近い怒号が飛ぶ。逆上して刺されなかったのが奇跡なほどの激昂ぶりだ。
「ああっ……あのすいません……どうしようっ……あの本当に……わざとじゃ……」
我に返った玄英は必死で謝ったが余計、彼の怒りを沸点まで加速させてしまう。
「泣いてんじゃねえっつってんだよ!泣きたいのはこっちだっての!」
「慰めにならないかもしれないけど……昨夜は君、自分のと二人分だったから、それよりもっと凄い状態に……」
「うるさいうるさいうるさい!今それ以上一言でも何か喋ったら殺す!」
「おいまさか、下まで縛ってあんのか」
ほぼ臨戦体勢のそれを見た恒星は軽蔑しきった態度を隠そうともしない。辛すぎて背中に電流が走る。
恒星は長いため息をつくと、顎で視線の先を指した。
「脱げ」
「……はい?」
「聞こえなかったのか。脱いでそれ出せよ」
「っでも……」
「そんな格好でうちの社内を歩かせられるかってんだよ。流石に通報されっぞ。俺が元凶だって知れたら女子社員全員に半殺しにされるわ。今期のボーナスだってかかってるし……」
「……」
「おい、聞いてんのか」
最大限に同様した後で歯切れ良くテンポのいい彼の声を聞いているうちに呼吸が覚束なく朦朧となってくる。
「また泣いてんのかよ。くそ。俺が泣かせてるみてえじゃねえか」
恒星は毒づきながらもちょっと狼狽えた。
「仕方がねえ。悪く思うなよ。俺だって他人のなんて見たくもねえが」
恒星はそう吐き捨てると口にハサミをくわえて勢いよくしゃがみ、玄英のベルトを外し始めた。腹を括った男前の、いい面構えだ。
「い、いいんですか……」「今さら何恥じらってんだよ、馬鹿」
ほとほとあきれきった口調でそう言いながら、恒星が玄英のスラックスと下着を同時に、少し乱暴に降ろした。
「やっ……」
必死に抑えていた矯正が漏れた。
「おい、なんて声出して……」
身も蓋もない場所が縛られている様に、さすがの恒星も絶句した。が、あまりに常識の範囲外の出来事に出会うと、人というのはかえって冷静になるのかもしれない。
「……お中元の焼き豚みてぇ……」
恒星がそれを凝視したまま口の中でぼそりと呟いたのが聞こえた。顔に八割方集まっていた熱と血液がさらに脳まで駆け上る。
「!……ちょっと!……」
「ああ悪い。俺がしたんだよな……痛えだろ」
「こうなってしまうと……さすがに。自分が調子に乗り過ぎたせいなんですが、どうしていいか……」
「触ってもいいか」
「ど、どうぞ……って、か、え?や、そこまでしてくださるんですか?」
「馬鹿か、ヘンタイ野郎。支えてねえと切りづれぇんだよ」
「……」
玄英は一瞬、微かに身震いした。万一手元が狂ったらどれだけの惨劇になるか……恒星もそれを想像してしまったのかもしれない。
「ヘラヘラしてんなよ。別なモン切り落とすぞ」
狂い続けるパーソナルスペースの、息がかかりそうな場所に恒星の厳しい表情がある。冷ややかな怒りを湛えた瞳、対象物をとらえた硬い手のひらの熱、冷たい金属が触れ、微かにぞわりと動くーー
「……あっ……!すっ、すみません……」
短く叫んではっと気がつくと、絶叫して秒でドアを蹴り開けた恒星が、噴水のように水飛沫を辺りに飛ばしながら手洗い場で顔を洗っていた。
「クソっ!クソっ!ふざけんのも大概にしろよ!あんたが大事な取引先じゃなかったら、ソレごとミンチにしてやるのに!」
嗚咽に近い怒号が飛ぶ。逆上して刺されなかったのが奇跡なほどの激昂ぶりだ。
「ああっ……あのすいません……どうしようっ……あの本当に……わざとじゃ……」
我に返った玄英は必死で謝ったが余計、彼の怒りを沸点まで加速させてしまう。
「泣いてんじゃねえっつってんだよ!泣きたいのはこっちだっての!」
「慰めにならないかもしれないけど……昨夜は君、自分のと二人分だったから、それよりもっと凄い状態に……」
「うるさいうるさいうるさい!今それ以上一言でも何か喋ったら殺す!」
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