深見小夜子のいかがお過ごしですか?

花柳 都子

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神様の思し召し

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 さて、今日は〇月〇日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。今日はですね、いただいたメールをご紹介したいと思います。
「深見小夜子さん、こんばんは」こんばんは。「いつも楽しくラジオ拝聴しています」ありがとうございます。「実は最近経験した出来事で、ぜひ深見さんに聴いていただきたいことがあります」うん、何でしょう。「烏滸がましいかもしれませんが、先にご理解いただきたいのは、このメールで誰かや何かを批判したいとか、腹いせの当てつけだとか、そういう意図は全くないありません。ただ、自分の運命を、この行き場のない無力感を、吐き出す場所がないというだけなのです。聞いてくれる友達も、慰めてくれる家族も、私にはいません。きっと深見さんならわかってくれる。私の気持ちそのものが、というよりも、私がこう思うに至るまでの心の動きが、深見さんにならわかってもらえると思うのです」あなたが、真面目で優しい方なのは、今の時点でとてもわかりますよ。私にメールをくれて、どうもありがとう。それでは本題にいきましょう。「私は趣味で小説を書いているのですが、実力を試したく、勇気を出して先日、大賞に応募しました」おお、いいですね。「閲覧数は一向に増えず、一週間に一度あるかないかくらい、目に見えて『読んでくれてる人がいる』とわかる程度です。ですから、きっとだめなんだろうなと思っていました。ところが、結果発表の一週間前のことです。それまでの閲覧数は人数に換算すると1桁だったのが、急に2桁・・・といっても微々たるものですが、それでもこのタイミングで急にこんなに? と思ったのです。それまではランキングから見ても、偶然目に留まるような位置にはおりませんでしたから、探してわざわざ読んでくれていたということですよね。それならば、これは全員でなくとも、ある程度は審査員の方の閲覧だったのではないかと考えるのは自然なことだと思うのですが、いかがでしょう。そうでなければ私が、『大賞』という肩書きに囚われすぎているだけなのかもしれません。審査員の方の閲覧は数字に反映されないシステムと言われれば、そちらも等しく頷ける理屈でもあります。ともかく、結果発表一週間前の私は、その閲覧数を見てもまだ楽観的でした。これまでの数字で見た評価からして、選考に残っているはずがないと思っていましたから。けれど、ひとたび審査員の方の存在に気がつくと、居ても立っても居られなくなりました。仕事は手につかず、ずっと上の空。『大賞』とはいかなくとも、いいところまでいけるのかもなんて期待もしました。その反面、私が? 私の作品が? という半信半疑の状態でもありました。選ばれたらどうしよう、いや選ばれているはずがない。期待しすぎるとそうでなかった時に落胆が大きいぞと自分に言い聞かせながら、それでもやっぱり期待のほうが大きかったのでしょう。蓋を開けてみたら、『大賞』どころか最終選考にも残ってはいませんでした。いいんです、わかっていたことです。私の実力が足りなかったということです。そんなのずっとずっと前からわかっていました。けれど、じゃああの一週間前の閲覧数増加は一体何だったのでしょう。読んでくれている人がいるんだ、とそれだけで一喜一憂していた私に、図らずも舞い降りた神様からのプレゼントだと思っていたのに、ただただ上げて落とされただけでした。こんなことなら最初からなくて良かったのに・・・と思うのは、読んでくださった方に失礼なのはわかっています。ですから、前置きしたように誰かを批判したいとか、誰かのせいにしたいとか、そういうことではなくて、神様の思し召しを受け止めきれない自分に腹が立つというだけの話なのです。このどうしようもないやり場のない説明しようのない気持ちを、どこかに誰かに聞いて欲しくて、でも、そんな人は私にはいなくて。私が私の存在に押しつぶされそうな時、このラジオにメールを送ることを思いつきました。ご迷惑かもしれませんが、目を通していただけたなら、それだけで嬉しいです。お返事が欲しいとか、慰めて欲しいとか、そんな贅沢なことは申しません。むしろたくさんのメールに埋もれて見ていただけなかったとしても、それもまた神様の思し召しなのでしょう。私は物語を書くことが好きです。これからもこの呪縛から逃れられないと思います。いつか、どんな形でも、私が納得いく結果が出るまで私なりの物語を書き続けることでしょう。その結果がたとえ、限界に到達したからもうやめようと認識することだったとしてもです。これから暑くなってきますが、お身体を大切に、これからも深見さんの小説とラジオを楽しみにしています。お付き合いいただき、ありがとうございました」
 こちらこそ、メールをくださってありがとうございます。わかりますよ、あなたの気持ち。作家たるもの、やっぱり誰かに認めてもらえてこそ輝けるものですからね。確かに、閲覧数という形でしか物事を判断する基準がありませんから、数字の動きには敏感になってしまいますよね。いっそのこと、知らないほうが幸せだったというのもまた真理です。けれど、知らなければ知らないで「もしかしたら」が選考中、一ヶ月どころか送ってから結果が出る半年ほどずっと期待し続けることになりますから、それはそれで苦しいのかもしれません。結局のところ、私たちは神様の手のひらの上で踊っているだけに過ぎないのかもしれませんね。
 こんな時、物語の書き手の一人として、そんな甘い世界ではないと言うのが正しいのでしょうね。それでも、あなたには諦めない意志がある。それがいつか花開くことを信じて、あなたはあなたの道を進めば良いと思います。あなたは聞いてくれる人がいないと言いましたが、逆に言うとそれはあなた自身にこれからも書く自由があるということでもあります。それはとても幸せなことだと思いますよ。数字に囚われすぎるのは良くないですが、数字に対して嬉しいとか悔しいとか、そういう感情を持てるのも人間らしい心の動きです。そうやってあなたは人としても、書き手の一人としても、強くなっていくのです。作家の中には、デビュー作が初の応募作という天才もいます。けれど、多くの人はいろんな経験を積んで、いろんな感情を乗り越えて、ようやく手に入れた居場所だという人のほうが割合としては多いでしょう。あなたがおいくつかわかりませんが、作家というのは目指すのにもなるのにも、年齢制限のない素敵な職業です。結果に落胆しても書き続ける意欲がある限り、決して無理なことも無駄なこともないと思います。たとえ作家にはなれなくても、あなたがそれまで積み上げた経験値のほんの1ポイントでも糧になっていってくれるはずです。神様は確かに意地悪ですが、嘆いているだけでは何も始まりません。一歩を踏み出し続ける勇気をどうか見失わないでください。結果に左右されないあなた自身の物語をこれからも紡ぎ続けてください。
 さて、ここで私からも一つご報告があります。実は今日でこのラジオは最終回となります。なんのことはありません。私がおかげさまで忙しくなりそうなことが最大の要因です。このラジオは私の大きな糧となってこれからも私の中に存在し続けるでしょう。このラジオを通して、皆さんと繋がれたこと誇りに思っています。いつかまた、こんな私に機会をいただけるのでしたら、どんな形であれ皆さんにお会いできる日が来ることを願っています。
 最後になりますが、このラジオを一度でも聴いてくださった皆様、本当にありがとうございました。毎回、今日はどんなことを話そうかなと考えるだけで充実した日々でした。私はこれからも皆さんの幸せを遠くから祈っています。忘れないでください。あなたにもきっと誰かがそばにいてくれますよ。誰かが必ず見ていてくれますよ。今は視界に入らなくても、あなたに認識できていなくても、きっとあなたの存在を認めてくれている人がどこかにいます。何より、あなたがあなたを見つめてあげてください。これからもずっと。そうすれば、神様の思し召しが、同時に明るい未来へと繋がりますから。それでは、またいつかどこかでお会いしましょう。深見小夜子でした。



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2023.04.08 ユーザー名の登録がありません

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