eyes to me~私を見て

ペコリーヌ☆パフェ

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それぞれの恋の焔①

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美名と翔大が別荘に戻ったのは6時前だったが、まだ皆は起きてきて居ない様だ。


美名が何となくホッとしていたら、翔大が髪にそっと触れて満足そうに眺めている。



「綺麗だよ……美名」


バスの窓に映る自分は、髪に黄色い可憐な花が飾られている。


「……あ、ありがとう」


「いや……一緒に来てくれて、俺こそありがとう」


何とも言えない間が流れ、美名はそれを断ち切る様に背を向け別荘に向かって歩き出そうとしたが、不意に後ろから腕をグイと掴まれた。



振り返ると、熱い瞳が美名を見つめてくる。



「……」
「……」


二人は暫し、無言でお互いを見た。




「ぶあ――っ!
よく寝た――!静かだから爆睡したぜ――!
あ――っ禁煙生活の成果か身体が軽いぜ!」


別荘の一階の窓がガラリと開き、真理が大声で叫んだ。


美名は慌てて翔大から離れた。



真理が目を細めてこちらを睨む様に見るが、一旦部屋の中へ引っ込むと今度は眼鏡をしてひょっこり出てきた。







真理は眼鏡を指で持ちこちらを見ると指差してきた。


「なんだ!お前らかよ!びっくりさせんな!
不審者かと思ったぜ!よく見えねえんだから、お前らならそう言えよな――!」





「……近眼?」



「何だかよく分からない理屈だな」



美名と翔大が見合わせると、真理が手招きをして叫んだ。



「丁度良かった!おいお前!ちょっと来い!」



「私?」


美名が自分を指差すと、真理は大きく頷いた。



「呼んでるみたいだな。
行ってきなよ。
俺は、その辺ランニングしてくるから」


翔大は色っぽく流し目を送り、走っていった。


美名は、思わず大きな溜め息を吐いた。



「おいっ!」


真理が呼んでいる。
美名は駆けて行った。





起きぬけの真理は、寝癖で頭が爆発していて、精悍な顔に似合わず、着ているパジャマは大人気のキャラクター
"バニッぴー"の柄だ。


欠伸を噛み殺しながら、頭を掻くと、



「まず何処を探せばいいんだ?」



とぶっきらぼうに聞いてきた。


あっ!

そうだった。
昨夜から真理は心配してくれていたのだ。



「見付かったよ」



イヤリングを出して見せると、真理は心からの安堵の表情になる。



「あ――そうか、そりゃ良かった!」



「心配してくれて、ありがとう……」


「いや、べ、別に心配してねえよ!
あのまんま見付からずに暗~いじめ~っとした顔でいじいじされたら迷惑だからな!
うん!良かった良かった!」


また赤くなり一気に捲し立てる真理に、美名は思わず笑った。




「な、何笑うんだよ」


「笑ってないよ?」


とぼけてみせるが、やっぱりまた笑いが込み上げてしまう。


「お、おい!
俺の顔に何かついてるのか! 何がおかしい――!」


「う――ん、何がって言われても……もう全部可笑しいよ――!アハハハ」



「お、おまっ」



その時、ランニングから戻ってきた翔大がこちらをチラリと見て、美名はギクリと一瞬固まった。


翔大はすぐに玄関へ入っていくが、美名は思わず溜め息をまた吐いてしまう。



「なあ、お前さ」


真理が真顔になる。


「えっ?」



「翔大とどういう仲なのさ」


「うっ」



「どう見てもただ事じゃ無い関係に見えるぞ」



「……そ、そう見える?」

「おう!」


美名は冷や汗をかいた。





「翔大はどー見てもお前に気があるよな」


ギクリとし、美名は目を逸らす。


「さっきも腕掴まれてたろ」


「えっ」


美名は驚いて真理を見上げる。


(私が困っていると思って、わざと声を掛けてくれたの……?)


真理は苦虫を噛み潰した様な顔をした。


「だからバンドに女が入るのは嫌だったんだよ……」


「そ、それを言われても」


「いいか、バンドが解散する原因てのはな~
売れない、仲違い、女!
大体そんなもんなんだよ。
お前、気を付けろよな。翔大は一途だから心配なんだよ。
思わせ振りにすんなよ!」


「わ、私だって困ってるんだから!
私が好きなのは綾波さんなのに!」


少しムッとして言い返すと、真理は眉を上げた。



「あ~、あいつね。
ブッチューしてたマネージャーか」


美名は真っ赤になった。





「う……う、うん」


(よく考えたらあの時、皆の前で抱き付いたりキスしたり、とんでもない事をしていた……)

美名は今頃恥ずかしくなって、顔を上げられない。



「おいおい……今更かよ」


真理が呆れている。



「だって……真理君にも見られた……」



「あほか。後からそんなに恥ずかしくなるなら最初からやるなっつーの」



美名が顔を上げると、真理まで赤くなっている。


「な、何赤くなってるの?」


「んっ?……バッ!赤くなってねーよ!
そ、そうだ!日に焼けたんだよ!日焼けだ!やっぱり男は黒くねーとな!ハハハ!」



「真理君、その位で丁度良くない?」



美名は、つい彼のパジャマの胸元を掴みしげしげと眺めてしまった。



浅黒くて太い首に一瞬見とれる。


(口は悪いけどスタイルいいし、モテるんだろうな……)


等と考えていたら、真理は奇妙な叫び声を上げて美名から逃げるように離れた。





「な、何?どうしたの」


真理はゆでダコみたいな色になって、パジャマの前を合わせて怯えている。


「どーしたの?じゃねえよ!寝起きの男のパジャマを捲るとか、お前は痴女か!」



「あ、ごめん」



「あ――もう!
お前、本当に気を付けろよな!そんな隙だらけじゃ合宿中に翔大に犯されるぞ!」



「――!」



翔大に昨日迫られた時の事が甦ると、頬が熱くなる。



「その反応は……なんかあったな?」


「ち、違うよ……」



「ふん。彼氏が大事ならせいぜい自分の身を守れよ……まあ、彼氏も今頃何をしてるかわかったもんじゃないがな」



真理は指で耳の穴を掻いた。


「ど、どういう意味よ」




「女にやたらそういうキザな物を与える男ってのはな、大抵タラシだぜ?」


真理の言葉に、美名は思わず耳のイヤリングに触れた。


「綾波さんの事、知らない癖に変な事言わないでよ!」



「じゃあ、奴がどんなかお前はさぞかし分かってるんだろうなあ?」



美名はギクリとした。


(そういえば、綾波さんの事を、私は何も知らない。

私を初めて抱いた時に呟いたあの名前の事も、まだ分からないまま。


そしてこの間の電話の向こうから聞こえた女の人の声……)



真理は黙った美名をからかう様な目で覗き込む。



「なんだあ?答えられないのか?」



忘れようとしていたのに、記憶を無理に掘り返された様な気がして無性に腹が立って来て、美名は拳を握り締めていた。

手の甲に涙がぽつりと落ちる。





「お、おい……そんなに泣く事ないだろ」


真理は、泣き顔を見てギョッとしている。



「も……うバカ!
真理君なんかキライ!」



美名は震える声で捨て台詞を吐き、中庭まで走ると、洗濯物の籠を持った桃子と鉢合わせた。



「お姉ちゃん?どしたの?」


「も、桃子~」



美名は桃子にしがみついてわんわん泣いた。



「どうしたの~?はいはい泣かない泣かない」


桃子は、ポンポンと美名の頭を叩いた。



追いかけて来た真理が二人を見付けると陰に隠れ、頭を掻いて溜め息を吐く。



「何をやってんだ俺は……」






その様子を、二階の窓から翔大が見ていた事を誰も知らなかった。





――――――










「さあ~、今日の練習は終了~!」


スタジオで志村は、上機嫌で鐘をカランコロン鳴らした。



「いちいちうるせーよオッさん!」


真理が耳を押さえ睨む。


「あらあ、いいじゃない!分かりやすくて?
明日の朝も皆の部屋の前で鳴らして起こしてあげようかしら」



「冗談じゃねーよ」



志村はニンマリ笑い、真理の頬を両手で挟み込む。



「聴覚の目覚ましがおきに召さないなら、触覚はどう?
熱いキッスで起こしてア・ゲ・ル☆」



「ひ、ひいい――っ」




二人が騒ぐ中、由清が箱を手にしておずおずと何かを言っているが聞こえない。



「なあに?」


美名が聞き返すと、由清はマイクを使って話し始めた。


「あ、あ―。
マイクテストオッケー。
皆さん、クジを引いて下さ~い」





正方形の箱には丸い穴が空いている。


「なあに?これ」

桃子が寄ってきた。

「クジだよ」

「それは分かるけど……作り方が雑!アンソニーったら、美的センスの欠片もないのね~」

「うっ……」


「まあ、いいや……で、なんのクジなの?」


「えーっとそれは」


由清の言葉に被せるように、真理を羽交い締めにした志村がドヤ顔で解説した。



「明日の夜!
胆試し&キャンプファイヤーをする事にしたの!
胆試しの役割を決めるに当たって、平等にクジ引きにしたのよ~」



「胆試し……」


美名は顔がひきつる。


「楽しみだな」


いつの間にか隣に翔大が立っていて、美名はビクリとした。


「う、うん……そうだね」

思わず、少しずつ距離を取ってしまうが、翔大がまた近付いて来て、後ろで手をギュッと握って来た。


「……っ」


心臓がバクバクして、隣を見れない。




「記念すべき第一回目の合宿の最後を締める楽しいイベントにしましょうね~!さあ、皆引いて!」


「第一回目って、またやる気かよ」


「勿論よ!次は冬に出来たらいいわね~!
雪合戦とか、闇鍋大会とか?あ、でもその前に秋があるわよね……
紅葉の中ピクニック大会とか、焼き芋大会もいいわね――!」



「幼稚園の年間行事かよ……」



「こんな生意気な幼稚園児、居ないわよっ!ホホホ!」



志村が真理のお尻をバシーンと叩く。


「い、いてえ――っ」



「私、引いていい?」


「どうぞどうぞ」


桃子が楽しそうにガサゴソと紙を探る。


「うーんと、これ!」


桃子は取った紙を由清に渡す。


「……桃子ちゃんは……お化け役」


「マジで――!やったあ――!」


桃子は飛び上がってはしゃいだ。





「お化けの衣装作らなきゃ――!ウフフ……
古典的な日本の怪談風にするか、ゾンビ風にしようかなあ――ひーっひっひ」


桃子はアイデアが浮かんだらしく、手帳に何かを書き留めている。



その様子を見た翔大が笑った。


「フフフ……桃子ちゃん、楽しそうだね」


美名は、握られた手を振り払っていいのだろうか……と迷う。


「うん……あの子、ああ見えて男の人が苦手なの。ていうか、自分を出すのが上手じゃないのよ。
最初何かでつまづくと、もう後は全然ダメなの……
デザインの学校に行ってるけど、友達関係で色々あってね。
私も普段話があまり出来ないし、心配してるんだけど……
あの子はあの子で、いつも私を心配してるの」



「優しい子だね。
美名の心配て、何を?」



「男に騙されて泣いてないか、とかね……ふふ」



「今まで、そんなに悪い奴にばかり引っ掛かってたの?」


「……うん、そうかもね」


「……俺の事も、そう思ってる?」



翔大の声色が少し変わり、美名の手を強く握った。




思わず翔大を見上げると、少し潤んだ目で見つめられていた。


「……ど、どうかな……忘れちゃったよ」


「それは嘘だろ」


「!」


「この間、泣いて昔の事を怒ったじゃないか」


「う……そ、それは」


翔大の目に熱が籠る。


「美名は、ずっと俺を忘れてなかったって事だよな?」


「しょうく……」



「お姉ちゃ――ん!翔大さん!クジ引いて――!」



桃子に呼ばれて我に反り、美名は手を振り払って皆の所へ逃げるように駆けていった。



「皆、もう引いたんだね」


「私はお化け!アンソニーもお化け!志村さんは音響担当!真理は小道具係!」


桃子がウキウキしていて、美名まで嬉しくなった。


「さて、私は何かな……て、先に引いていいの?」


翔大を振り返る。


「じゃあ、一緒に引く?」


翔大は美名の手を掴み、箱の中へと手を入れた。
瞬間またギュッと握り締めてきて、ズクンと胸が疼く。





小さな箱の中で、大きな熱を持った掌がの手を離すまいとして、美名は動かす事が出来ずに困惑してしまう。


「……っ」

美名は無言で翔大を見るが、彼は涼しい顔をしている。

こんなに燃える様な熱い手をしているのに……




「お二人さん~、そんなに迷わなくてもいいのに」


「そうそう!何になっても恨みっこなしよ!
てか全部楽しいわよ~」


「う、うん……そうだね」


桃子と志村に美名は曖昧に笑うが、真理がこちらを睨むように見ていてドキリとした。


「おい……翔大!いい加減にしろよ」


真理の鋭い言葉に翔大は一瞬真顔になったが、すぐに笑顔になる。



「悪い悪い。セクハラがばれたかっ」



おどけた調子で舌を出すと、美名の手をようやく離した。


翔大が先に紙を掴み手を引き抜き、美名も残り一枚になった紙を取り箱から手を出した。




まだ胸がドキドキしていた。

深呼吸して、落ち着く様に自分に暗示をかける。


「俺は音響」
「あっら~!
私と一緒ねえっ!うんと怖~い効果音を作りましょ☆」


志村は翔大の肩を抱いて、歩いていく。



美名はなんだかホッとした。



「て事は、お姉ちゃんは小道具だね」


桃子が美名の取った紙を開くと頷き、真理を軽く睨む。


「真理!お姉ちゃんを苛めないでよ!?
苛めたら、真理の食事に下剤盛るからねっ」


「苛めねーよ」


膨れた真理と目が合って、美名は気まずくて下を向いた。



「アンソニー、ミシン出来る?」
「たぶん」
「手縫いも出来る?」
「出来るよ」
「マジで~?助かる~!この別荘二階にミシン置いてあったよ。
何作ろっか~」


桃子も由清と行ってしまい、スタジオに真理と二人になってしまった。



ついさっき喧嘩みたいにしてしまった直後で、真理の顔を見れない。

練習の時は音に集中していたけどこうして二人きりは……


真理も無言でいたが、不意に気配を感じて顔を上げると、目の前に居て叫びそうになった。


力強い腕が強引に美名の手を掴む。



「な、なな何っ?」
「行くぞ」



美名の頭の中が疑問符で一杯になる。


真理は美名をを引き摺る様に玄関まで歩き、マイクロバスのキーを取った。


「ほら、靴履け」


ドカッと腰を下ろし、ブーツを履きながらぶっきらぼうに言うが、美名は状況がわからずぼうっとしていた。



「靴も履けないのかよ」


真理は舌打ちをし、美名を強引に座らせ足首を掴む。


「ひっ……」


それは乱暴な仕草で、スカートが太股まで捲れ上がってしまった。



「……!わり」



真理は真っ赤になって手を離すとそっぽを向いた。


「ほれ、早く履け!
先に乗ってるぞ!」


「う、うん」


気が動転しながら、美名は靴の紐を締めた。



運転席でハンドルを握る真理は様になっていた。

翔大も運転に慣れていたが、真理はすべての動きに無駄がなく、安心して乗っていられた。


「小道具か……
何を作るか……
結構難しいってか、厄介だよな……」



真理はブツブツ言っている。


「あ、あの……
さっきはありがとう」



「何の事さ」



「その……くじ引きの時」


「ああ……
別にお前を助けたんじゃねーよ。
あのまま進まなきゃ、皆に迷惑になるしな」



真理は信号で停車し、前を注視しながら平坦な口調で答える。




「それでも……ありがとう」


「……っ」



真理は前を向いたまま真っ赤になり、後ろからクラクションを鳴らされて、我にかえり発進させた。





「黙って出てきたけど大丈夫なの?」


「志村のオッサンが分かってるから大丈夫さ。
予算も貰ってる。これで素敵な小道具を作れってさ」


真理は白い封筒を出して見せた。



「お店とか、あるのかな」
「あと二十分も走れば商店街がある」

「詳しいね」

「親父の仕事を手伝って色んな所を走らされたからな~」


「お父さん、運転のお仕事なの?格好いい!」


「ははっ。只の頭の薄いオヤジだぜ?」


「真理君に似てる?」


「止めろよ~似てねーよっあの頭にだけは似たくない!」


「フフフ」


最初は、気まずいかと思われたが、終始和やかな雰囲気で車中を過ごす事が出来た。



二人は商店街で志村に頼まれた物と、小道具の材料を適当に仕入れてバスに乗り込む。



「もうすぐで暗くなっちゃうね……」


「今日と明日は胆試しとキャンプファイヤーの準備でぶっ潰すらしいぜ」


「えっ……れ、練習は?」


「”東京に帰ってから沢山やりましょ~、
今ここでしか出来ない事に集中するべきよ!人生は短いし花の命も儚いんだからっ"

だとさ」


真理は志村のモノマネをしてみせたのだが、そっくりで笑えた。



「なんか小腹が空いたな~」


「そういえばそうだね」




「あーっ!意識したら我慢出来なくなってきたぞ!何か食ってくか!」




真理はハンドルを切り、お土産屋さんが沢山ある通りの駐車場へ入った。



降りて歩くと、そこはジャガバターやら餅やら温泉饅頭やらお好み焼きやら、食欲をそそるお店ばかりだった。




「う――ん……
でも今がっつり食うと、夕飯が入らなくなるな――残すと桃子に殴られそうだし」


美名はクスリと笑った。


「真理君、優しいね」


「へ――!?な、何だよいきなり」


「残したら桃子気にするもんね?」



真理は頬をポリポリ掻いた。



「いや……あいつの飯、旨いし……せっかく作ったモンを無駄にするのもな」


「真理君、桃子と仲良くしてくれてありがとうね?」


「いや、べ別に仲良くねーよ!てかどこをどう見たら仲良く見えるんだ!?」


「桃子、junkの皆の雰囲気が好きみたいだね……
本当はすごくシャイなんだよ」



「そ、そうなんか」




美名はソフトクリーム屋に目を留めた。


「あ!食べたい!」

「あ――、アイス位が丁度いいかもな」



美名はストロベリーとメロンのミックス、真理はわさびを選んだ。



コーンの上に綺麗に渦を巻いたアイスを受け取り、思わずニンマリすると真理がクッと笑う。



「随分と幸せそうだな~只のアイスだろ」

「え……だって嬉しいんだもん!
真理君の、辛い?」


「いや、全然。そっちのも旨そうだな」


「はいどうぞ」


美名は何の気なしにスプーンでアイスを掬うと真理の口に運んだ。


「うっ?……むぐむぐ」


真理は目を丸くして、口を開けてアイスを味わうが、そっぽを向いてしまった。



「美味しい?」


真理は無言で何度も力一杯頷いていたが、耳が赤くなっている様に見えた。





二人はバスに向かう。


「今から帰るってメール入れておくね」


「ああ」


真理は素っ気なく言うとバスの扉を開けた。
美名が桃子にメールをして顔を上げると、彼と視線がぶつかる。


「送れた?なら、早く乗れよ」


そっぽを向いて運転席側へ行こうとする真理の腕を美名は引っ張った。



「真理君ったら、クリーム!」



振り返る顔の口元にそっと触れ、付いていたクリームを拭うと、視界が大きく揺れて胸に息苦しさを覚えた。




――目の前にあるのは太く浅黒い首。
汗の混じったサロメチールの匂いが鼻腔を突いた。



バスのステップで、美名は真理に抱き締められていた。


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