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第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です
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しおりを挟む「で? 誰が酷い男だって?」
一生懸命縋ったのに、同期で隣のデスクの竹本は、俺を大魔王の供物として差し出した。
おかげで俺はあっさり捕まり、新年会場の喧騒の中、三初によって部屋の端へ追いやられていたりする。
新年会が始まった時、俺を酔い潰してそれを面白おかしく眺めるのだと言っていた三初は、女性集団の中へ消えてしまった。
ツンと強がっていたのに、いないとだんだん寂しくなる。
それで恋しくなって姿を探していたことがバレると嫌で、俺は隠れたのに、この体たらく。
無理矢理引っ張り出して追い詰めるなんて、やっぱり酷いじゃねぇか。
バカ三初。嫌いだ。けど嘘だ。
「う、ぅぅ……」
畳の上にへたりこんだ俺は極限まで壁にへばりつき、壁にドンと両手をつく三初の影で小さくなって唸った。
「お、怒んな。……なんで怒る?」
「怒ってませんよ。目の離せない手のかかる駄犬だわって、思ってるだけですんで」
それを世間一般的に怒っているというと思うのだが、わかっていないのか。
相変わらずのうすら笑いだが、壁と三初の体で挟まれた俺には逃げ場がない。視界も三初一色だ。まるで俺が人から隠されている気分である。
「…………」
──それほど俺は、三初にとって、恥ずかしい恋人なのかもしれない。
自慢できないような恋人。
ヤケ酒をすると深く酔って醜態を晒すような恋人なんて、人に見せたくない。
そう思うとなんだか寂しい気がして、俺は三初の首に腕を回し、抱きついた。
「ん?」
「三初、三初」
「なに。そんなことしても許してやんねぇけど?」
「三初……三初……」
「なんですか」
俺はここにいるだろ、というアピールとしてぎゅうぎゅうと抱きつき懸命に名前を呼ぶと、三初の冷たい声が仄かに甘くなる。
「……みはじめ」
「ふ、なんですかって」
少し柔らかくなる声。やっと笑ってくれた。
気分が良くなって自分の頬を三初の頬に擦り寄せる。周囲のざわめきなんて聞こえていない。
そうするとようやく三初は俺の前に座り込み、俺を抱き寄せてくれた。
「あんたホント、もうこんなになるまで酒飲まないでくださいね。いい歳した大人が泥酔して単細胞化とか、笑うわ。普段セーブできてんでしょ? それどころじゃなかったの?」
「あぁ……だって、お前、いねぇから」
「くく、そう? 素直だね」
トン、トン、と背中をさすられて、クスクスと耳元で笑われる。
俺は真剣なのに、どうして笑うんだよ。
少し拗ねた気分になって、俺は「だってよ、だってよ」とごねた。
三初、俺を見てるって言ったじゃねぇか。どうして俺を置いて行ったんだよ。
だから俺は竹本と酒を飲んでいて、こうなっちまったんだぜ。バカ。女のところになんか行かねぇで、俺と一緒にいりゃあいいのに。俺は好きだ。三初、だいすき。
「帰る?」
「うん……」
「了解」
唇を耳たぶに添えて囁かれた言葉に頷くと、同時にグッと強く体を上に引かれて無理矢理立たせられる。新年会だというのに、勝手に帰っていいものか。
けれどその声にはもう冷たい温度はなく、いつも通りの三初だった。
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