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終章 本日のディナーは勇者さんです。

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 ──それからしばらく経ってみんなが集まり、ケーキ入刀式を開始。

 もちろん思いつきで始めたケーキ入刀式は大盛況だったとも。

 家族三人ナイフを持ってせーので切ったケーキは、みんなで分けて食べたのだ。

 ライゼンさんも、ユリスも、リューオも、ゼオも、キャットも、マルちゃんも、マルオたちも、黒人狼たちや竜人三人組、通りすがりのトルンや、訓練中の軍魔たちにまで。

 抱えるくらい大きいケーキも、一人分はほんの一口になってしまった。

 それでもみんなフォークを持ってこの一部屋に集まり、誰しもが笑っている。

 しかしその後。
 いただきますをした時のことだ。

 ベッドに腰掛ける俺をタローといっしょくたに抱き寄せ、アゼルはそっぽを向きながら俺にその一口を差し出した。

『ん』
『? いらないのか?』
『馬鹿野郎めっ。……これは食うと、絶対幸せでホコホコする。わかってるから、これをシャルにやる』
『っそ、むぐ』
『おぉ~っ、私もあげるっ』
『もがっ』

 驚いている隙の口にケーキを突っ込まれ、反応する前に真似をしたがったタローが追加を突っ込んだ。

 するとそれを見ていたマルちゃんが、にまーっと笑って、更に俺の口へ追加投入。

『むふぁ』
『ふふー! 俺っちのもあーげるっ』

 これがきっかけで、どうしたことか俺の前に並び始める魔王城のみんなは、みんながみんなフォークを差し出す。


『ふんふん? なーら当然俺もシャルにあーんをするぜ~。ほれ、イチゴは二個だもんよ』

『それじゃあ、私もシャルさんへ幸せをお贈りしたいですね』

『じゃ、俺のもやるわ。俺ァ人間国からテメェをおっかけてここに来たしなァ?』

『仕方ないね。僕のもあげるよ! まさか受け取らないなんて言わないでしょ?』

『! はい! 僭越ながら不肖の弟子である俺も、シャル様にあーんをさせていただきたいです!』

『あぁ……そういう流れか。なら俺も、普段吐かされてる糖分を味わわせて差し上げましょうかね。ほら早く。もっと大きく口を開けられるだろう?』

『キキキッ! マルオ、シャルニナマエ、モラッタ! マルオ、マルオニナッタ! アーン、シテモイイカ? ダメカ?』

『おおっとォ! 初対面でうっかりしたこの俺、アリオを忘れてくれちゃ困るんだぜ!』
『うっかりした俺、オルガもだぜ?』
『うっかりした俺、キリユもだぜっ』
『『『あーん!』』』


 怒涛のあーんの連続に俺の口元はクリーム塗れで、胃の中はケーキにより凄いことになってしまった。

 けれどそのたびにアゼルがクリームを舐め取り、タローが紅茶を笑顔で差し出す。

 どうしてだろうな。

 こうしてケーキ入刀式は俺への餌付け式に変わり、幕を閉じたのだが。

 夜になって帰ってきた日常の似非川の字になっていると、俺はなんだか今日を思って、泣きそうになってしまったんだ。

 本当に、どうしてだろう。

 俺の腕の中にはすーすーと寝息を立てる愛おしい娘がいて、俺を抱きしめる腕は愛おしい伴侶のもので。

 タローは俺の未来なのだ。
 アゼルは俺のこれまでの全てなのだ。

 だから、だろうか。

「シャル、シャル……どうした? なんで泣く……?」
「ん……?」

 スゥ、と目じりから零れた一筋の雫に真っ先に気がついたアゼルが、俺を抱く腕の力を強くした。

 言葉はそれだけでも、心配しているのがわかる。頭に擦りつくアゼルは、どこか痛いのか、なにかあったのか、とオロオロしているのだろう。

 アゼルはあまりに人らしい魔王だ。
 だからこそ、愛おしいと思う。

 俺はそんなアゼルが孤独から脱して、あんなにたくさんの仲間に囲まれていたことに、感動していたのかと思った。

 だけど違う。
 この涙は──俺の幸せ。

 俺は一粒以上流れない涙を瞬きで拭い、口元にゆるりと笑みを浮かべた。

 振り向くと、覗き込んでいたアゼルと目が合う。

 綺麗な瞳だ。アゼルのオニキスの瞳に夜の光が反射して、星の降る夜に見える。

 腰に回った手に自分のを触れさせて指を絡めると、アゼルは悲しいわけではないと理解し、仄かに目元を弛めた。



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