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九皿目 エゴイズム幸福論

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「大丈夫、わかっている。それじゃあどうにか、マイルドな言葉を考えようかな……」
「…………」

 見ず知らずの生き物である俺を追い出そうとしたのに笑いかけられ、アゼルは黙り込んでしまった。

 その隣に座るライゼンさんが、黙り込むアゼルに慌てて訴える。

「いけません、一番大事なものを排斥しないでくださいっ。──シャルさんは貴方様が唯一と決められた、貴方様のお妃様なのです……! 貴方様とシャルさんは、結婚なさったのです……」
「ら、ライゼンさん……」
「は……俺に、妃、……? こんなッ……、コレが……?」

 伝えるべきかどうか悩んだ事柄を、悩みなく真っ直ぐに伝えたライゼンさん。

 今のアゼルに俺という存在が受け入れられるのか、必要なのかわからなかったのに、彼はそれを一番大事なものと称する。

 魔王になった頃からアゼルを支え、アゼルの有益になる選択肢を選ぶ彼にそう決断されたのは、素直に嬉しかった。

 けれど思わず名前を呼んでしまう。
 俺を知らないアゼルの反応が、俺たちが辿り着いた関係を受け入れられるのかが、怖い。

 アゼルはライゼンさんの訴えにぎゅっと眉間にしわを寄せて、信じられないとばかりに俺を観察した。

 だが、ややあって不愉快そうに唸る。
 疑いの眼差し。自分が愛されて番っていることが信じられない、自分嫌い。

「…………俺が、記憶喪失だから、担いでんのか。コレは、男だ。それも他国の、他種族だ。こんな弱い生き物に、惹かれるわけがない。俺は魔王だ。魔王なんだよ。少し加減を狂わせただけで、簡単に死ぬ生き物。あり得ない。冗談だろ?」

 理解できないと目を伏せる。
 それに俺は苦笑いするしかない。

 まぁ、そうなるだろう。
 魔族は強さこそが魅力。魔王が選ぶ伴侶として、人間は論外なのだ。

「俺は弱いが、本当にお前とそういう関係だ。だからお前の記憶が戻るように、俺もできるだけサポートする」
「別に、どうでもイイ。十八年ぽっち、どうせ大したことは、ない。意味がない」

 苦笑する俺に、アゼルははっきりとそう言った。
 一人でなんとかすることが決定事項で、俺を頼る気は毛頭ないんだ。

「…………魔王様……お仕事はしばらく休んでください。予定は私がどうとでもします。まずは現状に落ち着いてから、城の痕跡を追って回復を試みましょう。このことはごく親しい者以外には内密にして、貴方様は休暇を」
「俺は仕事をやれる。休みなんて」
「いいえ、休んでください」

 しかし、長い時を生きる魔族にとっては大した時間ではないと捨て置こうとするアゼルに、ライゼンさんは慎重に、はっきりとそう言い聞かせた。

 そんなことを言われたことがなかったのか、アゼルは薄く唇を開いたまま、なにも答えずに俺たちをただ見ている。

 ライゼンさんは俺に重ねて謝った。

「その、天族は聖法という、聖力を使った魔法のようなものを使います。魔族は聖力が少しもなく、聖法が使えないので、聖導具を詳しく解析するには少し時間がかかります……」
「あぁ、大丈夫。焦ることはない、二人に怪我がなくてよかった」
「シャルさん……、あなたは弱い生き物ではない、とても強い、魔王様の宝物です」
「うん、ありがとう。……俺は大丈夫だ」


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