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後話 まだまだ、受難体質大河勝流
03
しおりを挟むリューオの目が頼むからがんばれ、と縋るような哀愁を漂わせているので、俺もどうしていいかわからないなりに頭をひねった。
だから修羅場のハウツー本を読んでおけばよかったというのに、俺のバカ。
「話がそれだけなら、お帰りはあちらだよ」
ユリスはスッ、と出入り口の扉を指差す。
ずっと笑顔のままのユリスに、俺は黙ってリューオに向かってバッテンを作った。難攻不落だ。
だが必死で首を横に振られる。
諦められないみたいだ。
しかし昨日の今日で一晩経ってもほとぼりが冷めていないので、持久戦では勝ち目もない。
俺はうぅん、と悩んでから、ジェスチャーでリューオに外へ出るように伝えた。
『俺が、どうにか、聞いてみるから、一旦出てくれ』
『神よ』
拝まれた。
リューオはすごすごと背中を丸めてチラチラと名残惜しくユリスを見ながらも、そっと部屋を出ていった。
うう……そのしょげ方、先に帰ってくれと言った時の俺の旦那さんを彷彿とさせるから、やめてくれ。
なんとかしてあげたさが突き抜けるじゃないか。頑張ってしまう。
「…………ハァ」
リューオが出ていって二人きりになると、ユリスは笑顔を一転させ、曇った表情で溜め息を吐いた。
「お茶にしよう。ユリス、ジャムは好きだろう?」
「……うん」
カパッとジャムとクロテッドクリームの瓶を開けて、ユリスのそばに置く。
悩める乙女心は複雑……にしては、悩みが深そうに思える。
ユリスはいつだってユリスであるはずなのに、今は覇気がない。
黙って紅茶を飲む俺を尻目に、ユリスはスコーンにジャムとクリームを塗って、カプリとかじる。
「! まぁまぁだね、悪くないよ」
「ありがとう」
「むぐ。お前はなんでも作れるの?」
「なんでもは作れないが、こっちにきて一年くらい作っているからな……慣れてもくる」
「そんなに経ってたっけ」
ユリスはキョトンとしながら、スコーンをもぐもぐと食べ終える。
口にあったようで嬉しい。
暗かった表情が、少し明るくなった。
よかった。暗い顔は似合わない。
俺はややあってカップを置き、なるべく穏やかにユリスを見つめた。
「リューオが他の人といるのが、嫌だったのか?」
怒っていると思っていたのに、悲しそうだったから、話を自分からしてくれるまで、聞かないでおいたほうがいいかもしれない。
そう思ったが、ユリスは弱った悩みごとはプライドが邪魔してできないタイプ、というのが俺の見解だ。
大きな目を丸くして、少し瞬かせた後、ユリスは俺を見つめ返した。
自分でもよくわかってないのかもしれない。肩をすくめて、口をへの字にする。
「嫌……とかじゃ、ないよ」
「悲しい?」
「あり得ないでしょ」
「イライラする?」
「至極冷静だもん僕は!」
「ん、全部か」
「~~~っ、こういう時ばっかり察しが良くなる! お前のそういうところ、嫌いだっ」
「俺はユリスが好きだぞ」
少し赤くなってツンツンと尖ってみせるユリスが、とてもかわいい。
笑みを深めて好きだと言うと、睨まれた。ツンデレなんだ。
微笑む俺に、ユリスは拗ねるのをやめて、気分を落ち着かせる。
しばし逡巡してから、ぽつりぽつりと胸の内を話し始めた。
「……アイツのこと、よくわからない」
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