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後話 まだまだ、受難体質大河勝流
02
しおりを挟むちなみにデボンシャーティー、又の名をクリームティー。
説明するなら、現代世界でのスコーン、ジャム、クロテッドクリーム、紅茶のティーセットを意味する。
スコーンにクロテッドクリームを塗ってからジャムを塗るか、その逆かは、地域で好みが別れるぞ。
俺はデボンのクロテッドクリーム・オン・ジャムが好きだ。
……閑話休題。
現実から逃げてなんていない。
現実の空気の重さに、口腔がカピカピと喉の乾きを訴えていることも、ないぞ。
「…………」
ロココ調のインテリアで統一された、お姫様が住んでいそうなユリスの部屋。
そこで俺は肩をすくめ、困り顔で両サイドに目線をやる。
右手にアゼルに向ける以外で見たことがないような、ニッコリとした笑顔の犬耳美少年──ユリス。
背後にタスマニアデビルを背負っている。
俺の幻覚だ。
左手にかつてないほど小さくなって、プルプル震えているヤンキー勇者──リューオ。
背後に捨てられた子猫を背負っている。
もちろん俺の幻覚だ。
あぁ、そうとも。
修羅場だとも。
全力で現実逃避がしたくなる。
「──……ということで、アイツは別に俺の女でもなんでもねぇっつーか……やましいことはなにも、断じてねェんだ」
プルプル震えながらも、リューオが長きに渡る弁明を終えた。
ここで初めて話を聞いた俺は状況を理解して、なるほどと頷く。
実のところ、俺はお昼頃に昼食でも食べようかと部屋に戻ろうとしたら、涙目で鬼気迫る勢いのリューオに捕まっただけだったりする。
完全な巻き込まれたモブであった。
話が見えて、よかったぞ。
「俺だけだと扉を開けてくれねぇ……ッ!」と縋られ、気づいたらユリスの部屋を訪ねさせられていたからな。
正直、よくわかっていなかったのだ。
話によると、昨日俺とはぐれていた間にユリス似の魔族を間違って壁ドンしてしまい、そのお詫びに買い物に付き合っていたらしい。
そこを魔導具を買いにやって来たユリスに目撃され、怒らせてしまったということだそうだ。
(あの負けん気の強いオラオラ系バーサーカーのリューオが、こんなにしょぼくれて風声鶴唳としているとは……)
金髪ツンツンの猛虎が、子猫同然の哀愁を醸し出している。
俺はどうにも可哀想になってきて、チラリと黙り込むユリスを伺った。
「ふぅん。それをなんで僕に言うんだろうね。そう思わない?」
ニッコリ。
その笑顔に、ゾクッ、と背筋に冷たいものが走り抜ける。
駄目だ。お怒りでいらっしゃる。
ユリスは怒ると淡々としているのだ。
俺にスウェンマリナで物申した時もこうだったが、今回はそれに満面の笑顔が加算されて、一層恐ろしい。
「ね? シャル」
「そ、その、好きな人に誤解されたくないだろう……?」
「誤解してたとしても、付き合ってもないのに僕が文句を言うのもおかしな話でしょ。例え、あんなに密着する必要性が微塵もない、とか、本当に嫌なら振り払えるんだから満更でもなかったくせに、なに言ってんだか、とか、そう思っていたとしても……ね?」
「う、うう……!」
(ユリス、俺を介して嫌味を言うのはやめてあげてほしい……!)
俺のほうが泣きたくなる案件だ。
直接言われるよりもダメージが大きくて、リューオが燃え尽きかけている。
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