本日のディナーは勇者さんです。

木樫

文字の大きさ
上 下
408 / 901
後話 まだまだ、受難体質大河勝流

02

しおりを挟む


 ちなみにデボンシャーティー、又の名をクリームティー。

 説明するなら、現代世界でのスコーン、ジャム、クロテッドクリーム、紅茶のティーセットを意味する。

 スコーンにクロテッドクリームを塗ってからジャムを塗るか、その逆かは、地域で好みが別れるぞ。

 俺はデボンのクロテッドクリーム・オン・ジャムが好きだ。

 ……閑話休題。
 現実から逃げてなんていない。

 現実の空気の重さに、口腔がカピカピと喉の乾きを訴えていることも、ないぞ。

「…………」

 ロココ調のインテリアで統一された、お姫様が住んでいそうなユリスの部屋。

 そこで俺は肩をすくめ、困り顔で両サイドに目線をやる。

 右手にアゼルに向ける以外で見たことがないような、ニッコリとした笑顔の犬耳美少年──ユリス。

 背後にタスマニアデビルを背負っている。
 俺の幻覚だ。

 左手にかつてないほど小さくなって、プルプル震えているヤンキー勇者──リューオ。

 背後に捨てられた子猫を背負っている。
 もちろん俺の幻覚だ。

 あぁ、そうとも。
 修羅場だとも。

 全力で現実逃避がしたくなる。

「──……ということで、アイツは別に俺の女でもなんでもねぇっつーか……やましいことはなにも、断じてねェんだ」

 プルプル震えながらも、リューオが長きに渡る弁明を終えた。

 ここで初めて話を聞いた俺は状況を理解して、なるほどと頷く。

 実のところ、俺はお昼頃に昼食でも食べようかと部屋に戻ろうとしたら、涙目で鬼気迫る勢いのリューオに捕まっただけだったりする。

 完全な巻き込まれたモブであった。
 話が見えて、よかったぞ。

「俺だけだと扉を開けてくれねぇ……ッ!」と縋られ、気づいたらユリスの部屋を訪ねさせられていたからな。

 正直、よくわかっていなかったのだ。

 話によると、昨日俺とはぐれていた間にユリス似の魔族を間違って壁ドンしてしまい、そのお詫びに買い物に付き合っていたらしい。

 そこを魔導具を買いにやって来たユリスに目撃され、怒らせてしまったということだそうだ。

(あの負けん気の強いオラオラ系バーサーカーのリューオが、こんなにしょぼくれて風声鶴唳ふうせいかくれいとしているとは……)

 金髪ツンツンの猛虎が、子猫同然の哀愁を醸し出している。

 俺はどうにも可哀想になってきて、チラリと黙り込むユリスを伺った。

「ふぅん。それをなんで僕に言うんだろうね。そう思わない?」

 ニッコリ。
 その笑顔に、ゾクッ、と背筋に冷たいものが走り抜ける。

 駄目だ。お怒りでいらっしゃる。
 ユリスは怒ると淡々としているのだ。

 俺にスウェンマリナで物申した時もこうだったが、今回はそれに満面の笑顔が加算されて、一層恐ろしい。

「ね? シャル」
「そ、その、好きな人に誤解されたくないだろう……?」
「誤解してたとしても、付き合ってもないのに僕が文句を言うのもおかしな話でしょ。例え、あんなに密着する必要性が微塵もない、とか、本当に嫌なら振り払えるんだから満更でもなかったくせに、なに言ってんだか、とか、そう思っていたとしても……ね?」
「う、うう……!」

(ユリス、俺を介して嫌味を言うのはやめてあげてほしい……!)

 俺のほうが泣きたくなる案件だ。

 直接言われるよりもダメージが大きくて、リューオが燃え尽きかけている。



しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...