本日のディナーは勇者さんです。

木樫

文字の大きさ
265 / 901
四皿目 絵画王子

23(sideアゼル)

しおりを挟む


「そうかよ」

 悪感情で上の空だったからか思ったより冷たい声が出て、握られた手の力が強くなって苦しくなった。

 傷つけたかもしれない。
 違うのに。俺はお前に冷たくしたいわけじゃない。

 本当はまた結界で閉じ込めたり、したくない。
 だけどどうしようもなく抑えられない汚い感情が、挙動に滲んでしまう。

 まるでうまく他人と接することが出来なかった、あの頃みたいだ。

 どうして、なんで。
 不毛な質問が、口の中で空回る。

「アゼル……」

 思考回路を黒く染めていく俺の名を呼んだのは、酷く弱々しい声だった。

 ハッとして、俺の態度が傷つけてしまったのかと思い、照れ臭いだとか思う余裕なくなるべく優しく抱きしめる。

 けれど力を込め過ぎてしまう気がして、すぐに離れて威圧しないよう、気をつけて声を出した。

「眠いか? 戻ったら、いくらでも部屋でゆっくりしてろ」
「アゼル、キスしてくれないか」

 その言葉に──ビクッ、と、繋いでいない手が震えた。

 懇願するようなシャルの真っ直ぐな視線が、痛くて仕方がない。

 突然こういう頼みを、シャルはたまにする。

 抱きしめてほしい。頭をなでてほしい。そう思ったら素直に告げてくる。

 本人が素直だからというのもあるが、俺が言われないとわからないと知ってるからだ。
 コレもそれの一端だろう。

 でも……キスは、今はしたくない。

 脳裏に蘇るたびに殺意が湧く。
 ボコボコと煮えたぎる独占欲と支配欲。

 アイツの痕跡を消し去る為に、俺は怒りで乱暴に触れてしまうだろう。

 シャルを傷つけないでいることに必死だ。
 余裕なんかない。

 あんなに綺麗な恋の気持ちが、嫉妬と不安が合わさると、どこまでもドス黒くこびりついて逃れられなくなるなんて。

 自分のそんな気持ちを見ないようにして、黙り込み、また歩き出す。

「……悪ィ、気分じゃねぇ」

 自分じゃないみたいに、か細く弱々しい声だった。
 それ程お前の頼みを否定するのは、辛い。苦しい。

 だけど、曇りのないお前への気持ちに、ほんの少しの異物が落ちた。

 波紋の様に薄く薄く広がるシミ。

 アイツを、好かれているからと庇い消されないよう絵画を隠すのに、俺を愛しているという。
 アイツにキスした唇で、俺にキスを強請る。

 矛盾してる。

 心から追い出せと言ったのは、俺から離れるつもりだからか?

 俺に嘘を吐いたのは、もう愛していないからか?

 ギシ、ギシ、ドロ、ドロ。
 痛い。考えたくない。泣きたい。殺したい。消し去りたい。離したくない。痛い、痛い、痛い。

 強い言葉で憎んで怒って、慈悲の欠片もなく本気で消し去ろうとしたくなる。

 叶わないなら、シャルを閉じ込めて縛って二人だけの世界を作ろうと思っている。

 強気に、凶暴に、ごちゃごちゃと御託を並べているように見えるだろう。

 馬鹿らしい。
 他の誰の言葉もどうでもいいのに、お前の言葉は全部俺の奥に届いてしまう。

 虚勢の中の、本当の言葉。

 ──とらないで。
 ──俺からコイツを、とらないで。

 結局俺は、それだけを言い続けてるだけだ。



しおりを挟む
感想 216

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...