上 下
264 / 901
四皿目 絵画王子

22(sideアゼル)

しおりを挟む


 後ろめたさに視線を逸らすと、いつもまっすぐ見つめるお前では不審になるから、じっと目を見つめる。

 わざと当たり障りのないことを言って、否定も言い訳もしない。

 触れることをさせない、嘘の吐き方。

 きっと、裏の感情に疎い俺は、初めてそうされても、なぜそうされているのかわからなかっただろう。

 実際に昔は違和感だけを嗅ぎ取って、バカみたいに困惑しているだけだったんだ。

 以前にされた。
 本気で隠したい嘘を吐く時の……シャルそのものだ。

 そう、嘘の吐き方もまるまるお前。
 さっきのキスは疑う余地のない、お前の秘め事。

 普段のように抱きしめて歩くことなんて、できやしなかった。

 今そんなことしたら、もう二度と腕の中から出してやれない。
 そんな恐ろしい気持ちだ。

 やけに冷えた骨ばった手を掴んで、焦燥感に駆られ早く部屋に閉じ込めようと、強引に手を引き歩く。

 怖い。この手を握りつぶして俺の手と一緒くたにしてやりたい自分が、怖い。

 壁にかかっていただろう絵画について尋ねると、そんな物はなかったと動揺もなく重ねて嘘を吐かれた。

 消えていたならもっと取り乱している。
 行方を知っているから、当然に嘘を吐く。

 言い訳も誤魔化しもしない。
 言及すれば、もっとたくさんの嘘を吐くのだろうか。

 俺の知っているシャルは、傍から見れば馬鹿でしかないような真っ直ぐな男だ。

 他人の嘘にすぐ騙されるのに、他人を騙すことなんて、簡単にできない。

 それでも信じることをやめないし、直線のままぶつかってくる。

 ならば事情があるはずだ。
 そうに決まってる、言えない事情が。

 嘘を吐く事情が。俺以外とキスする事情が。

 あるに決まってる。

 そう信じているのに、問い詰められないのは……怯えているからか。

 この手を離すと言われたら、またお前を酷く傷つけてでも縛り付ける自信がある。

 その代わりに、お前から嫌悪と恐怖の目で見られるんだ。それでもやるだろう。

 ──不安なのか。

 曇り始めた心は、俺の繋いだ手は本当に俺の知るシャルなのかすら、全ての輪郭がふやけて見えた。

「少し歩くのが早い……」
「、ん……悪ィ……」
「っ……いや、いい。大丈夫だ」

 焦るあまり早足になっていた俺を呼び止める声に、必死についてきていたシャルに合わせて速度を緩める。

 隣に立ったシャルは、いつもと同じだ。
 間違いなく俺の愛する人。

 そうだ。
 まだ決めつけるな。
 信じ続けろ。

 事情を話してくれないなら、すぐにでもアイツの正体を調べて俺が知ればいい。

 事情がないなんて、そんなことはありえないだろ?

 他の男を愛したなんて言葉は聞いてない。
 聞いてないんだから、まだお前の気持ちは俺のものだ。

 聞いてない言葉は、聞こえないままでいてもいいじゃないか。

「シャル……今日は、仕事するな。部屋にいろよ。前と同じ結界、張る。……俺はやることがある」
「あぁ、わかった。俺は他に、部屋を出る用事はない。絶対に出ない、絶対だ」

 調べる間いつまたいなくなるのかが不安でそう言うと、シャルはいつもより強く頷いた。
 言葉も強調するように重ねる。

 過剰な束縛を嫌がられないことに安堵する反面、わざわざ強調したのは俺に悟られない為か? と悪い想像が一瞬よぎる。




しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

処理中です...