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四皿目 絵画王子
22(sideアゼル)
しおりを挟む後ろめたさに視線を逸らすと、いつもまっすぐ見つめるお前では不審になるから、じっと目を見つめる。
わざと当たり障りのないことを言って、否定も言い訳もしない。
触れることをさせない、嘘の吐き方。
きっと、裏の感情に疎い俺は、初めてそうされても、なぜそうされているのかわからなかっただろう。
実際に昔は違和感だけを嗅ぎ取って、バカみたいに困惑しているだけだったんだ。
以前にされた。
本気で隠したい嘘を吐く時の……シャルそのものだ。
そう、嘘の吐き方もまるまるお前。
さっきのキスは疑う余地のない、お前の秘め事。
普段のように抱きしめて歩くことなんて、できやしなかった。
今そんなことしたら、もう二度と腕の中から出してやれない。
そんな恐ろしい気持ちだ。
やけに冷えた骨ばった手を掴んで、焦燥感に駆られ早く部屋に閉じ込めようと、強引に手を引き歩く。
怖い。この手を握りつぶして俺の手と一緒くたにしてやりたい自分が、怖い。
壁にかかっていただろう絵画について尋ねると、そんな物はなかったと動揺もなく重ねて嘘を吐かれた。
消えていたならもっと取り乱している。
行方を知っているから、当然に嘘を吐く。
言い訳も誤魔化しもしない。
言及すれば、もっとたくさんの嘘を吐くのだろうか。
俺の知っているシャルは、傍から見れば馬鹿でしかないような真っ直ぐな男だ。
他人の嘘にすぐ騙されるのに、他人を騙すことなんて、簡単にできない。
それでも信じることをやめないし、直線のままぶつかってくる。
ならば事情があるはずだ。
そうに決まってる、言えない事情が。
嘘を吐く事情が。俺以外とキスする事情が。
あるに決まってる。
そう信じているのに、問い詰められないのは……怯えているからか。
この手を離すと言われたら、またお前を酷く傷つけてでも縛り付ける自信がある。
その代わりに、お前から嫌悪と恐怖の目で見られるんだ。それでもやるだろう。
──不安なのか。
曇り始めた心は、俺の繋いだ手は本当に俺の知るシャルなのかすら、全ての輪郭がふやけて見えた。
「少し歩くのが早い……」
「、ん……悪ィ……」
「っ……いや、いい。大丈夫だ」
焦るあまり早足になっていた俺を呼び止める声に、必死についてきていたシャルに合わせて速度を緩める。
隣に立ったシャルは、いつもと同じだ。
間違いなく俺の愛する人。
そうだ。
まだ決めつけるな。
信じ続けろ。
事情を話してくれないなら、すぐにでもアイツの正体を調べて俺が知ればいい。
事情がないなんて、そんなことはありえないだろ?
他の男を愛したなんて言葉は聞いてない。
聞いてないんだから、まだお前の気持ちは俺のものだ。
聞いてない言葉は、聞こえないままでいてもいいじゃないか。
「シャル……今日は、仕事するな。部屋にいろよ。前と同じ結界、張る。……俺はやることがある」
「あぁ、わかった。俺は他に、部屋を出る用事はない。絶対に出ない、絶対だ」
調べる間いつまたいなくなるのかが不安でそう言うと、シャルはいつもより強く頷いた。
言葉も強調するように重ねる。
過剰な束縛を嫌がられないことに安堵する反面、わざわざ強調したのは俺に悟られない為か? と悪い想像が一瞬よぎる。
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